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1、メールが届きました

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まずは私が体験したことを時系列に沿ってお話ししたいと思います。

あれは、休日のことでした。

突然友人から『〇〇駅に行くことは出来ないか?』とのメールが来たのです。

その駅は行けなくもないのですが、片道だけで1時間半以上かかる程度には遠いものでした。

しかもようやく来た休みの日です。

オッケー行くぜ!と二つ返事で頷くには少々面倒くさい頼みでした。

ただ、友人は九州住まい。東京の駅に行けるはずもありません。

仕方なく理由を聞きますと、とあるURLが送られてきました。

そのURLはSSと呼ばれる台本形式の二次創作小説を公開する、個人サイトのものでした

そこには沢山の小説と……遺書が、ありました。

生きていることが苦しいと。

自分には何もないと。

そして、父親に今までの人生全てを否定されたと。

だから、死を選ぶと書かれた遺書がありました。

文章からは一見してそれを記した人物――仮にKさんといたしましょう――Kさんの悲哀や悔恨の念といった類のものはほとんど感じられませんでした。

例えるなら、飲み屋で酔っぱらってくだを巻きながら「しゃーねーよな~」と愚痴っている人の様な文体です。

そのぐらい軽く、明るい感じで記されていました。

もちろん、それはきっと強がりなのでしょうが……。

いずれにせよ、わたしがその遺書から一番強く感じられたことは、この世界に対する諦めです。

目を閉じて耳を塞いでも否応なく突きつけられる現実に、嫌気がさしていたのだと思います。

もっとも、Kさんの想いは分かりません。なんだかんだと想像することしかできないのです。

ですから、そこは……私にはどうすることもできません。

けれど出来ることもありました。

遺書には彼の……Kさんの願いも書き遺されていたのです。

持っていたノートとプリントアウトしたプロットをとある駅のコインロッカーに隠す。

誰か続きを書いて欲しい、それが自分の生きていた証だからと……。

小説の続きが書けなくなってしまうことは、Kさん自身としてもよほど心残りであったようです。

読者と約束したのにも関わらず、それを破ってしまったことは本当に申し訳ないと、何度も記されておりました。



……もうお分かりかと思いますが、友人が行ってくれないかと頼んできた駅はそのプロットが遺されているはずの駅でした。

ネット上の釣りかもしれません。

私が拾ったところで私がなにかできるわけでもありません。なにせ私はKさんが書いている小説のネタ元を知らなかったのですから。

ですが、私は行くことに決めました。
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