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第7話 ごめんなさい
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「名取は相変わらず女にしか見えないぞ」
「嘘だぁ。さすがにそれは盛り過ぎ……」
俺たちがそうやって二人で話し込んでいる最中、ふいに廊下とダイニングキッチンとを隔てるドアが勢いよく開けられ、ただいま~と言いながら母親が姿を現した。
「おかえり」
「お帰りなさい」
二人して母親に挨拶を返したのだが、座ったままな俺とは対照的に、蒼乃は母親の手に買い物袋が握られているのを察して腰を上げ、母親の下へと歩いていく。
さすがはよく手伝いをする蒼乃らしい気遣いだ。
「ごめんっ、買い物したら隣の奥さんとつい長話しちゃって遅くなっちゃった」
「ん?」
ふと、謝るくらいの時間か? と思って時計に目をやるが目的のものが見当たらない。そういえば俺が外したんだっけかと思い出してスマホを確認すると……。
「おわっ、もう八時?」
蒼乃と話し始めたのが6時前だったため、都合2時間程度は話し込んでいた計算になる。
これはもう間違いない蒼乃との会話時間最長記録を更新しているだろう。ついでにゲームのミッションもクリアできているに違いない。
「そうそう、だからお惣菜半額の買ってきちゃった。ごめんね~。今日の晩御飯は全部お惣菜で許して」
手作り至上主義な母親にしてはかなり珍しい事だが、さすがに今から料理していたら俺の腹も確実に抗議をしまくってストを起こしてしまうだろう。
蒼乃は手に持った袋の中からお惣菜のパックを取り出し、次々と食卓に並べていく。
「蒼乃、悪いんだけど食事の準備お願いね。それから蒼司も手伝いなさい」
「ん」
「へいへい」
母親はそれだけ言うと、荷物を取りに部屋を出て行ってしまう。どうやら外の車まで取りに行ったらしい。
「まだ買ってるのか……」
「お母さん買い物好きだから」
それは知ってる。無駄な物買い過ぎて納戸が荷物でぐちゃぐちゃだし。
「先に時計戻しとく」
だからサボりじゃないからな、と言外に告げてから椅子を立つと、時計を拾って壁際に行く。
……取るのは簡単だけど掛けるのは少し手間なんだよな。
ちょっと背伸びをしつつ、時計を壁のフックに引っかけようとするが、微妙に背丈が足りずにうまくいかない。何か踏み台を持ってくるのも手間だったので、背伸びをして引っかけようとしていたが……。
「ねえ、踏み台使ったら?」
「いや、めんどくさい」
それにちょっと背が足りないとか思いたくないから却下。
「それを口実にサボってるようにしか見えないんだけど」
「ぐっ」
なおも頑なにそのまま時計を掛けようとしていたら、背後からため息が聞こえた後、ポンポンと肩を叩かれた。
「なんだよ」
「アン……兄が踏み台になって。私が掛けるから」
「なんでお前の踏み台にならなくちゃいけないんだよ。俺はマゾじゃねえっての。せめて肩車かなんかだろ」
「じゃあそれ」
……認めるのは癪だが認めようじゃないか。ああそうさ、届かないさちくしょう。そんな身長低いわけじゃないけどな。170ギリギリだよ。でも平均より少し低いだけだからな。
なんて心の中で言い訳を並べ立てつつ時計を蒼乃に手渡すと、壁を向いてから頭を低くしてしゃがむ。
蒼乃はそんな俺の体を遠慮なく跨いで肩に乗っかる。
「よっ」
――軽い。
持ち上げて一番最初に感じたのはそれだ。
蒼乃は高校一年生女子としてはだいぶ小さい方だが、それでもこんなに軽かったとは思わなかった。
そういえば、昔から蒼乃は怖がりだったっけ。それでよく俺の背中にしがみついたり服の袖握ったりしてたな。
多分、この怖がりは今もそうなんだろう。だからあんなに取り乱していたんだ。
そう思ったら、少しだけ蒼乃の態度が許せる気がしてきた。
「終わった」
ぶすっとした声が頭上から降って来る。終わったから下ろせと言いたいのだろう。
俺は顔の横にある蒼乃の細い太ももを抱え、落とさないよう慎重に床に下ろす。
蒼乃の足の間から頭を引き抜いて立つと、ちょうどこちらを振り向いたばかりの蒼乃と視線がぶつかる。
「…………」
「…………」
なんとなくそのまま無言で見つめ合ってしまう。
ずっと喧嘩をしてきたから、普通の兄妹としての触れ合い方をすっかり忘れてしまっていたため、どう接していいのか少し戸惑っていた。
「……手伝ってくれてありがとう」
結果、俺の口から飛び出したのはやけに他人行儀な言葉だった。
「別に」
蒼乃はそれだけ言うと、ふいっと顔を背けて自分の仕事に戻っていく。
まあ、こんなものだろう。喧嘩しなくなっただけましなのかもしれないと思い、やれやれとため息を吐こうとしたら――。
「さっき、色々言ってごめん」
「は?」
今蒼乃は俺に対してごめんと言わなかったか?
俺に謝ったのか? 蒼乃が?
思わず耳を疑ってしまったが、蒼乃の声は間違いなく脳裏に刻み込まれている。
ついでに信じられないという感じで視線を向けた俺を、わざと無視するように配膳を始めているため間違いでも気の迷いでもなさそうだった。
俺たちは仲が悪かった。多分今でもそれは変わらないし、これからもそうだろう。
でも、少しだけ、和解くらいならしてもいいんじゃないかと思っていた。
「嘘だぁ。さすがにそれは盛り過ぎ……」
俺たちがそうやって二人で話し込んでいる最中、ふいに廊下とダイニングキッチンとを隔てるドアが勢いよく開けられ、ただいま~と言いながら母親が姿を現した。
「おかえり」
「お帰りなさい」
二人して母親に挨拶を返したのだが、座ったままな俺とは対照的に、蒼乃は母親の手に買い物袋が握られているのを察して腰を上げ、母親の下へと歩いていく。
さすがはよく手伝いをする蒼乃らしい気遣いだ。
「ごめんっ、買い物したら隣の奥さんとつい長話しちゃって遅くなっちゃった」
「ん?」
ふと、謝るくらいの時間か? と思って時計に目をやるが目的のものが見当たらない。そういえば俺が外したんだっけかと思い出してスマホを確認すると……。
「おわっ、もう八時?」
蒼乃と話し始めたのが6時前だったため、都合2時間程度は話し込んでいた計算になる。
これはもう間違いない蒼乃との会話時間最長記録を更新しているだろう。ついでにゲームのミッションもクリアできているに違いない。
「そうそう、だからお惣菜半額の買ってきちゃった。ごめんね~。今日の晩御飯は全部お惣菜で許して」
手作り至上主義な母親にしてはかなり珍しい事だが、さすがに今から料理していたら俺の腹も確実に抗議をしまくってストを起こしてしまうだろう。
蒼乃は手に持った袋の中からお惣菜のパックを取り出し、次々と食卓に並べていく。
「蒼乃、悪いんだけど食事の準備お願いね。それから蒼司も手伝いなさい」
「ん」
「へいへい」
母親はそれだけ言うと、荷物を取りに部屋を出て行ってしまう。どうやら外の車まで取りに行ったらしい。
「まだ買ってるのか……」
「お母さん買い物好きだから」
それは知ってる。無駄な物買い過ぎて納戸が荷物でぐちゃぐちゃだし。
「先に時計戻しとく」
だからサボりじゃないからな、と言外に告げてから椅子を立つと、時計を拾って壁際に行く。
……取るのは簡単だけど掛けるのは少し手間なんだよな。
ちょっと背伸びをしつつ、時計を壁のフックに引っかけようとするが、微妙に背丈が足りずにうまくいかない。何か踏み台を持ってくるのも手間だったので、背伸びをして引っかけようとしていたが……。
「ねえ、踏み台使ったら?」
「いや、めんどくさい」
それにちょっと背が足りないとか思いたくないから却下。
「それを口実にサボってるようにしか見えないんだけど」
「ぐっ」
なおも頑なにそのまま時計を掛けようとしていたら、背後からため息が聞こえた後、ポンポンと肩を叩かれた。
「なんだよ」
「アン……兄が踏み台になって。私が掛けるから」
「なんでお前の踏み台にならなくちゃいけないんだよ。俺はマゾじゃねえっての。せめて肩車かなんかだろ」
「じゃあそれ」
……認めるのは癪だが認めようじゃないか。ああそうさ、届かないさちくしょう。そんな身長低いわけじゃないけどな。170ギリギリだよ。でも平均より少し低いだけだからな。
なんて心の中で言い訳を並べ立てつつ時計を蒼乃に手渡すと、壁を向いてから頭を低くしてしゃがむ。
蒼乃はそんな俺の体を遠慮なく跨いで肩に乗っかる。
「よっ」
――軽い。
持ち上げて一番最初に感じたのはそれだ。
蒼乃は高校一年生女子としてはだいぶ小さい方だが、それでもこんなに軽かったとは思わなかった。
そういえば、昔から蒼乃は怖がりだったっけ。それでよく俺の背中にしがみついたり服の袖握ったりしてたな。
多分、この怖がりは今もそうなんだろう。だからあんなに取り乱していたんだ。
そう思ったら、少しだけ蒼乃の態度が許せる気がしてきた。
「終わった」
ぶすっとした声が頭上から降って来る。終わったから下ろせと言いたいのだろう。
俺は顔の横にある蒼乃の細い太ももを抱え、落とさないよう慎重に床に下ろす。
蒼乃の足の間から頭を引き抜いて立つと、ちょうどこちらを振り向いたばかりの蒼乃と視線がぶつかる。
「…………」
「…………」
なんとなくそのまま無言で見つめ合ってしまう。
ずっと喧嘩をしてきたから、普通の兄妹としての触れ合い方をすっかり忘れてしまっていたため、どう接していいのか少し戸惑っていた。
「……手伝ってくれてありがとう」
結果、俺の口から飛び出したのはやけに他人行儀な言葉だった。
「別に」
蒼乃はそれだけ言うと、ふいっと顔を背けて自分の仕事に戻っていく。
まあ、こんなものだろう。喧嘩しなくなっただけましなのかもしれないと思い、やれやれとため息を吐こうとしたら――。
「さっき、色々言ってごめん」
「は?」
今蒼乃は俺に対してごめんと言わなかったか?
俺に謝ったのか? 蒼乃が?
思わず耳を疑ってしまったが、蒼乃の声は間違いなく脳裏に刻み込まれている。
ついでに信じられないという感じで視線を向けた俺を、わざと無視するように配膳を始めているため間違いでも気の迷いでもなさそうだった。
俺たちは仲が悪かった。多分今でもそれは変わらないし、これからもそうだろう。
でも、少しだけ、和解くらいならしてもいいんじゃないかと思っていた。
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