陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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プロローグ 勇者召喚

第十一話 訓練と手加減と

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 高らかに戦闘訓練開始宣言をした男は、とてもガタイが良くいかにも強そうだった。
 その腰には西洋風の大ぶりな剣が携えてある。
 遅刻ギリギリで到着した颯太、綾乃、大輝の三人は怪しまれないようにそっとクラスメイトの輪の中に滑り込んだ。

「俺はこのレイドナルク王国近衛騎士団長のジョンだ!お前らに教えるのは主に剣術!手加減はせんから覚悟しておけ!」

 ガッハッハッ!と笑い飛ばす騎士団長ジョン。
 颯太が抱いた彼への第一印象は、

(…脳筋だな)

 酷いが当たりだ。
 その後ジョンの指示で一人一人の今の能力を見る、という名目で二人組になってそれぞれ模擬戦をする事になった。
 綾乃と大輝の二人は、当然颯太と組みたがったが、颯太は「お前ら相手だと手を抜くことが出来ない」とバッサリ切り捨てて同室の政人の元へ行った。

「政人」
「ん?おお颯太!お前どこ行ってたんだよ!朝起きたら居ないから心配してたんだぞ?」
「悪ぃ、目が覚めたから城内を徘徊してたんだ」
「俺を起こせば良かったじゃん。まあいいや、一緒にやろうぜ」
「そのつもりだ」

 ペアが決まったところから広い場所に出て模擬戦を初めている。
 颯太も政人を連れてそちらに向かった。

「なあ、あれなんだ?」
「…気にしなくて良い」

 綾乃と大輝が恨めしそうに政人を見ている。
 政人は若干引いていたが、颯太は完全にスルーを決め込んだ。
 訓練場の端に置かれていた木刀を二本取って一本を政人に放る。

「サンキュ。じゃあボチボチ始めるか」
「そうだな」

 適当に構えて相対する。
 そこで颯太は、政人の構え方が剣道の基本的な構えに沿った、ちゃんとしたものだったので驚いた。

「政人って剣道やってたのか?」
「え、ああ、うん。小学校までだけど、一応ね。でも中学ではサッカー取ったからそこまでやり込んでたわけでもないけど」
「どのくらい?」
「基礎の基礎まで、かな」

 それ以上は確認しない。
 何度も木刀を縦に振り下ろして他の動作を挟まない所を見ると、やったのは礼儀作法と防具の付け方、面への打ち込みだけだろう。
 颯太が剣を学んでいる事を知らないのに、彼相手に手の内を隠す必要はない筈だ。

(…手加減、出来るかな…)

 颯太は政人の太刀すじを見ながらどの程度まで力を出すか決めかねていた。
 全くの素人ならば相手に合わせるつもりだったが、多少なりでも覚えがあるなら別だ。
 油断して手を抜きすぎると痛い目を見るし、最悪怪我をする。
 政人の力量をしっかり見極めて力を出さないとあちらにも大怪我をさせてしまう可能性がある。

「じゃ、俺から行くぜ!」

 そう言った瞬間、政人は真っ向から突っ込んできた。
 サッカーで鍛えた足があるからか、その飛び出しは良い速度が出ていた。
 そのまま剣道の面の要領で、木刀を上から真っ直ぐ颯太目掛けて振り下ろした。
 颯太にとって、少し剣道に触れて四年もやっていなかった政人の攻撃は、見切ることなぞ容易い。
 今の太刀も、飛び出しから真正面の振り下ろしまではっきりと見えている。
 少し身体の位置をズラせば簡単に避けられるものだったが、颯太は敢えてそれを自分の木刀で受けた。

 カァン!

 小気味良い音が訓練場に鳴り響き、政人の木刀が弾き飛ばされた。

「!?」

 政人は驚愕を顕にしている。
 颯太がその決定的な隙を見逃す筈もなく、無意識の内に木刀の切っ先を政人の首に突きつけようとしていた。

「……!」
(…あっ、やべ…完全に反射で…)

 慌てて木刀を引っ込めて誤魔化す。
 幸い木刀はすぐに引っ込めたので、政人にも周りにも気付かれなかった。

「…いってー!手ぇめっちゃ痺れる!てか木刀何処行った!?」
「あー…大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。しっかり握ってたつもりだったんだけどスッポ抜けたわ。悪いな颯太」
「いや…うん」

 政人の木刀がスッポ抜けたのは、握りが甘かったからではない。
 彼はしっかり握っていたし、打ち込みも力強かった。
 だが颯太がその太刀を受けた時、かなりギリギリのところで判断して木刀を滑り込ませたので、スピードがつき、すり抜けないようかなりの力を入れて止めた。
 その結果政人は、まるで分厚い鋼鉄の塊を打った時のようになり、その反動が直に手に伝わってきたのだ。
 もう少し彼の握力が強く粘られていたら颯太の力に気付けていただろうが、反動に耐えきれずすぐに木刀を手放したので、彼自身に衝撃が伝わったのは一瞬。
 何が起こったかなんて分からない。

「結構飛ばされたな。取ってくるわ」
「…おう」
(この程度なら、佳代かよを相手にしてるのと同じぐらいの力だな。スピードも対して早くはないし…大体一割五分ってとこか)

 政人が飛ばされた木刀を取りに行っている間に、颯太は今回出す力を配分を決めた。
 この位の打ち込みなら、家の道場で毎朝受けている。
 朝稽古の時、兄妹でよく模擬戦をするのだ。
 今の政人の打ち込みは、佳代と同じ位だった。
 基準に出来る人物がいる。
 その人に一から合わせるよりも、似た力量を持っていてよく相手をする人物とやる時の力に設定した方が早いし楽だ。

(ありがとな佳代!俺、お前の兄ちゃんで良かった!)

 これは政人に怪我をさせる確率を大幅に減らしてくれる。
 颯太は今は会えない、遠く異世界に居る妹に最大限の感謝をした。

(…とは言え、佳代に近いのは打ち込みの強さだけだしな…切り返しや咄嗟の対応は多分素人に合わせればいける)

 合わせるのは力だけだ。
 技量や対応力は、当たり前だが佳代の方が上だ。
 少しぐらい周りに意識を割いても大丈夫だろう。
 颯太はそう判断し辺りを見渡した。
 颯太達の近くでは、丁度勇者の三人が模擬戦をしている所だった。
 綾乃も大輝も、物凄く不満そうな表情で良輔と対峙している。
 おおよそ、勇者は他の皆とは違い高いステータスを持っているから同じ勇者同士でやった方が良いだろう、とかの理由で無理矢理組まされたのだろう。
 二人組ではなく三人組になっているが、そこは気にしない。

(おいおい、不満なのは分かるが隠せよ)

 大輝は複雑そうな表情でなんとか隠そうとしているのが見てとれるが、綾乃は微塵も隠そうとはしていない。
 寧ろ「今すぐ変えろチェンジ!」とでも言いたそうな雰囲気を醸し出している。
 颯太は頭を抱えたくなった。

「じゃあ、お手柔らかに頼むよ一宮さん」

 この一言で綾乃の纏う雰囲気が変わった。
 肌がピリピリする感じ…殺気も含まれているようだ。
 大輝はそれを敏感に感じ取ったのか、周りにバレないように、すごすごとギリギリ巻き込まれない所まで引き下がる。
 そんな綾乃の様子にも全く気付いていない良輔は、ある意味天才なのかもしれない。
 機嫌が良いのかニコニコしてる。
 綾乃はそんな良輔の事を、汚物を見るかの様な目で見据えていた。

(そう言えば綾乃の奴、有本嫌いだったな。さしずめ「話しかけんな」とでも思ってんのか?)

 ジョンをはじめクラスメイト達が見守る中、勇者綾乃による模擬戦蹂躙劇が幕を開けようとしている。


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