陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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プロローグ 勇者召喚

第二十四話 才能とダンジョンと②

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 多数の魔物との戦闘の後、騎士達の疲労が酷く暫くその場で休憩となった颯太は、クラスメイトの所へ向かった。
 今回、熟練の騎士達がここまで苦戦することになった原因は、戦闘中に突然魔物の数が増えたからだけではない。

「皆」
「そ、颯太…」
「「「「……」」」」

 魔物が現れたことで腰を抜かし、早々に戦意喪失した彼らは、今回完全な足手まといだった。
 彼らが上手く働いてくれれば、ここまで苦戦することはなかった筈だ。
 政人は立ち直りかけているようだが、その他はまだ震えている。

「この先、こんな事が何度もあるよ。君達は戦える力を持っているのに何故戦わない?」
「…それは…」
「今回苦戦した原因が自分達にあること、分かってるよね?」
「「「「「……」」」」」

 颯太は今まで見せたことのない冷ややかな目で彼らを見下ろした。
 彼らは依然として黙り込んだままだが、彼らの顔色ははっきりと分かる程に青ざめていた。
 颯太の言葉の意図を、理解はしているようだ。
 覚悟は決めていたつもりだ。
 しかしそれは、所詮「つもり」に過ぎなかった。
 今のこの現状を、心のどこかでゲームと同じだと思っていたのだろう。
 今回の戦闘で嫌でも思い知らされた筈だ。
 これは現実なのであって、自分達の住んでいた世界に比べると、人の命は一枚の薄い紙ように軽いという事を。
 颯太はある程度予想していた為、彼らが戦意喪失してもケイトのように動揺はしなかった。
 政人にはそれが悔しかった。
 政人はこの一ヶ月間で、颯太という人間をなんとなく掴みかけていた。
 
 全て分かった上で放置されていたというのはそういう事だろう、と。
 自分自身が気付かなかった覚悟の甘さも見抜かれていた事に、政人は悔しくてしょうがないのだ。

「…ごめん」
「……」
「俺、考えが甘かった。ちゃんと覚悟決めたと思ってたけど、思ってただけだった。さっき魔物見て…めっちゃ情けないけど、竦み上がって、何も出来なかった…」

 政人の声は震えていて、だんだんと小さくなっていった。
 それでも言葉を続ける政人を、颯太はただ見守る。

「……」
「なあ颯太、図々しいとは思うけど…もし良かったら、俺を殴ってくれないか?」

 いきなりの突飛な頼みに颯太は目を見開いた。
 だがすぐに元の冷めた視線に戻り訊き返す。

「…なんで?」
「『しっかりしやがれ馬鹿野郎!』って、喝入れてほしいんだ」

 そう言って見上げてきた瞳には、迷いの色はなかった。
 ダンジョンに入る前の馬車の中で見せた、あのギラギラした目だ。
 颯太はふっと笑って頷き、政人に手招きした。
 政人はスッと立ち上がり、他の四人から離れて颯太から目を逸らさず歯を食いしばった。
 近くで座り込んでいた騎士達が何事かとこちらに注目する中、颯太は政人の頬へ鋭い右ストレートを放った。

 バキッ!

「あ、ヤバ」

 ヒュッ、ドガァァァアアアン‼…ガラガラ…

 颯太がそう呟いた時には、政人の身体は颯太が殴った方向に思い切り吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられた。
 見ていた周りはそのありえない光景に開いた口が塞がらない。

『……( ゚д゚)ポカーン』
「すまん政人!加減間違えた!大丈夫か!」

 慌てた颯太が吹き飛ばされた政人に駆け寄る。
 政人は崩れた壁の瓦礫に埋もれていたがなんとか無事だった。
 颯太はマジックバッグから取り出した下級ポーションを政人に振りかける。

「ぅ……いや…大丈夫、だ。ありがとうな颯太。…ここまで吹っ飛ばされるとは思わなかったけど…」
「いや、ほんとに悪い。手加減するの忘れてた」

(((((((いや、普通手加減しなくても一般人の拳で人は飛ばねーよ)))))))

 周りの七人の心の声が一致した瞬間だった。

「気を付けろよ!下手したら死んでたぞ俺!」

(((((((いやそこじゃない。それもだけどそこじゃない)))))))

 政人の言い分が少しズレていることで、またもや七人から鋭いツッコミが入るが、この一ヶ月で颯太の規格外さを思い知った政人は、彼らの心のツッコミは聞こえない。
 取り敢えず政人は顔、左腕、肋骨二本、背骨の骨折、打撲に無数の切り傷、掠り傷を負ったが下級ポーションと、颯太の陰ながらの聖属性中級魔法【ハイヒール】のおかげで無事である。
 この出来事で、騎士達と他の四人が颯太に対して軽くない恐怖心を抱く事になったのは言うまでもない。




 あの後なんとか立ち直った政人と他四人、猛、朱莉、伊澄、希美は、ケイト達騎士の先導の下、ダンジョン攻略を再開した。
 猛達は颯太の規格外を目の当たりにして、「あ、これに比べたらダンジョンとか魔物とか可愛い方じゃね?」と悟りを開き、次からは自分達も戦闘に参加する決意をしたのだ。
 そして十分もしない内に、また新たな魔物の群れと遭遇した。

「全員戦闘準備!」

 ケイトの掛け声に騎士達と颯太は素早く反応して自分の武器に手をかける。
 少し遅れて政人も猛達四人も身構える。
 現れたのは、ゴブリン十数体とゴブリンに似ているがそれらより一回り大きい魔物。
 ホブゴブリンだ。

「気を付けろ!数はそれ程居ないが、ホブゴブリンはゴブリンより強いぞ!」

 ケイトはそう言いながら一番近くに居たゴブリンを切り払う。
 政人も前に出て果敢に戦っている。
 その姿に看過されたのか、猛も朱莉も少し腰は引けているが戦闘に参加している。
 ナイルは周りへの警戒、フェアンは付与魔法を前衛組にかけてサポートする。
 颯太は付与魔法が使えないので、代わりに最初の戦闘と同じように【ファイアーボール】を待機させて、いつでも飛ばせるようにする。
 伊澄と希美には、フェアンが魔力を温存しておくように指示を出した。
 かなり効率より魔物に対応出来ている。
 ナイルは薄く笑いながらその様子を眺めて思った。

(やっぱりこのパーティーは良い)

 もう誰一人として戦意を失う様子はない。
 それに安心したナイルは、再び周囲への警戒に意識を向けた。



 暫くするとゴブリンの群れはあっという間に全滅し、残りは率いていたホブゴブリンだけとなった。
 その頃には腰が引けていた二人も迷いを振り切り、積極的に攻められている。

「残りはこいつだけだ!気を引き締めてかかれ!」
「「「はい!」」」

 ケイトの的確な指示、まだまだ穴だらけだが良い感じに対応が出来ている政人達。
 ホブゴブリンは、確かに他のゴブリンよりも動きも俊敏で攻撃力も知能も高かったようだが、連携が上手くハマった彼らの敵ではなく、程なくして倒された。

「お、わった…?」
「乗り切れた、のか…?」
「お疲れ!皆よくやった!」

 魔物の襲撃を自分達の力で乗り切れたことに、メンバーの顔に歓喜の色が浮かぶ。
 ケイトも先程の戦闘よりも力量的には大変な筈なのに、今回の戦闘は非常に楽で余力を残して戦えたことに喜んでいるのか、良い笑顔で皆を激励する。

(これで自分達が少しは戦えることを実感しただろう。後は裏方に徹するか)

 皆が戦意喪失してしまった時は、流石の自分でも数で圧倒されてしまうと判断し力を奮っていたが、完全に立ち直った様子の彼らを見て安心した颯太はまた一歩下がった。
 あまり目立たないように、モブの如く。
 かと言って、力を抑えている事は最初の戦闘で騎士達にはバレている。
 颯太もそれは分かっていた。
 だから力を隠していることはバレても、完全に実力を見抜かれるような真似はしなかった。
 例を上げるとすると、どんなに間合いに踏み込まれようと、初級以上の魔法や事前に言っていない属性の魔法を使わなかった事、楽な無詠唱に走らなかった事だろう。

(ケイトさん達には悪いけど、俺の全部は出さないよ)

 どこまでの策士であり続ける颯太だった。

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