将軍の宝玉

なか

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32.結論

   あの日以来、旦那様とはぎすぎすした雰囲気が流れている。

   挨拶と最低限の会話は交わしている。元々忙しく家にいる時間が少ない旦那様とは気持ち的にも距離ができれば、あっという間にほとんど接点がなくなる。

   今では顔を合わせて言葉を交わすのは、朝食と朝の見送りだけだ。それもほんの少しの当たり障りのない会話だけ。夜は遅いことが多いので食事も一緒にできず、迎えもいらないから寝ているようにと言付けられることが多い。


   今までの生活もそうだったではないか。気にかけてくれる人はいたが、いつもどこかひとりだと感じていた。寂しいという感じではなく、それが当たり前だった。
    それなのに、私はここにきて寂しさを知ってしまった。いつの間にか愚かなことに欲張りになってしまっていた。

   でも、今後のことを考えたら、このような生活に慣れていくしかない。

   あれから旦那様の立場も含めて、自分なりにもう一度よく考えた。
   私に出来ること、役に立つことは、例え飾りでも褒美として下賜された王族として将軍の妻でいること。それだけだ。きっとそれが後ろ盾としてこれからの旦那様を護る手のひひとつになるはずだ。
   そのために屋敷の片隅で静かにしていること、体調を崩さないこと、手を煩わせないことを第一に生きてこうと決めた。それでいい。

   小さく鳴き声がして、温かなものが足に触れた。

「ごめん、ミーがいたね。ミーはずっと一緒にいてくれる?」

   まだとても軽いが最初の頃より、かなり大きくなったその白い体を抱き上げる。小さな額をぐりぐりと顎に押し付けてくる。柔らかな毛がくすぐったい。
   涙が溢れそうになるのをぐっと堪える。その旦那様と同じ灰青色の瞳が、何か言いたげに私を見ていた。


   今日はいつになく暑い。  
   時期的には残暑も終わりだというのに、変な気温だった。もう夕暮れなのに少し汗ばむ。
   開け放した窓からバルコニーに出ると、いつも吹いている風も止んでいる。首筋に髪がまとわりついて、少し不快だ。

   そうだ、髪を切ろう。

   元々定期的に切っていたのだが、こちらに来てから体調を崩したりで、一度も整えていなかった。結べる長さがあればいいのだが、すでに髪は腰に届こうとしていた。これでは長すぎぎる。

   髪を切ることはうつうつとしていた中、良い思いつきに思えた。長さのある髪を切るだけなら、人を呼ばなくても大丈夫だろう。

   結んでいた組紐を解くと、ふわりと髪が広がる。部屋でやると散らかしてしまうだろうと、小剣の1つを手に、少し薄暗くなってきたバルコニーに立つ。少剣は先日研いだばかりで、鋭くきらりと光った。

   半分ほどの髪の毛を左手に取り、胸の前に持ってくる。
 そういえば一度、旦那様に触れられたことがあった。私と違って柔らくて美しいですね、と言われて恥ずかしかったことをふと思い出す。
   旦那様みたいなグレーの短髪が男らしくてかっこいいと思ってきたけど、祖母譲りのこの髪くらいは気に入ってくれているのだろうか。

   未練がましい自分の思考にバカバカしくなる。少しザンバラでも結んでしまうし、緩やかなクセのある髪は、そう見られなくはないだろう。握った髪の束の少し上に、その刃を当てる。
   

   ノックの音の後、ドアが開く。剣の柄を握ったままそちらを向くと、いつの間に帰ってきたのだろう、そこには旦那様が立っていた。
   目が合った瞬間、険しい顔で駆け寄られる。

   驚いて固まっていた私から、いつになく乱暴な動きで少剣を奪い取る。反動でふらりと体が傾いだ。その弾みで刃に髪が触れ、はらりと金の髪が薄闇に舞った。

「何をしている!」

   厳しい声で一喝される。キンと剣が落ちる音がした。

   次の瞬間、その広い胸にきつく抱き締められていた。

   

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