『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
1 / 140

第1話 私の歌を……きけぇ!

しおりを挟む
「なに!? 何が起こったの!? っていうかここどこぉ~!?」

 私、井伊谷いいのや雲母きららは数秒前まで部屋で非常食のカロリーメイトを齧りながらパソコンの操作をしていたはずだ。

 なのに今いるのはどう見ても森の中。

 ついでに周りには私の部屋に在った物が色々散らばっている。

 あ、お宝の薄い本(男の子と男の子がくんずほぐれつするとっても清い本)だ! あれが地面に直接落ちるとかダメだって!

 ……ふう、よかった汚れてない……じゃないの! 今はそれどころじゃないの! しっかりしろ、私。

 えっと確か太陽のある方が南……って方角分かっても意味ないの! ここがどこか分かんないと……。

「誰か居ませんか~! だれかぁ~~!!」

 歌ってみたなんていう動画をちょくちょく上げているだけあって、私の声量はなかなか大きい。

 その声がだれか~、だれか~……と木霊したが……何の反応も返ってこなかった。残念ながら周りに人は居ないらしい。

 まあ、お宝を抱きしめた状態で発見されても困る気がするけど。

「どうしよ……」

 私はため息をつきながら、再度周囲を見回す。

 ……木ばっか……。

「よし、仕方ない。移動しよう」

 何があったかちっともわからないけど、このままここに居ても解決するはずはない。ならこちらから出向いて人に助けてもらおう。

 もしかしたらこれはテレビの企画で、急に放り出された私がどうするかな~んて内容で、周囲にはこっそりカメラマンとかが居て撮影してるかもしれないし。

 まあ、私がいきなりそんな事になる理由が分からないけど。

 まずは出来る事から始めようっと。私の荷物をかき集めて……って。

「うわ~、入れる物コスプレ用のランドセルしかない……。完全に不審者だよ……」

 私は自慢じゃないがすこぶる付きで背が低い。しかも童顔で、友達からは高校生に見えな~い。犯罪臭がする~。なんて言われるほど子供っぽい顔つきをしている。胸もぺったんたんというかまな板とか壁ってレベルだし。

 ……うん、凹んで来た……。母さん恨むから、じゃなくて恨んでるからね。絶対遺伝だよ、コレ。

 とにかくそんな私でもさすがにランドセルを背負ったら、違和感バリバリなはずだ。これはなるべく背負いたくないな……。

「なぁ~んて思っていた時期が私にもありました」

 あらかた荷物をかき集めてランドセルに無理やり突っ込んで、手鏡で自分を見つめてみたら……。

「本物の小学生に見える……」

 身長、百四十無いもんね……。ホントに十六歳かな、私……。調子に乗ってツインテールにしてみたら……。感想持っちゃダメな気がする。

 落ち込んでいても仕方ないぞ。不審者に思われない。良い様に考えればいいんだ。よっし行こう!

 私は自分に気合を入れると、山道を歩きだした。






「足痛い……」

 十分でギブアップしました。

 というか靴欲しいよぉ。ニーソックス一枚、ほぼ裸足のままで山道歩くのキツイ……。

 生粋のもやしっ娘と自室警備員を自称する私にとってはもはや拷問に近かった。

「だれか~」

 佇んだままそう叫んでみても、応えてくれるのは返って来た私の声だけだ。

 うぅ、本格的に心細くなってきた……。私死ぬのかな……?

「ダメダメ、もうちょっとがんばろ」

 私は折れそうになる心を自分で励ます。

 大丈夫、荷物の中にミネラルウォーターのボトルが三本あったし、カロリーメイトも五箱ある。手回しラジオ(拾ったときに確認したけど電波は入らなかった)もあって、これはライトにもなる。大丈夫。数日は生き延びられる。

「もうちょっと進んでもっかいラジオを確認しよ」

 私は不安な心をごまかすために、わざと声に出してそう言うと、再び歩き始めた。





 もう三十分ぐらいは進んだだろうか。本当に足の裏がヤバくなってきた。というか、ちょっと出血してる。

 うぅ、ケチらないでコスプレ衣装を足に巻いて即席の靴にした方が良かったかも……。

「そろそろ電波入るかな……」

 私はラジオをランドセルから取り出そうとしたが、もし入らなかったら、なんて疑念が私の手をためらわせる。

 結局、私はもう少し歩くことに……。

「あれ?」

 木々の間に、何か人工物的な物が見えた気がする。

 目を凝らしながら体を左右に振って、なんとかして見ようと努力を続けた結果。

「もしかして……家!?」

 ログハウスっぽい家の一部が確認できた。

 コケとか生えてて相当ボロいみたいだけど、一応家なのは間違いない。

「やった!」

 これで助かる、かどうかは分からないけど、道が開けたのは確かだ。

 人が居なくてもこの森を出る方法が分かるかもしれないし。

「急ご」

 私は痛む足を引きずりながら家に向かって必死に歩いた。



「すみませ~ん」

 たどり着いた家は、本当にボロボロで、人の住んでいる気配なんて欠片も無かった。

 屋根の半分以上がコケで真緑になっている。相当長い年月放置されているのだろう。

 ちょっとがっかりしたが、それでもここにログハウスを建てたってことは、重機や人がここまで来られるってことだ。結構人里は近いはず。

「この家で地図でも見つかればいいんだけど……」

 そう呟きながら、ドアをノックする。もちろん返答は無かった。

 予想通り無人みたい。なら悪いけど入っちゃおう。

 持ち主さん、ごめんなさい。

「おじゃましま~す」

 とりあえず控えめに断りながら扉を開け……。

「あ゛」

 中に居た人たちと目が合ってしまった。

 この人たちが普通の人ならきっと私も助けを求めただろう。でも明らかに違った。

 中に居る人たちは、映画の騎士が着ている様な西洋甲冑を身に纏い、ところどころに傷を作ってそこから血を流している上、殺気立った目で私を睨んでいた。

 もう、殺す気満々で剣を抜いて構えている男の人までいる。

「し、失礼しました~」

 見なかったことにしよう。

 愛想笑いを浮かべながら、私はパタリとドアを閉じた。が。

「×〇〇~~△△~!」

 何かわけの分からない言葉で騒ぎ立てながら、男の人たちが飛び出してくる。

 ですよねぇ!!

 私はくるりと回れ右をすると、駆けだそうとして……。

「つっ!」

 この足で走れるわけもなく、騎士の人たちに組み付かれてしまった。

「待って! 私が騎士の人に組み付かれても嬉しくない! 止めて! 男の人は男の人同士で抱き合うのが平和だよ、ね、そうしよ!? そうしたら私も嬉しいから!」

 混乱した私はちょっと違う意味で危険な事を口走ってしまったかもしれない。

 うん、まだ私は腐りきってないからね? ちょっとだけそういう本をたしなむだけ……。

 というか男の人たちはさっきから訳の分からない言葉で話をしていて……響き的にはドイツ……フランスでもないし……なんだろ? ラテン語とかかな?

 なんてのんきに考えている暇などなく、私は騎士たちの手で拘束されるとログハウスの中に引きずり込まれてしまった。

 一瞬身の危険を感じたが、騎士さん達は、私を拘束している人を除いて真剣な顔で議論していて、とてもそういう雰囲気じゃなかった。

 ちらりと周囲を盗み見たが、人数は八人。ちょっとカッコイイ感じのする騎士、老骨な武人然とした騎士、そしてなんか有象無象(キョロキョロしたら怒られるから仕方ない)の騎士が六人だ。

 ……この状況、なんとなく察するに、落ち武者ならぬ落ち騎士たちが山小屋に隠れていて、そこに私が来ちゃった、的な感じだろうか。

 うわぁ、テレビの企画臭い……。色んな外人の役者さん使ってるし、特殊メイクとか小道具とかよくできてるけど、つまりそういう事でしょ? こんな事されて信じ込んでる私をお茶の間の笑いものにするわけだ。

 そう気づいたらなんか腹が立ってきた。カメラ何処だろ?

「……さすがに素人が発見できるわけないか」

 キョロキョロしていたら、私の事を捕まえてる騎士さんに怒られてしまった。

 ああ、やっぱりカメラを見つけられたら困るのね、了解。

 ようやく決まったのか、歳を取った巌の様な大柄な男が腰の剣を握って歩み寄ってくる。

 それをちょっとカッコイイ金髪の似合う、若い騎士が何事か言って留めているのだが……。

 大方、若い騎士だけが私を殺すことに反対して、それ以外は口封じすべきだ、とか言っている設定なのだろう。カッコイイ人を擁護役にするとかますますテレビの企画臭い。

 さて、どうしようか。私はこのまま為すがままにされて、脅されてパニックになる。そして泣きわめく私の前で最終的にネタバラし。それがきっと用意された筋書きだろう。

 ……決めた。それを壊してやる。

 とは言ってもどうしようかな。私に出来る事なんてそんなにないし……。

「……あ」

 良い事考えた。どうせだから私の動画の宣伝しちゃえ。それでウィンウィンになる。

 そして、私は大きく深呼吸をした。

 この状況で歌うのは初めての事だから緊張する。

 いつも通りカメラの前で歌う事に変わりはない。ただ見ている人数が、動画とは段違いなだけ。

 私の動画は一曲につき百再生行くかどうかだった。とってもきれいな声ですねとか、歌うまいですね、なんて感想がついて嬉しかったが、そこから大きく再生数が増える事は無かった。

 顔出しとかコスプレとか考えてみたけど、結局踏ん切りがつかずにやれなかった。

 いい機会だからそんなのとはおさらばしよう。

 私は歌うんだ。だって……。

「歌が大好きだから」



フリーツール、キャラッとで作成した主人公です
イメージの一助となれば幸いです
また、今後出て来たアニソンのURLや解説などを近況ボードで行う予定です
どうぞそちらもよろしくお願いいたします
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております

さくら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。 深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。 しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!? 毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。 「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。 けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。 「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」 血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。 やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。 社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。 ――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...