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23.温もり
眩しい……。
目を開けようとしても、開かないどころか、体をぴくりとも動かせない。声を出そうにも、唇も舌も張り付いたように動かない。
私はどうなったのだろう。やはり死んでしまったのだろうか。それとも、今まさに死にゆこうとしているのだろうか。
「……目を覚ましてくれ」
小さく低い声が聞こえた。いつもと違って、心許ない弱々しい声。
「シェリルノーラ」
呼ばれている。
そう感じた時、心が震えた。
ああ、まだ逝くわけにはいかない。
目を覚ましたいのに、やはり体が重くて動かせない。ぴくりとほんの少し右の指が動いた。その瞬間、大きな手に右手を包まれる。硬くて大きくて、温かい手だ。
この手を握り返したい。
腕が持ち上げられ、指先に柔らかな感触。吐息が触れる。
ほんの少しだけ指に力が入る。名前を呼び続けられているのが聞こえる。その声に励まされ、必死に力を込める。
その時、瞳が少しやつれた厳しい顔を映した。
「……だ、…な様…」
ひどく掠れ、声にならない微かな音がもれた。喉はカラカラなのに、涙が一筋流れた。
旦那様はやおら立ち上がり、上体を屈める。その腕に布団の上からきつく抱き締められる。
大きな手が頭の下に回り、胸に押し付けられた。服越しに少し早い鼓動が聞こえる。
熱があるのか体は熱いが、それとは違う温もりに包まれる。帰ってこれたことが嬉しくて、額をその固い胸にぐりぐりと精一杯の弱い力で押し付けた。実際は微かに動いただけだったかもしれない。
さらに強く抱き締められて、苦しい。けれど、力を緩めてほしくない。
小さな咳が出たのをきっかけに、ガバリと体を離された。眉間に皺を寄せた厳しい顔で慌てたように、体を支え水差しから少しずつ、水を飲ませてくれる。
渇いた喉に、沁み入っていく。
ひと息つくと、そのまま背中から抱き締められる。力が入らないので、体を広い胸に預ける格好となる。
「…旦那様?」
今度はやや掠れていたけれど声が出た。
「また、ご迷惑を、お掛けして、申し訳ございません」
旦那様の顔が見えないが、体に回っている腕にそっと触れた。腕を動かすだけでも重く感じた。自分の手なのに、カサついて小さな頃のように痩せて、他人のもののようだった。
一体どれくらい時間が経っているのだろう。
「あなたは、いつも、そうやって……」
絞り出すような硬い声が背後から漏れた。びくりと体が震えた。私の小さな震えを感じたのか、無言でそっとベッドに寝かされた。布団を顎の下まで引き上げられる。
「医師を呼んできます」
それだけ言い置いて、旦那様は部屋から出て行った。
失望して、呆れられたのだろうか?
面倒な妻をもらったと、うんざりされたのだだろうか?
頭が重くぼんやりとしていたけれど、ふとその考えが湧き上がる。王の後ろ楯のあるこの結婚は、きっと離縁したくてもできないはずだ。
私から離れた方が旦那様のためなのだろう。
長い夢を見ていた気がしたけれど、あのまま醒めないほうがよかったのかもしれない。それはそれで自分勝手か……。
やはりこんな私が居場所を求めるのは、分不相応なのかもしれない。
目を開けようとしても、開かないどころか、体をぴくりとも動かせない。声を出そうにも、唇も舌も張り付いたように動かない。
私はどうなったのだろう。やはり死んでしまったのだろうか。それとも、今まさに死にゆこうとしているのだろうか。
「……目を覚ましてくれ」
小さく低い声が聞こえた。いつもと違って、心許ない弱々しい声。
「シェリルノーラ」
呼ばれている。
そう感じた時、心が震えた。
ああ、まだ逝くわけにはいかない。
目を覚ましたいのに、やはり体が重くて動かせない。ぴくりとほんの少し右の指が動いた。その瞬間、大きな手に右手を包まれる。硬くて大きくて、温かい手だ。
この手を握り返したい。
腕が持ち上げられ、指先に柔らかな感触。吐息が触れる。
ほんの少しだけ指に力が入る。名前を呼び続けられているのが聞こえる。その声に励まされ、必死に力を込める。
その時、瞳が少しやつれた厳しい顔を映した。
「……だ、…な様…」
ひどく掠れ、声にならない微かな音がもれた。喉はカラカラなのに、涙が一筋流れた。
旦那様はやおら立ち上がり、上体を屈める。その腕に布団の上からきつく抱き締められる。
大きな手が頭の下に回り、胸に押し付けられた。服越しに少し早い鼓動が聞こえる。
熱があるのか体は熱いが、それとは違う温もりに包まれる。帰ってこれたことが嬉しくて、額をその固い胸にぐりぐりと精一杯の弱い力で押し付けた。実際は微かに動いただけだったかもしれない。
さらに強く抱き締められて、苦しい。けれど、力を緩めてほしくない。
小さな咳が出たのをきっかけに、ガバリと体を離された。眉間に皺を寄せた厳しい顔で慌てたように、体を支え水差しから少しずつ、水を飲ませてくれる。
渇いた喉に、沁み入っていく。
ひと息つくと、そのまま背中から抱き締められる。力が入らないので、体を広い胸に預ける格好となる。
「…旦那様?」
今度はやや掠れていたけれど声が出た。
「また、ご迷惑を、お掛けして、申し訳ございません」
旦那様の顔が見えないが、体に回っている腕にそっと触れた。腕を動かすだけでも重く感じた。自分の手なのに、カサついて小さな頃のように痩せて、他人のもののようだった。
一体どれくらい時間が経っているのだろう。
「あなたは、いつも、そうやって……」
絞り出すような硬い声が背後から漏れた。びくりと体が震えた。私の小さな震えを感じたのか、無言でそっとベッドに寝かされた。布団を顎の下まで引き上げられる。
「医師を呼んできます」
それだけ言い置いて、旦那様は部屋から出て行った。
失望して、呆れられたのだろうか?
面倒な妻をもらったと、うんざりされたのだだろうか?
頭が重くぼんやりとしていたけれど、ふとその考えが湧き上がる。王の後ろ楯のあるこの結婚は、きっと離縁したくてもできないはずだ。
私から離れた方が旦那様のためなのだろう。
長い夢を見ていた気がしたけれど、あのまま醒めないほうがよかったのかもしれない。それはそれで自分勝手か……。
やはりこんな私が居場所を求めるのは、分不相応なのかもしれない。
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