『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第121話 サプライズ

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 歌い終わった私はずっと私を抱き上げて歌に聞き入っていたグラジオスを見下ろす。

 普段見下ろされるばかりなので、上から見る景色はちょっとだけ新鮮だ。

 グラジオスの金色の髪が陽光の中を金糸のごとくたなびいている。その中に私は手を突っ込むと、わざとぐちゃぐちゃっとかき混ぜてみた。

「どうだった?」

「俺がお前の歌に不満を持ったことがあったか?」

 もうっ、質問を質問で返すなっ。またそういう事言ってぇ……。

 え~っと、と私は記憶の中のグラジオスを探っていき、随分昔の記憶を無理やりひねり出すことに成功した。

「……最初会った時不満そうだった」

「……あれは嫉妬だ。気にするな」

 グラジオスはずいぶんあっさりと認めてしまう。

 もうちょっと何か反論してくれないとこちらとしては少々拍子抜けの感がある。

 ひねくれてた頃は素直じゃないっていつも腹立たしかったけれど、素直になったら素直になったでなんか物足りない。

「グラジオスが素直になるなんて可愛くない! ひねくれてたあの頃を返して!」

「……お前は何を言っているんだ」

 あ、今のはちょっとひねくれてた頃っぽかった。

 あの頃の方が、距離感がちょうどいいというかなんというか、今はガンガン傍に来られて戸惑っちゃうというか恥ずかしいというか……。

 うぅ~……とにかく今はどうしていいか分かんないのぉ。

「とにかく今のグラジオスは私にアプローチ掛け過ぎなのぉ。お願い、もうちょっと待ってぇ」

「待たない」

「こんな時だけひねくれるなぁっ。もー、ゆーこと聞けぇ」

 私は抗議の意味をこめてグーを作るとグラジオスの頭を軽くぽかぽかと殴ったのだが、グラジオスは楽しそうに笑うだけで全く意に介した様子はない。

 これじゃ私だけがパニクってるみたいじゃないのぉ。

 私だけに恥ずかしい想いさせてぇ。

 いいもんいいもん、復讐してやる。

 え~っと、こうなれば……。

「グラジオス、抱いたままでいいからちょっと下げて」

「ん? いいぞ」

 グラジオスは私の足を抱きかかえ、左肩に私を座らせるようにしていたのだが、それを折り曲げた腕で抱える様にしてもらう。

 これで私の視線がグラジオスと同じくらいの高さになる。

 私の狙い通りに。

「ありがと」

 このお礼は皮肉のつもりだ。

 私はグラジオスの額の髪を持ちあげると、露出したおでこにキスをしてやった。

 ふふふ、この衆人環視の中でこんな事をやられたグラジオスは絶対恥ずかしがるはず。私の想いをグラジオスも味わってみるがいい。

 思った通りグラジオスは真っ赤になり、周囲の兵士たちは口々に囃し立てる。

 グラジオスは間違いなく羞恥の極みに……。

「雲母、お返しだ」

「ひゃいっ?」

 ほっぺに……今ほっぺにちゅって……あわわわ、なにぃ? なんなのぉ?

 なんで恥ずかしがってないのぉ!?

 やめてぇ、みんな口笛とか吹かないでぇ!! ひゅーひゅーとか言わないで!!

 そんなんじゃないっ。そんなんじゃないのぉっ。なんでこうなるのぉ?

 こんなはずじゃなかったのにぃ。グラジオスが恥ずかしがって……私が余裕でそれを見下ろしてっていうのが正しい反応でしょぉ~。

 なんでグラジオスはこんなに余裕そうにしてられるの?

 やだやだ、顔熱いよぉ。どうすればいいの? どうしたらいいの?

 お願いグラジオス、私を隠してよ。

 そんなに大きいんだから私一人くらい余裕でしょ。

「ん? 抱きしめていいのか?」

 違う違う違うってあああぁぁぁ~~!!

 わざとやってる? わざとやってるでしょ!?

 私の心臓を破裂させて殺す気なんだ。グラジオスのばかぁ!

 も~~……あ、あったかい。

 ちょっと安心する、えへへ……じゃないのっ! 私しっかりしろぉ!

「き、今日はもう終わりっ。だめっ、限界なのっ。帰るっ」

 私はグラジオスの腕から逃れようともがき始めた。

 そんな私の内心などいざ知らず、グラジオスは私を宥めつつ離してくれないどころか更に強い力で抱きしめて来る。

「待て、雲母。まだ話が残ってるんだ」

「やーもー帰るっ。私部屋に引きこもるのっ。みんなに顔見せられないっ」

 よく考えたらキスするとか自爆以外のなにものでもないし。

 馬鹿じゃないの私!

 頭沸騰して正常な判断が出来なくなってたんだっ。

 グラジオスが喜ぶだけじゃんっ。あ、グラジオスが喜ぶならいいのかも……じゃないしっ! 復讐しようとしてたんだしっ!

 も~~っ。

「すぐに終わるっ」

「駄目、駄目なのぉ」

「一つだけ、一つだけだ」

「や~~っ」

 そうやってしばらくもがいてみた私だったか、力でグラジオスに敵うはずもなく、体力を消耗した結果仕方なく受け入れる事にした。

「お願い、本当にもうだめなの……。やるなら早くして……」

 何故かグラジオスは私を見つめて硬直し、生唾を飲み込んだ。

 というか私を見る目がえっちぃよぉ……。何考えてるの、ばかぁ。

「グラジオスぅ……」

 私は多分涙目になっているはずだ。顔も耳まで真っ赤になってると思う。

 穴があったら飛び込みたいくらいに恥ずかしい。こんな拷問は一秒たりとも耐えられそうになかった。

「はっ! ああ、いや、うん、わかった、すまない」

「ぼ~っとしないでよぉ」

 さすがに私が本気でまいっている事を察してくれたのか、グラジオスはひたすらに謝りながら私を解放してくれた。

 私はふらふらになりながらその場に立つと、手で口元を押さえて(本当は顔を全部隠してしまいたかったけど)グラジオスをちょっとだけ睨みつける。

 早くして、という無言の圧力は伝わっただろう。

「雲母、手を」

 そう言ってグラジオスは右手を差し出してくる。

 何をしたいのか想像もつかなかったが、私は八つ当たり気味にぺしっと左手を叩きつけた。

 グラジオスは私の手を愛おしそうに握ると……跪いて自らの額に押し付ける。

 まるでそれは何か神聖な誓いをするような……。

「雲母。俺と結婚をしてくれ」

「ふへ?」

 脳がグラジオスの言葉を拒絶し、何を言われたのかさっぱり分からなかった。

 ケッコンってナニ? 美味しいの? って感じだ。

「遅くなったが婚約指輪も用意した。填めてもらっていいか?」

 そう言うとグラジオスは胸ポケットから一つのリングを取り出した。

 金を主体に植物を模した精緻な細工の指輪で、花弁を模った台座の中心には丸く磨かれたダイヤモンドが一つせこんである。

 ダイヤはまるで自ら光を放っているかのように光り輝いており、その輝きに私の魂は吸い込まれてしまいそうになった。

「雲母……駄目か?」

 先ほどまでの混乱っぷりが嘘のように私の心は静まり返っていた。

 私が何の反応も示さないことを心配してか、グラジオスが私の瞳を覗き込んでくる。

 何が心配なのだろう。

 私の答えが分からないのだろうか。だとしたらちょっとショックだ。

 私がどれだけあなたの事を好きで、どれだけあなたを想っているのか分かっていないってことだから。

「き、雲母……」

 グラジオスが狼狽えたような声を上げる。

 何してるんだろ。早く……。

「うっ……くっ……」

 早く填めてよ……。

「うえっ……。あっ……うぅ……」

 だめ……もう……抑えられないよ……。

 涙が……止められない。

「な、泣くほど嫌なのか?」

 なんて、素っ頓狂で頓珍漢な事を言いだしてしまうグラジオスに、もう我慢できなかった。

 私は体当たりするようにグラジオスの首にかじりつくと、泣きながら頬をこすりつける。

 私の気持ちが少しでも伝わる様に。

「うれっ……いっのっ。ばかぁっ!」

 嬉しいのに、涙が後から後からこぼれ出てくる。

 私の中のどこにこんな沢山の涙があるのかと思う位、溢れ出して止まらない。

 もう私の顔はぐちゃぐちゃで、グラジオスの服も私の涙でずぶ濡れだった。

 それでもグラジオスは私を抱きしめ返してくれて、優しい想いを返してくれる。

「指輪、してくれるのか?」

 言わなくても分かれっ。

 私は嗚咽を我慢しながら何度も何度も顔を擦りつける様に頷いた。

「ありがとう、俺は世界一の幸せ者だよ」

 一言多いのっ。

 世界一は絶対、私だよ。

 グラジオスが私の左手薬指に婚約指輪を通すと同時、爆発的な歓喜の声が上がったのだった。

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