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第15話~蒼魔族の女~
しおりを挟む男の心を覗き込むことによって見えたのは、魔族の女だった。微かに青白い肌、口元の硬質で鋭い八重歯は、間違いなく魔族だ。魔族の中でも、鉱物から魔力を摂取する事で生きる蒼魔族だ。
「なぜ、人間の男が魔族の女と?」
確かに、蒼魔族は隔絶の山脈に住む部族も多い。それは、彼らにとって、鉱物が食料になるからだ。そして、蒼魔族は鉱物の加工に関して優れた技術を持っている。
「どうかしたんですか?」
魔王が考え込んでいるのを不審に思ったのか、アンジェが尋ねた。
「この男、どうやら魔族と通じているようだ」
「えぇ! それって大変な事じゃないですか」
魔王は思い出していた。先の人間と魔族の大戦の際、リスタルト王国に強力な武器を持つ一団がいたことを。
「なるほど、蒼魔族の技術を鍛冶に応用していたというわけか。しかし、なぜ人間と魔族が……」
魔王は男に興味を持った。しかし《読心(リード)》で全てを読むことができない以上、直接話してもらうしかない。魔王が思索を巡らしていると、男のうめき声が聞こえた。目を覚ましたのかと見ると、アンジェが男に馬乗りになって、首を絞めていた。
「な、なにをしてる! 殺す気か!」
魔王の言葉に、アンジェが手を離す。
「だ、だって、魔族と通じてるんでしょ。それなら、早めに殺しておかないと」
「お前は、同じ人間同士だろ!」
虫一匹殺せないようなアンジェが、そんな行動に出ることが、魔王にとって驚きだった。
「でも、魔族と魔族に関わる全てを討ち滅ぼさないと、バレンシア神の復活はないと」
「どういう事だ?」
魔王はアンジェに問いただした。中央教会の教えでは、魔族はバレンシア神の復活を妨げる悪しき存在で、北の大地は魔族達が魔力を吸い取った事で不毛の土地と化したとされている。バレンシア神の復活には膨大な魔力が必要だが、魔族達は神の復活を阻止せんがため、南の大地の魔力を奪おうと、戦いをしかけてきている。
「ちょっと待て、その話は順序が逆だ」
北の大地は魔力が少ないことは事実だ。しかし、それは魔族達が吸収したからではない。大地の魔力が少ないからこそ、それに適応したのが魔族だ。大地の恵みが乏しい北の大地では、他の生命から魔力を奪うしか方法がなく、魔族にとって緑豊かな南の大地は憧れであった。
「なるほど、南の大地には、そのような教えが根付いているのか」
長きに渡る魔族と人間の対立の中では、人間達と交渉を望んだ魔王もいたと聞いている。しかし、その結果はどちらともない裏切りにより破綻した。人と魔族は相いれないものとされていたが、それは人間達の信じる教義が原因の一つだと、魔王は知った。
「もしかして教会の教えは、違うのですか?」
魔王の事をバレンシア神の使徒と信じこんでいるアンジェにとって、教会の教えと神の言葉が違うのは驚きだった。
「時代が経つことで、解釈が変化していったのかもしれぬな」
人間達の常識や思考をもっと知る必要があると魔王は思った。しかし、今は、この男から情報を聞き出すほうが優先だった。
「アンジェよ。この男から事情を聞きだすとしよう」
「私がですか?」
「わしは直接会話できぬからな。わしの言う通りに質問すればいい」
「わかりました。……でもぉ」
言いながら、アンジェは腰をもぞもぞさせた。
「私、まだ満足してないんですけどぉ」
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