陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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閑話

閑話 俺は勇者③

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 暫く呆然としていると、どこからともなくやって来た呆れ顔の康生と英二が、俺の肩に手を置いてきた。

「「ドンマイ」」
「…いや、意味分かんねぇんだけど…てか見てたのか!?どっから!?」
「「そこの角から」」

 二人は同時に、「そうた」君が来たのとは別の曲がり角の突き当りを指さした。
 全く気が付かなかったな…
 だけど、そんな事より…

「なあ二人共、さっき途中で来て江川にハンカチ渡した子、知ってるか?」

 恐る恐る尋ねると、英二が驚く程あっさりした感じで、サラッととんでもない事を聞いてきた。

「何だお前、ついにそっち側に目覚めたのか?」
「そっち側って何だ!?てか知ってんのか!?」

 …そういやこいつの姉ちゃん、日々“腐”という未知の沼を開拓しているとか言う勇敢な女性だったな。
 いつも学校での出来事を延々と取材されるとかボヤいてたっけ。
 まあ、それよりも、だ!

「知ってるんだな!?」
「良輔、マジで言ってんのか?」

 康生が眉根を寄せて「マジかこいつ」みたいな表情をしている。
 すると英二は深い溜息をつき、康生を諭すように言った。

「何言ってんだ。こいつは俺らが教えるまで江川の存在さえも視界に入れなかった奴だぞ?」
「ああ、そっか」

 なら仕方ねぇな、と何やら二人で納得している。
 またもや俺は空気に…

「あいつが立花だよ。立花颯太」
「は?」
「基本三人一緒に居るから有名じゃん」
「あの子がぁ!?」

 あ、男だった。
 でも立花って、いつも下向いてモッサリしてて全然喋らないし、いつも誰に対しても敬語だった…よな?
 全然覚えてないけど…超虚覚うろおぼえだけど…
 さっきの子は美少女…ならぬ美少年だったぞ?
 マジで?

「あの二人の態度見たら分かるだろ。明らかに一宮さんも江川も「颯太」って呼んでたし」
「良輔って本当…自分の目標物しか見えてないよな」
「一宮さんは物じゃないだろ」
「「今そういう正論いらない」」

 語弊がありそうな康生の物言いに訂正を入れると、二人に真顔で返された。

 ええ…いらないって言われても…

「いや、俺らもさっきまで立花の素顔知らなかったけどさ」
「三人の様子みたら分かるよな。名前もはっきり言ってたし」
「ていうか、好きな子の周辺に居る男の事、ライバルの可能性あるのに調べようとはしなかったわけ?」
「ひ、必要ないと思ってたから…」

 俺がそう言うと、二人はポカンと口を開け、暫く固まっていた。
 やがて英二は片手で顔を覆い、康生は白けた目で俺を見てきた。

「どんだけ自信過剰なんだよ…」
「ヤバい…良輔がアホすぎて涙出て来た」
「何でだよ!」

 意味が分からなさ過ぎてどんなに問い詰めても、二人は「お前がアホなのは十分分かったから少しはライバルを警戒してみろ」と言うだけだった。


 そういう訳で、あの後俺は、一宮さんの周りに居た江川と立花のことを少しだけ観察してみた。
 江川は、俺と同じ勇者だけあって剣術も魔法も習得が早くて、それなりの実力を持っていた。
 今でもよくやる模擬戦では、いつも俺の圧勝だけどな!
 でも立花は、剣も魔法も特別強いって訳でも弱いって訳でもない。
 まさに普通って感じ。
 よく分からない奴だな、と思った。
 相変わらず長い前髪で顔を上手く隠しているし、進んで前に出ようとはしない。
 立花が実は美形って知っている人は、どうやらかなり少ないみたいだ。
 多分一宮さんと江川以外は、俺と英二と康生、それと立花が組んでるパーティーのリーダー井口くらい、かな?
 一宮さんは、こんな普通の奴のどこに惹かれたんだ?
 分かんない奴をずっと観察するのも飽きてきたし、もう良いかなってことで、俺は早々に立花への詮索を諦めた。




 今日はこの世界来て初めてのダンジョン。
 俺は自分の気持ちが、今まで以上に昂ぶっているのが分かる。
 もしかしたら今日一日で攻略出来るかも。
 そんな考えは、すぐに壊されたけど。

「勇者様!そっちに三体程行きました!」
「任せろ!っおりゃあ!」

 最初は、剣を扱う事に慣れていない村人でも倒せると言われる、ゴブリンの群れと遭遇した。
 結構な数居たけど、楽勝だった。
 一宮さんも江川も、難なく多数のゴブリンを相手取っていた。
 けど、少し奥の方へ進むと、一筋縄じゃいかなくなってきた。
 普通のゴブリンより少し大きめのゴブリンに、なんか杖を持っていて魔法を飛ばしてくるゴブリン、ジョンさんみたいに大きな身体で両手剣を振るってくるゴブリンなどに次々に遭遇したのだ。
 流石の俺達でも、全部倒し切るまでにはヘバッてしまった。
 ジョンさんが頃合いを見て引き上げると言っていた事に、不満を言う気力さえなかった。


 皆より一足先に城に戻って王様に今回の事を報告していると、何やら何人かの足音が聞こえてきて王様の言葉を遮って、大広間に無断で入って来た。

「ではこれからも…「江川!一宮さん!」

 驚いて思わず振り向く。
 入って来たのは全員、見覚えのある奴らばかりだった。

 立花のパーティーメンバーだ。
 あれ?立花、居なくね?

 周りが呆然と見守る中、井口を筆頭とした五人はすぐさま一宮さん達に駆け寄ってきた。

「大変なんだ!」
「井口君…と杉田君…平さん達まで…」
「ど、どうしたんだ?」

 二人も相当驚いたようで言葉に詰まっている。
 でも次の、息をどうにか整えながら、井口が伝えた事は、二人の顔色を一瞬にして白に変えた。

「はぁ…はぁ…ダン、ジョン…で…颯太が行方不明になった…!」

 行方不明?
 立花が?

「…マジかよ…」

 無意識に呟いていた言葉は、誰の耳にも届かない。
 空中に弱々しく漂って消えた。
 関わりのほとんどない俺でもショックだった。
 遠目でも二人の表情が凍りついているのが分かる。

「颯太が…?行方不明…?どこで…?」

 江川の声が震えている。
 平が強い口調で「ダンジョンや!」と繰り返していたが、彼女の声も微かに震えている。

 カシャン

 崩れるようにしてへたり込む一宮さん。
 その音に反応して、江川を含めた六人が一斉に注目する。

「…颯太が…?…嘘…嘘よ…」
「綾乃?」

 江川の呼びかけに応じないで、今度はフラフラと立ち上がって大広間を出ようとする。
 そんな一宮さんの腕を掴んで、平が引き留めようとするけど、彼女はそれに抵抗して大広間を出て行こうとする。
 それでもフラフラの状態では限界が早くて、すぐにまた崩れるように座り込んでしまった。
 彼女は、俺が見た事もない顔で、俺が聞いた事もない声で、泣き叫んだ。
 しばらくすると一宮さんは力尽きたのか、意識を失って倒れてしまった。
 平達が慌てて彼女を抱え起こして、近くに居た女騎士さんに部屋への案内を頼んでいるのを、俺はボーッと眺めていた。
 いつ命を失ってもおかしくない。
 ここはそういう世界だって、今更思い知った気がする。
 死んだ立花には悪いけど、それを教えてくれた事に感謝してる。
 俺は決めた。

 俺は勇者として一宮さんの笑顔を守りたい。
 ……俺には見せてくれたことないけど。

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