35 / 46
第35話~タルスとミスティ~
しおりを挟む魔王が蒼魔族の里に辿り着く前。
ピエタの村では神官カリアが、いなくなった二人の女騎士の行方を探していた。
「あれだけ言っておきながら、自分達が姿を消すとは、一体どういう事だ」
カリアは村の男達に捜索の協力を求めたが、多くの男はニヤニヤしながら、首を横に振るだけで、カリアに何も教えてくれなかった。この村で、何かが起きている。そんな予感はするものの、その実態を掴むことはできずにいた。陽も落ち、二人の捜索も諦めて帰ろうとする途中で、大きな荷物を持ったタルスを引き連れたアンジェの姿を見つけた。
「アンジェ!」
「カリア様」
「タルスを連れて、どこに行くつもりだ?」
「えっと、彼が逃げないように隔離しておこうと思いまして」
中々苦しい言い訳だったが、カリアは納得した。
「騎士達の姿が消えた。何か知らないか?」
「いいえ、温泉にご案内してから後は、知りません」
明後日にはリスタルト王国、白の騎士団の本隊が到着する。先遣隊が行方不明だとなれば、何と言われるかわからない。カリアはそれが不安で仕方が無かった。
「とにかく、あの騎士達を見かけたらすぐに知らせてくれ。私も足取りを探してみる」
「わかりました」
カリアは急ぎ足で去っていった。
「あのぉ、騎士様がどうかしたのですか?」
事情のわからないタルスが聞いてくる。
「人の心配より、あなたは自分の心配をしなさい。それより、言われたものは忘れてないわね」
「はい、大丈夫です」
タルスが持つ大きな荷物はは、鉱石を加工するさいに使う道具一式だった。魔王蛇に言われ、アンジェが準備させたものだ。
「あんなに大きな荷物を持ってこさせて、逃がすんじゃなかったんですか?」
アンジェは衣服の中の双頭の蛇に話しかけた。
「いいから、任せておけ。あの道具が役に立つのだ」
ピエタの村を出た一行は、再度坑道へもぐった。タルスの案内で坑道を進む。
「どこまで行くの?」
「この先を抜けたところです」
岩と岩の窪みに人が一人やっと抜けれるほどの隙間が空いていた。そこを抜けると急に空間が開けた。遠くに水の流れる音が聞こえる。地下水脈が流れる空洞だった。
「地下にこんな場所があるなんて」
その光景に感動していると、タルスの名を呼ぶ声が聞こえた。その声にタルスが応える。
「ミスティ、こっちだ!」
走ってやってきたのは、蒼魔族の娘だった。刈り上げた短髪、少しだけ吊り上がった涼しげな目元、引き締まった青白い肌は、一見すると少年のようにも見える。しかし、良く見れば小ぶりながらも突き出た胸と、腰からの下のラインは間違いなく女のそれだった。魔王は一目でミスラの妹に間違いないと確信した。
ミスティは走ってくるとタルスに飛びかかるように抱き着いた。
「よかった。無事だったんだね!」
「その人は、誰?」
「彼女はアンジェ。メリダのシスターだ」
「どうして?」
タルスを差し置き、アンジェがミスティに話しかける。
「ミスリアは、あなたのお兄さんね」
「どうして、人間のあなたが兄の名を?」
さすがに、肉体の関係を持ったあと、操を捧げられたとは言えなかった。
「ちょっとね。あなた達二人の関係を、長に認めさせてあげるわ。だから、里に案内してくれない」
「えっ、そんな事ができるんですか!」
ミスティはアンジェの言葉に目を輝かせた。その横でタルスは目をパチパチしていた。事情が飲み込めていないようだ。しばらくして、その言葉の意味を理解すると「えっー!」と叫び声を上げた。タルスのその声が、地下空洞にこだました。
0
あなたにおすすめの小説
武田義信に転生したので、父親の武田信玄に殺されないように、努力してみた。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
アルファポリス第2回歴史時代小説大賞・読者賞受賞作
原因不明だが、武田義信に生まれ変わってしまった。血も涙もない父親、武田信玄に殺されるなんて真平御免、深く静かに天下統一を目指します。
それは、偽りの姿。冒険者達の物語
しなきしみ
ファンタジー
人間界、魔界、妖精界、天界から成り立つ世界。
主人公は狐の面が印象的な特殊能力、武器を形成し出現させる力を持つ少年です。
ボスモンスター討伐隊の隊長を務めていました。しかし、仲間から信頼や人気を得ていたのは、中性的な見た目を持つ明るく元気な性格の副隊長です。
副隊長の所望するドラゴン討伐のクエストを受けることになった所から物語りは始まります。クエストの最中にドラゴンの攻撃を受けて崖から転落。瀕死だった主人公を女性が見つけて拾います。
この女性は人の姿に擬態することが出来るほど強力な魔力を持つ上級の魔族でした。
魔界を治める魔王様や、妖精界を治める妖精王や、人間界を治める国王など恐ろしい人物であると真しやかに囁かれている人達と出会い主人公は急激にレベルアップを遂げます。
カクヨムにて矛盾の訂正と、見つけた誤字の修正を行いました。アルファポリスも少しずつ矛盾の訂正と誤字脱字の修正を行っていきます。現在、カクヨムが狐面の記憶編の投稿を行っており、最も更新が進んでおります。
下部のフリースペースにカクヨムのURLを張り付けております。
ご迷惑をお掛けして、すみません。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
これは報われない恋だ。
朝陽天満
BL
人気VRMMOゲームランキング上位に長らく君臨する『アナザーディメンションオンライン』通称ADO。15歳からアカウントを取りログインできるそのゲームを、俺も15歳になった瞬間から楽しんでいる。魔王が倒された世界で自由に遊ぼうをコンセプトにしたそのゲームで、俺は今日も素材を集めてNPCと無駄話をし、クエストをこなしていく。でも、俺、ゲームの中である人を好きになっちゃったんだ。その人も熱烈に俺を愛してくれちゃってるんだけど。でも、その恋は絶対に報われない恋だった。
ゲームの中に入りこんじゃった的な話ではありません。ちゃんとログアウトできるしデスゲームでもありません。そして主人公俺Tueeeeもありません。
本編完結しました。他サイトにも掲載中
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
男女比1:50の世界に転生したけど、前世の感覚で普通に接してたら幼馴染も姉妹もお嬢様もみんな沼にハマっていった件 ~ダンジョンにも潜ります〜
ベリーブルー
ファンタジー
男女比1:50――この世界で男は、守られ、大切にされ、穏やかに生きることを求められる存在。
だけど蓮は違った。
前世の記憶を持つ彼には、「男だから」という枷がない。女の子にも男の子にも同じように笑いかけ、距離を詰め、気負いなく手を差し伸べる。本人にとってはただの"普通"。でもこの世界では、その普通が劇薬だった。
幼馴染は気づけば目で追っていた。姉は守りたい感情の正体に戸惑い始めた。名家のお嬢様は、初めて「対等」に扱われたことが忘れられなくなった。
そして蓮はと言えば――。
「ダンジョン潜りてえなあ!」
誰も見たことのない深淵にロマンを見出し、周囲の心配をよそに、未知の世界へ飛び込もうとしている。
自覚なき最強のタラシが、命懸けの冒険と恋の沼を同時に生み出す、現代ダンジョンファンタジー。
カクヨムさんの方で先行公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる