陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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プロローグ 勇者召喚

第七話 姫様と運命と

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 颯太がイヴァンに弟子入りした日の翌日。
 まだ日も登りきっていない早い時間、颯太は城の廊下を闊歩していた。
 「朝にまた、私の研究室においで」とイヴァンに言われたので、ついでに図書館以外の施設や城内の道筋を知っておこうと歩き回っていたのだ。
 だが…

(…ヤバイ…迷った)

 絶賛「迷子の迷子の~♪」状態なのだ。
 この懐かしい歌が颯太の頭の中にエンドレスで流れている。
 元々颯太は方向感覚が鋭く、道に迷うことなどほとんどない。
 なので余計に焦っていた。
 いきなり光に包まれて異世界に飛ばされた時よりも焦っていた。

(…どうしたもんかな…)

 颯太は立ち止まり頭を掻いた。
 この城は彼が思っていたより広く、複雑な作りをしていた。
 多分あっちの世界の、テレビ局とかのゲリラ対策と同じ感じだろう。

(これ住んでる人達迷わないのか?)

 素朴な疑問だが、要は慣れである。
 慣れればそこらへんに飾られている装飾品や窓の配置、鋭い人なんかは光の差し込み方だとか壁のシミとかで道を見分ける。
 だが生憎颯太は昨日初めて、異世界からここに来た人間だ。
 アストレアの部屋まで道案内でも一部の道しか通ってないのに、城全体の道順なんて分かるわけがない。
 でも颯太は一度通った道なら分かるので、Uターンする事は出来る。

(一旦戻ろうかな)

 そう思い踵を返した所で、近くの部屋から会話が聞こえてきた。
 会話の中に聞き覚えのあるものに似ている声が混じっているのに気が付いた颯太は、そっとバレないように声の聞こえる部屋の前に近づいて聞き耳を立てた。

「…です。ここまで理解出来ましたでしょうか?」
「…はい、なんとなくですけど…」
「それでは姫様、また十時頃にお迎えに上がります」
「…分かりました…」

 姫様…アストレアだろうか。
 声が似ているので思わず聞き耳を立ててしまったが、なんとなく声音が違う気がする。
 足音が扉に向かってきたので颯太は音をたてないように扉から離れ、近くの角へ身を潜めた。
 部屋から出て来たのは、颯太達B組メンバーが召喚された時、あの場に居て国の事を話してくれたハゲ…もといミスト卿だった。
 ミスト卿は深い溜息をついて、颯太が居る角とは反対方向へ歩いていった。
 どちらに来るか正直賭けだったが、どうやら成功したようだ。
 颯太は、ミスト卿の背中が完全に見えなくなったタイミングを見計らって、扉の前の廊下に戻った。
 その時、

「お待ち下さいミスト侯爵様!お忘れ物が…」
「あっ」
「えっ?」

 ミスト卿に見つかるのは免れたが、まだ中に残っていた姫様に出くわしてしまった。
 だがそこに居たのは、アストレアではなかった。
 アストレアにもどこか似ているが、金髪にアメジスト色の大きな瞳の、綾乃とはまた違った美少女だった。
 その手には高級そうなハンカチが握りしめられている。
 お互い、突然の見知らぬ人物との遭遇に硬直し沈黙が流れていたが、先にそれを破ったのは少女の方だった。

「……」
「……あの…どちら様でしょうか?」

 その可憐な唇で問われるまで、颯太は驚きで固まってしまっていた。
 グルグルかんがえた結果…

「…ただの…異世界人です…」

 一番無難な事実だけを述べた。
 “異世界人”と言った瞬間、少女は大きな瞳を更に大きく見開いた。

「!では貴方様が…」
「!しっ」
「!?」

 颯太は後ろから近づいてくる気配を察知し、少女が何か言おうと開いた口を素早く手で塞いで彼女が出て来た部屋の中へ入り、扉越しに外の様子を伺った。
 突然の事に少女は何が何だか分からないと困惑し、同時にいきなり男の人に引き寄せられるという初めての経験にドギマギしていた。
 そんな少女の様子に気が付いていない颯太は、外の足音が完全に立ち去るのを確認しホッと肩の力を抜いた。
 暫くして腕の中で見上げてきた少女と目が合って、ようやく突然引っ張り込んでしまったという事実に気が付き慌てて彼女を離す。

「あっ、ごめんなさい!咄嗟に巻き込んでしまって」
「…い、いえ…大丈夫です。どうかされたのですか?」
「ああ、いや…まだ俺達外を出歩いて良いとか言われてないので、見つかったらまずいんですよ」
「そうなのですか?それにしても先程の身のこなし…見事なものでしたね。わたくし全く反応出来ませんでした」
「え、あ、どうも…」

 少女はまだ少し火照った頬で、颯太に柔らかな笑みを向けた。
 颯太から見ても、それはお世辞でも何でもなく素直な称賛だった。
 ミスト卿との会話で、今目の前に居る彼女がもう一人の王女である事は分かっていた。
 アストレアが第一王女だから、さしずめ彼女の妹といった所だろう。
 姉があれだったので妹もそうなのかな、と勘ぐりをしていた颯太は、その笑みを見て良い意味で肩透かしを食らった気分だ。

(…この子はきっと、信用出来る…)

 颯太は少女の雰囲気が、なんとなくイヴァンと似ている気がした。
 相手を利用しようという意思は感じない。
 ただ友好的な立場で居ようという、そんな感じだ。
 颯太は自然に微笑みを返していた。

「ありがとうございます」

 すると彼女はハッとした様子で立ち上がり、真っ赤な顔で今気が付いたようにドレスの裾を持ち上げ礼をした。

「も、申し遅れました!私、エリザベス・フォン・レイドナルクと申します。このレイドナルク王国の第二王女でございます」

 そう言えば、お互い自己紹介もまだだった。
 遅れて気が付いた颯太も少し恥ずかしさに襲われながら立ち上がり、彼女、エリザベスに礼と自己紹介を返した。

「こちらこそ名乗り損じていましたね。俺はソウタ・タチバナです。よろしくお願いします、エリザベス様」
「いえ、気軽にエリザベス…エリーとお呼び下さい」

 アストレアと同じ王女にしては、かなりの好印象だった。
 ゼノスとは違ったフレンドリーな感じに、颯太も少し態度を崩した。

「あ、はい…じゃあ分かりましたエリー様」
「敬称も敬語もいりません。ソウタ様は私と同じ14歳…ですよね?」
「え」
「え?」

 エリザベスは14歳らしい。
 どうやら童顔の颯太も同い年に見えたようだ。
 だが颯太は、16歳だ。

「…俺…16…」
「えっ!?す、すみません!その…あまりにも、お若く見えたので…」

 慌てて弁解しようとしてくるが、颯太は乾いた笑いで返した。

「だ、大丈夫大丈夫…言われ慣れてるから…」
「とてもそうは見えませんが!?」
「…いや…久しぶりだったんで…思ったよりダメージがデカくて…」
「すみませんすみません!!」

 手で顔を覆った颯太の頬に僅かに光るものが流れた。




「本当にすみませんでした!まさかご年齢がニつも上だったなんて!」
「俺童顔だし間違えても仕方ないさ。気にしないで。…なあ、エリーも俺に対して敬称と敬語いらないよ?」
「…しかし…」
「寧ろ使わないでくれると助かる。堅苦しいの俺苦手」

 エリザベスは少し気恥ずかしそうに微笑み、それでも敬語は崩さないまま言葉を返した。

「ではソウタさん、とお呼びさせて頂きます。しかし幼い頃から使ってきたものなので敬語は崩せません。ご了承下さい」
「いいよ別に。様付けは外せたんだし」

 二人はお互いの顔を見合わせ笑いあった。

 このエリザベス・フォン・レイドナルクは、後に最も民に愛された女王として名を馳せる事となる。
 そして颯太にとっても、この世界で最も信頼する仲間の一人との出会いであった。


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