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30.馬場
「そう言えば丁寧なお礼が届いていたけど、その後奥方はどう?」
「まずい」
書類に集中していたが、レイノルドの言葉に、疲れからか思わず咄嗟に本音が漏れた。手を止めて腕を組む。
「ラスティンに今日うちに見舞いに行かせた」
「ぶはっ。何だそれ。あんなにラスティンのこと気にしてたくせに。藁をも縋るって感じ?」
吹き出した後にやにや笑いながら、かわいそうなものを見る目で見られているのを、素知らぬ顔で流しておく。
以前話す時間がほしいと言われていたのに、申し訳ないことに、その望みを叶えられていない。
最近のシェリルノーラは体調は悪くない。しかし、あまり一緒にいられないが、表情は晴れず、何かを憂いでいるような、思い詰めているように感じる。
「体調は随分回復している。しかし、なんだか思い詰めているような感じがするんだ。せめて気兼ねなく話ができる昔馴染みと気分転換でもしてもらえたと思ってな」
「それもいいけどさ。取られちゃったらどうするのー?ちょっ、嘘です。睨まないでください!視線で殺される!」
ちらりと視線を送っただけだ。大袈裟な。
取られるとはなんだ。
「ごめんって。確かに忙しいのは仕方ないけどさ、ちゃんと話したほうがいいんじゃない?会話は夫婦円満の基本でしょ」
そんな会話が交わされていた頃、屋敷に非番のラスティンがシェリルノーラを訪ねていた。
「将軍には許可を得てるから、馬に乗りませんか?」
笑顔で玄関ホールに立つラスティンの突然の提案に、素直に心が沸き立った。ラスティンは馬で来たようだが、軍服ではなく軽装だ。
「いいの?」
「駆け足はダメですが乗るのは大丈夫です。もちろん疲れない程度で」
なぜこんなことをラスティンが言い出したのか分からないが、単純に馬に乗れるのは嬉しい。
急いで靴だけを履き替えて一緒に馬場まで行くと、馬丁が馬たちの世話をしていた。私を見つけてリラが嘶く。
「リラ!」
小走りに駆け寄ると嬉しそうに顔を寄せてくる。散歩の途中で顔を見に寄ることはあっても、こうして乗るのは久しぶりだ。
準備してもらい、早速ラスティンと並んで馬に乗る。姿勢を保つと、筋力が落ちてるのを感じる。そんな私をリラは伺うようにゆっくりと脚を進める。
「懐かしいですね」
「そうだね」
13で領地に戻ってから、両親は心配して止めたが、体力が許す限り剣や乗馬の稽古に励んだ。それ以外の時間は遅れていた勉強に当てていた。
10年近く離れていた故郷は懐かしいとは思えず、両親や弟とも打ち解けられず、どこかよそよそしい関係となっていた。
1人で過ごす時間も多かったそんな頃、ラスティンに出会った。彼の真っ直ぐで屈託のない笑顔には救われたし、同時に嫉妬もした。
そんな私に彼は遠慮なく関わり続けてくれた。
「仕事どう?」
「ようやく半人前から一歩ってくらいですよ。シェリル様から何度も聞かされたせいで、すっかり俺にとっても憧れの人になったワーズナース将軍の隊にようやく入れて、ほんとにこれからって感じ。
ただ、やっぱりすげー厳しくて、めちゃくちゃ怖いんです!あ、将軍には言わないでくださいね」
夢を叶えたラスティンが隣で明るく笑う。最後に会った時よりも一回りは体に厚みが増し、努力していることが分かる。
今まともに戦ったら、私は歯が立たないだろう。
「俺のことはいいんですよ。シェリル様こそどうなんですか?」
「……うーん、迷惑かけてばかりかな」
少し柔らかくなり始めた日差しの下、風が吹いて気持ちいい。誰にも言えない気持ちがハラリと漏れた。
「ほらまた、それ悪い癖。せっかく一緒になれたんだから、もっとちゃんと話をした方が良いと思いますよ。独身の俺が言うのもおかしいけど。
シェリル様のことは、昔も言ったけど弟みたいに思ってて、心配なんですよ」
「ありがとう。でも私もラスのこと、弟みたいに思ってるよ?」
「えー!ひどい!確かにいろいろイタズラしたり失敗したりして、庇ってもらいましたけど。俺の方が年上なのに!」
明るいラスティンの笑い声が響く。彼のあまり身分差を意識しない、裏表のない性格や笑顔にはいつも癒されてきた。それでよく剣の師匠にも叱られていたけれど。
いまだ心配されることは情けないとも思うが、邪気のない昔のまんまの笑顔を見てると気持ちも少し軽くなる。つられて笑いがもれた。
一緒に声をあげて笑ったのは、いつぶりだろう。
これ以上やって体調崩すと物理的にも俺の首が飛ぶと、なぜか怯えるラスティンに終わりにして下さいと頼まれるまで軽く速足でリラを走らせた。
それから東屋で一緒に少し喉を潤して、お許しが出たらまた来ますとラスティンは帰っていった。
「まずい」
書類に集中していたが、レイノルドの言葉に、疲れからか思わず咄嗟に本音が漏れた。手を止めて腕を組む。
「ラスティンに今日うちに見舞いに行かせた」
「ぶはっ。何だそれ。あんなにラスティンのこと気にしてたくせに。藁をも縋るって感じ?」
吹き出した後にやにや笑いながら、かわいそうなものを見る目で見られているのを、素知らぬ顔で流しておく。
以前話す時間がほしいと言われていたのに、申し訳ないことに、その望みを叶えられていない。
最近のシェリルノーラは体調は悪くない。しかし、あまり一緒にいられないが、表情は晴れず、何かを憂いでいるような、思い詰めているように感じる。
「体調は随分回復している。しかし、なんだか思い詰めているような感じがするんだ。せめて気兼ねなく話ができる昔馴染みと気分転換でもしてもらえたと思ってな」
「それもいいけどさ。取られちゃったらどうするのー?ちょっ、嘘です。睨まないでください!視線で殺される!」
ちらりと視線を送っただけだ。大袈裟な。
取られるとはなんだ。
「ごめんって。確かに忙しいのは仕方ないけどさ、ちゃんと話したほうがいいんじゃない?会話は夫婦円満の基本でしょ」
そんな会話が交わされていた頃、屋敷に非番のラスティンがシェリルノーラを訪ねていた。
「将軍には許可を得てるから、馬に乗りませんか?」
笑顔で玄関ホールに立つラスティンの突然の提案に、素直に心が沸き立った。ラスティンは馬で来たようだが、軍服ではなく軽装だ。
「いいの?」
「駆け足はダメですが乗るのは大丈夫です。もちろん疲れない程度で」
なぜこんなことをラスティンが言い出したのか分からないが、単純に馬に乗れるのは嬉しい。
急いで靴だけを履き替えて一緒に馬場まで行くと、馬丁が馬たちの世話をしていた。私を見つけてリラが嘶く。
「リラ!」
小走りに駆け寄ると嬉しそうに顔を寄せてくる。散歩の途中で顔を見に寄ることはあっても、こうして乗るのは久しぶりだ。
準備してもらい、早速ラスティンと並んで馬に乗る。姿勢を保つと、筋力が落ちてるのを感じる。そんな私をリラは伺うようにゆっくりと脚を進める。
「懐かしいですね」
「そうだね」
13で領地に戻ってから、両親は心配して止めたが、体力が許す限り剣や乗馬の稽古に励んだ。それ以外の時間は遅れていた勉強に当てていた。
10年近く離れていた故郷は懐かしいとは思えず、両親や弟とも打ち解けられず、どこかよそよそしい関係となっていた。
1人で過ごす時間も多かったそんな頃、ラスティンに出会った。彼の真っ直ぐで屈託のない笑顔には救われたし、同時に嫉妬もした。
そんな私に彼は遠慮なく関わり続けてくれた。
「仕事どう?」
「ようやく半人前から一歩ってくらいですよ。シェリル様から何度も聞かされたせいで、すっかり俺にとっても憧れの人になったワーズナース将軍の隊にようやく入れて、ほんとにこれからって感じ。
ただ、やっぱりすげー厳しくて、めちゃくちゃ怖いんです!あ、将軍には言わないでくださいね」
夢を叶えたラスティンが隣で明るく笑う。最後に会った時よりも一回りは体に厚みが増し、努力していることが分かる。
今まともに戦ったら、私は歯が立たないだろう。
「俺のことはいいんですよ。シェリル様こそどうなんですか?」
「……うーん、迷惑かけてばかりかな」
少し柔らかくなり始めた日差しの下、風が吹いて気持ちいい。誰にも言えない気持ちがハラリと漏れた。
「ほらまた、それ悪い癖。せっかく一緒になれたんだから、もっとちゃんと話をした方が良いと思いますよ。独身の俺が言うのもおかしいけど。
シェリル様のことは、昔も言ったけど弟みたいに思ってて、心配なんですよ」
「ありがとう。でも私もラスのこと、弟みたいに思ってるよ?」
「えー!ひどい!確かにいろいろイタズラしたり失敗したりして、庇ってもらいましたけど。俺の方が年上なのに!」
明るいラスティンの笑い声が響く。彼のあまり身分差を意識しない、裏表のない性格や笑顔にはいつも癒されてきた。それでよく剣の師匠にも叱られていたけれど。
いまだ心配されることは情けないとも思うが、邪気のない昔のまんまの笑顔を見てると気持ちも少し軽くなる。つられて笑いがもれた。
一緒に声をあげて笑ったのは、いつぶりだろう。
これ以上やって体調崩すと物理的にも俺の首が飛ぶと、なぜか怯えるラスティンに終わりにして下さいと頼まれるまで軽く速足でリラを走らせた。
それから東屋で一緒に少し喉を潤して、お許しが出たらまた来ますとラスティンは帰っていった。
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