ツンツンな妹が実はデレデレだったって本当ですか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
7 / 36

第7話 ごめんなさい

しおりを挟む
「名取は相変わらず女にしか見えないぞ」

「嘘だぁ。さすがにそれは盛り過ぎ……」

 俺たちがそうやって二人で話し込んでいる最中、ふいに廊下とダイニングキッチンとを隔てるドアが勢いよく開けられ、ただいま~と言いながら母親が姿を現した。

「おかえり」

「お帰りなさい」

 二人して母親に挨拶を返したのだが、座ったままな俺とは対照的に、蒼乃は母親の手に買い物袋が握られているのを察して腰を上げ、母親の下へと歩いていく。

 さすがはよく手伝いをする蒼乃らしい気遣いだ。

「ごめんっ、買い物したら隣の奥さんとつい長話しちゃって遅くなっちゃった」

「ん?」

 ふと、謝るくらいの時間か? と思って時計に目をやるが目的のものが見当たらない。そういえば俺が外したんだっけかと思い出してスマホを確認すると……。

「おわっ、もう八時?」

 蒼乃と話し始めたのが6時前だったため、都合2時間程度は話し込んでいた計算になる。

 これはもう間違いない蒼乃との会話時間最長記録を更新しているだろう。ついでにゲームのミッションもクリアできているに違いない。

「そうそう、だからお惣菜半額の買ってきちゃった。ごめんね~。今日の晩御飯は全部お惣菜で許して」

 手作り至上主義な母親にしてはかなり珍しい事だが、さすがに今から料理していたら俺の腹も確実に抗議をしまくってストを起こしてしまうだろう。

 蒼乃は手に持った袋の中からお惣菜のパックを取り出し、次々と食卓に並べていく。

「蒼乃、悪いんだけど食事の準備お願いね。それから蒼司も手伝いなさい」

「ん」

「へいへい」

 母親はそれだけ言うと、荷物を取りに部屋を出て行ってしまう。どうやら外の車まで取りに行ったらしい。

「まだ買ってるのか……」

「お母さん買い物好きだから」

 それは知ってる。無駄な物買い過ぎて納戸が荷物でぐちゃぐちゃだし。

「先に時計戻しとく」

 だからサボりじゃないからな、と言外に告げてから椅子を立つと、時計を拾って壁際に行く。

 ……取るのは簡単だけど掛けるのは少し手間なんだよな。

 ちょっと背伸びをしつつ、時計を壁のフックに引っかけようとするが、微妙に背丈が足りずにうまくいかない。何か踏み台を持ってくるのも手間だったので、背伸びをして引っかけようとしていたが……。

「ねえ、踏み台使ったら?」

「いや、めんどくさい」

 それにちょっと背が足りないとか思いたくないから却下。

「それを口実にサボってるようにしか見えないんだけど」

「ぐっ」

 なおも頑なにそのまま時計を掛けようとしていたら、背後からため息が聞こえた後、ポンポンと肩を叩かれた。

「なんだよ」

「アン……にいが踏み台になって。私が掛けるから」

「なんでお前の踏み台にならなくちゃいけないんだよ。俺はマゾじゃねえっての。せめて肩車かなんかだろ」

「じゃあそれ」

 ……認めるのは癪だが認めようじゃないか。ああそうさ、届かないさちくしょう。そんな身長低いわけじゃないけどな。170ギリギリだよ。でも平均より少し低いだけだからな。

 なんて心の中で言い訳を並べ立てつつ時計を蒼乃に手渡すと、壁を向いてから頭を低くしてしゃがむ。

 蒼乃はそんな俺の体を遠慮なく跨いで肩に乗っかる。

「よっ」

 ――軽い。

 持ち上げて一番最初に感じたのはそれだ。

 蒼乃は高校一年生女子としてはだいぶ小さい方だが、それでもこんなに軽かったとは思わなかった。

 そういえば、昔から蒼乃は怖がりだったっけ。それでよく俺の背中にしがみついたり服の袖握ったりしてたな。

 多分、この怖がりは今もそうなんだろう。だからあんなに取り乱していたんだ。

 そう思ったら、少しだけ蒼乃の態度が許せる気がしてきた。

「終わった」

 ぶすっとした声が頭上から降って来る。終わったから下ろせと言いたいのだろう。

 俺は顔の横にある蒼乃の細い太ももを抱え、落とさないよう慎重に床に下ろす。

 蒼乃の足の間から頭を引き抜いて立つと、ちょうどこちらを振り向いたばかりの蒼乃と視線がぶつかる。

「…………」

「…………」

 なんとなくそのまま無言で見つめ合ってしまう。

 ずっと喧嘩をしてきたから、普通の兄妹としての触れ合い方をすっかり忘れてしまっていたため、どう接していいのか少し戸惑っていた。

「……手伝ってくれてありがとう」

 結果、俺の口から飛び出したのはやけに他人行儀な言葉だった。

「別に」

 蒼乃はそれだけ言うと、ふいっと顔を背けて自分の仕事に戻っていく。

 まあ、こんなものだろう。喧嘩しなくなっただけましなのかもしれないと思い、やれやれとため息を吐こうとしたら――。

「さっき、色々言ってごめん」

「は?」

 今蒼乃は俺に対してごめんと言わなかったか?

 俺に謝ったのか? 蒼乃が?

 思わず耳を疑ってしまったが、蒼乃の声は間違いなく脳裏に刻み込まれている。

 ついでに信じられないという感じで視線を向けた俺を、わざと無視するように配膳を始めているため間違いでも気の迷いでもなさそうだった。

 俺たちは仲が悪かった。多分今でもそれは変わらないし、これからもそうだろう。

 でも、少しだけ、和解くらいならしてもいいんじゃないかと思っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...