拾われた後は

なか

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41.危機 ※

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※暴力的な表現があります。お読みになるかは、自己責任でお願い致します。



   男の爪が当たり、右胸に横に引っ掻き傷ができた。一瞬思考停止していたが、その痛みを自覚して正気に戻る。馬乗りになった男が、気持ち悪い表情で舌舐めずりしていた。悪寒と吐き気が急激に増す。
   もしかして、これ、カツアゲやリンチじゃない。今更だが、状況からそれしか考えられない。

   ズボンに手を掛けられ、右肩を抑えつけている腕に必死に噛み付いた。

「っつ。こいつっ。」

   バシンッ。

   男は手を引いたが、すぐに顔を叩かれる。僕はがむしゃらに暴れたが、大きな体はビクともしない。男ははだけていたシャツを大きく左右に開いた。

「おい、そいつのペンダント、それ。」

「あ?」

   暴れた拍子に、いつもつけているペンダントが揺れ、傍で見ていた男の目に止まったようだった。近付いて来て、鎖を引きちぎり、手に取る。

「ヤベエ。こいつヴァング家のもんだ。まずいぜ。」

「なんだと?」

「返せっ。カ、カイルさんっ、カイルさんっっ!」

   彼の名前を呼ぶ。助けて。助けて。

「カイル?もしかして、あの時一緒にいた男、カイル大佐か?私服だったし、すぐ気絶させられたから分からなかったぜ。マジでヤバイ。逃げようぜ。」

「カイルさんっ、カイルさんっっ。」

   僕は暴れながら、ひたすら名前を呼ぶ。

「うるせぇっ。いくら呼んでも聞こえねよ。くそっ。ここまでやったら同じだ。」

   男は片手で僕の口を塞ぐ。両手を必死で動かし抵抗する。

「お前っバカか!俺は関係ないからな。勝手にしろっ。」



  ペンダントを投げ捨てて、男は慌てて逃げるためにドアを開けた。

「ひぃっ。……グェッ!」

「逃がすと思うか。」

   逃げようとした男が倒れる音がし、僕を抑えつけている男が蒼い顔をして振り向く。僕からは男で見えないけど、聞き慣れた低い声。

「カイルさんっ」

   口を抑えていた手が緩んだ下で、必死に声を出した。

「いつまでそこに居る。」

   つかつかと近付き、地を這うような声でそう言うと男を蹴り飛ばした。剣を抜いて男にピタリと刃先を合わせる。

「殺してやる。」

   空気がビリビリする。本当に命を奪おうとしているのが、わかった。

「カイルさんっ。」
「カイル様!」

   このままではカイルさんが人殺しになってしまう。慌てて起き上がり、名前を呼ぶ。もう一つの声が重なった。

   男はあまりの恐怖に白目をむいて、気を失っていた。

「ちっ。」

 カイルさんは剣を納めると、僕に近付き、そっと体を起こしてくれる。ボロボロの僕を見て、痛々しそうな顔をして、そっと力を加減して抱きしめてくれた。そのぬくもりに力が抜け、安心すると体が震え出した。

「遅くなった。すまない、俺はまたお前を守れなかった。」

「違うんです。僕が悪いんです。」

   あまりに辛そうな声に、胸元から頭を上げた。

「カイルさん……。」

「話は後だ。先に手当てをしよう。」

   僕の言葉を遮り、酷く腫れてきた左頬に優しく手を這わせた。そして、僕の唇に触れるだけのキスをした。

「カイル様、後は私が。ハルカ様を早く。」

「頼んだ。」

   固まる僕を他所に、軍服の上着を脱ぐと頭から掛けて、僕を抱き上げる。
   外に出ると、走ってきた人たちににいくつか指示をして、そのまま広場を後にした。

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