40 / 53
40.決意 ※
しおりを挟む※後半暴力的な表現があります。お読みになるかは、自己責任でお願い致します。
数日かけて皆への手紙を書いた。まだまだ、字も下手だし文章もつたないけど、ひとりひとりに向けて一生懸命、感謝の気持ちを綴った。
カイルさんへの手紙は悩みに悩んで、ひどく素っ気ないものになってしまった。
今日はカイルさんは帰りが遅くなると言っていた。
夕飯の準備を手伝った後、部屋を整えた。マリアさんにはカイルさんが帰ってきてからご飯にするから、それまで呼ばないでとお願いした。これで夜までは僕がいなくなったことに気づかれないはずだ。
掌に収まる位の、小さな毛でつくったボールを大事にポケットに入れた。つけ耳を作った時に残ったものをボール状にしたものだ。これをだけは残していきたくなかった。
裏庭に続くポーチから回って、誰にも見つからないように、こっそり外に出た。
どこに行くか考えていた時に、以前あの女の人が言っていた、教会という言葉を思い出した。
調べてみると、孤児や生活に困った人を保護したりしているらしい。確証はないけれど、教会に行ってお願いして、受け入れてもらおうと考えた。
夜市に行った時、あの広場に面してあった教会を目指す。馬車には乗ったけど、僕の足でも行ける距離だった。
1時間半ほど歩いただろうか、広場が見えて来た。薄暗くなってきた空を見上げると、あの時見たのと同じ、夕焼けが遠くに広がっていた。
自分で決心したのに、隣にいない人のことを思うと泣きそうになる。涙を堪えて、教会を目指してそのまま進む。
「あれぇ、この前の子じゃない。」
小さな路地の方から、声をかけられる。不思議に思ってそちらを見ると、夜市の時に絡まれた男だった。
急いで通り過ぎようとするが、すぐに路地から出てきた男に腕を捕まれた。
「そんなに急いでどこ行くわけ?」
「離してください。」
「そう言わずに、俺らとちょっと遊ぼうよ。ほら、こっち来いよ。」
「離してくださいっ。」
振り払おうとするが、ずるずると引き摺られそうになる。掴まれた腕が痛い。薄暗い路地から、もう一人の男がニヤつきながらこっちを見ている。
夕飯の時間だからか、周りには人がいない。
「僕、お金持ってませんからっ。離してっ。」
「金?そんなのいいから、抵抗すんな。」
もう片方の手で口を塞がれ、どんなに足掻いても、ずるずると路地に引きずり込まれてしまう。もう一人の男にも腕を取られ、どんどん奥の方に連れていかれる。
小さな小屋みたいな建物に放り込まれる。
「痛っ。」
とっさに付いた手が擦りむけ、血が出る。
起き上がって逃げようとするが、左頬に受けた衝撃に斜め後ろに倒れこんだ。
左頬がジンジン熱を持ち、叩かれたのだと分かる。
「お前、顔はやめてあげなよ。かわいい顔が台無しになるじゃねーか。」
「うるせーよ。」
暴力になんて屈したくない。けれど、恐怖で体が竦んだ。何をされるか分からないけど、隙をついて逃げなきゃ。
2人を睨みつける。近付いて来た男が手をあげる。咄嗟に両腕で頭を庇うが、男の手はシャツを掴み、上着諸共、嫌な音を立てて破かれた。
320
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる