陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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第一章 冒険者

第十話 洋服と会話と

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 まだ太陽も昇りきっておらず薄暗い状態の部屋の中、ベッドで安らかに眠っていたシエルは隣から聞こえる微かな音で目を覚ました。
 微かに身動きをし、ゆっくりとその大きな空色の瞳を開けたシエルは、ぼんやりする頭で身体を動かして上半身を起こす。

 隣のベッドに目を向けると、自分よりも早い時間に起きてどこかに行っていたのか…颯太が汗びっしょりのシャツを脱いで、手ぬぐいで自分の体を拭いているところだった。

「…ああ、シエル。起きたのか」

 おはよう、と言って振り返りながら笑いかけてくる颯太を見て、ああ夢じゃなかったと安堵するシエル。

「おはよ…お兄、ちゃん」
「ん、おはよ」

 颯太はシエルが起き上がるのを見て、湯桶の中に手ぬぐいを入れて着替え、立ち上がった。
 そのまま部屋を出て行こうとする颯太を、シエルは慌てて呼び止める。

「ど、こ、行くの?」
「ん?ああ、この湯桶と手ぬぐい返してくる。その間に、そこに置いてある服に着替えな。ミーナがシエルにって貸してくれたんだ」

 後で一緒にお礼言いに行こうな、と言い残して、颯太は部屋を出て行った。

 残されたシエルは、言われた通り枕元に置いてあった淡い水色の質素なワンピースを手に取る。

(…本当に、良いのかなぁ…)

 このワンピースは古着の筈なのだが、きちんと清潔な状態で保管されていたことが見て取れる。

 対してシエルが今まで着ていた服といえば、服らしい服といえる物ではなかった。
 そこら辺に落ちていたボロ布をどうにか加工してそれっぽく見せたものか、見知らぬ誰かが着倒してボロボロになったものをごみ捨て場から取ってきたものかだったのだ。

 綺麗な状態のワンピースを、本当に自分なんかが着て良いのかシエルが測りかねていた時、遠慮がちに部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

 驚いて顔を上げるシエルだったが、恐怖と緊張で声が出なかった。
 一瞬颯太が戻ってきたのかとも思ったが、扉が開けられていない為顔が見えず誰だが分からない。
 村の人達?もしや、自分を奴隷にしようとしていたあの奴隷商人かも…など、ありえない筈なのに彼女の頭の中には悪い予感ばかりが過る。

 どうにか自身を叱咤し、強張る喉を震わせた。

「…だ、誰、ですか…?」

 必死に絞り出した声は弱々しく、扉の外に聞こえているかも怪しいものだったが、向こう側に居た人物にはしっかり届いていたようで、苦笑混じりの返事する。

「…驚かせてごめんなさい。ミーナよ。服のサイズ合ってたか確認しようと思って。入っても良いかしら?」

 みーな。
 宿屋の娘さん。
 昨日お兄ちゃんが助けた。
 この服の持ち主。
 貸してくれた親切な人。

 シエルは、今思いつく限りのミーナの情報を頭に並べる。
 この人は大丈夫だと、自分に言い聞かせるのだ。

「…はい…どう、ぞ…」

 一時の間を置いて、ミーナが遠慮がちに扉を開けて中に入ってきた。

「えぇっと…失礼しまーす」

 入ってすぐ、彼女はシエルの表情を見てその中に怯えの色が混じっているのを、敏感に感じ取った。
 これ以上怯えさせないように、萎縮させないように、ミーナはふんわりとした微笑みを浮かべてゆっくりとシエルに歩み寄り、彼女の目線に合わせて膝を折る。

「おはよう、シエルちゃん」
「…お、はよう、ござい、ます…」
「昨日はよく眠れた?うちのベッド、宿屋にしては硬いってよく言われるんだけど」
「…はい…」
「……」
「……」

 どうにも会話が長続きせず流れる沈黙。

 宿の看板娘として、それなりのコミュニケーション能力は持っているミーナだったが、相手が話に乗ってこないとそれも発揮できない。
 シエルは最低限の受け答えだけしか返さなかったが、彼女は口下手というより今まで暮らしていた環境の影響で、人同士という対等な立場での会話の経験は皆無だ。
 相手が颯太ならまた話は別だったが、今の彼女にはこれが精一杯なのだった。

 どうしようか悩んだミーナは、ふと、シエルが未だ胸に抱えたまま袖を通そうとしない自分のお下がりのワンピースを目に留めた。

「…それ…気に入らなかった?」
「ぇ…」
「結構古いもんねぇ、それ。他の持ってこようか?」

 そう言って、この気まずい空間から出ようと踵を返そうとするミーナを、シエルは慌てて引き止めた。

「ま、待って!」
「わっ!」

 突然エプロンの紐を引っ張られ、ミーナが驚いた様子で振り返ると、そこには必死で何かを伝えようとして口籠るシエルの姿があった。

「ぇ、っと…その…」
(…確かソータさんが、シエルちゃんは人見知りって言ってた、よね?)

 でも悪い子じゃないから、あの子の中で言葉が纏まるまで待ってあげてね、と今朝優しそうな微笑みを浮かべていた颯太の顔を思い出し、ミーナはまたシエルに向き直って言葉の一つ一つを丁寧に、諭すように言う。

「ゆっくりで良いよ。待ってるからね」
「ぁ…は、い…」

 そう言われてシエルもいくらか落ち着いてきたのか、すっと息を吐き、ゆっくりと言葉の一つ一つを大切に紡ぎ出した。

「お、お洋服、嬉しかった、です!ありがとう、ござい、ます!……本当、に、私が、着ても、良いんですか?」

 不安がる様子のシエルに、ミーナは小首を傾げながら軽く返す。

「勿論よ?シエルちゃんの瞳の色と合うと思ってそれにしたの。流石にぴったり同じ色じゃないけどね」

 そういうとミーナは、そっとシエルの頭に手を置いてゆっくりと優しく、彼女を撫でた。

「本当に綺麗。私、その色好きなの」

 シエルは驚き、カミカミながらもお礼を述べる。
 まさか瞳の色を褒められるとは思っていなかったのだ。

 村の人達には気持ち悪いとも言われた。
 でも、自分の名前の由来になった。

(…綺麗、なんだ…)

 シエルは颯太に名前を貰った時、何故その名前にしたかは聞いていない。
 自分を表すものができたことが嬉しくて、考えてもいなかった。
 つまり、はっきりとした言葉で瞳の色を褒められたのはこれが初めてなのだ。
 ミーナの言葉が、自身に対しての賛辞であると理解した瞬間、シエルは茹でだこのように頬を赤くした。

「あ、あの…」
「?」
「…ありが、とう、ござい、ます…」

 シエルは真っ赤な顔で、消え入りそうな声ではあるがしっかりとしたお礼の言葉を口にする。
 ミーナは少し驚いたように目を見開いたが、またふんわりとした微笑みを浮かべた。
 しかしそれは、シエルに話しかけた際に浮かべた、相手を安心させる為の笑みではなく、この何ともいじらしく可愛らしい少女への慈愛に満ちた笑みであった。

「ええ。どういたしまして!」

 そして、優しい手付きでシエルの頭を撫でる。

(私の古着、まだ綺麗なやつ他にもあったかなぁ?)

 突然の不慣れな状況に困惑している様子のシエルを見つめながら、ミーナはこんなことを考えていた。


_____________________


 読者の皆様、本当にお久しぶりです!
 今回の話、いつもより大分短くてごめんない!

 もう一つ、私が投稿している話はちょっと前からちょくちょく更新できていたのに、こっちは、前回の更新から大体一年ぶりでしょうか?全然進められませんでした…(汗)
 楽しみにしてくださっていた方には凄く申し訳ないです(泣)…ごめんなさい!

 しかし、恐らくこれからも更新頻度は安定しないと思われます。
 ほんと去年は多忙で、今年もまだまだ忙しない日が続きます。
 何卒、ご容赦ください。

 それでも私の小説を読んでくださっている皆様には感謝してもしきれません!
 本当にありがとうございます!
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