ツンツンな妹が実はデレデレだったって本当ですか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第21話 お礼と約束

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「ただいま~」

 無人の玄関でそう言ってから靴を脱ぐ。

 今までこんな風に挨拶する習慣なんてなかったが、あのゲームで蒼乃と挨拶を交わす様になってからなんとなく口にするようになっていた。

 靴を揃えてから居間に入ると、蒼乃が食卓にノートを広げて宿題に取り組んでいるのが目に入る。

 蒼乃は相当集中しているのか、俺に視線を飛ばすことすらせず、ひたすらノートとにらめっこしていた。

「ただいま。弁当美味かったよ、ごちそうさん」

 一応礼儀として一声かけてからキッチンに向かう。

「別に、冷凍食品だから」

 確かにおかずの大半は冷凍食品で、他はミニトマトやレタスなどの野菜。昨日の残りが少々なので、蒼乃の作った物と言えばだし巻き卵くらいだったが、それでも弁当を作ってくれたのは蒼乃なのだから俺のお礼を受け取るのも蒼乃であるべきだ。

「だし巻き卵とか美味かった。うん、あれは絶品だったぞ」

「兄は甘いたまごの方が好きでしょ。私が作ったの塩辛いんだけど」

 けんもほろろとはこのことか。こっちが珍しく褒めて居るというのに、先ほどから蒼乃はこちらの方を見ようともしなかった。

 となればこちらも意地というものがある。

「いやぁ、俺はあのたまごで甘い派から塩辛い派に変わったんだ。うん、その位美味かったんだよ」

「じゃあ明日は甘いのにする」

「…………」

 なんでそういう天の邪鬼なことするかね。

「おう、蒼乃の作る卵焼きならどんなものでも美味いからどっちでもバッチコイだ! 蒼乃の卵焼き最高! もう毎日でも食いたいくらいだね。なんなら俺の主食にしてもいいくらいだぜ」

 自分でも何言ってんだって気がしたが、やけくそ気味に蒼乃の卵焼きを褒め称えていく。何が何でも蒼乃の卵焼きが上手かったと認めさせ、こちらのお礼を受け入れてもらうつもりだった。

「そんなこといいから! 今宿題してるのっ、邪魔しないでよ!」

 あ、怒った。どういたしましてとか一言だけでもいいから言ってくれれば止めるのに……ってなんか俺も迷走してるな。うん、これ以上は止めとこう。

 俺は背中の荷物を下ろすと中からタッパーを取り出して流し台に置く。

 このまま置いといても夕食終わった後に母さんが洗ってくれるだろうけど……。

 チラッと食器乾燥機の上を見ると、綺麗に洗われた弁当箱が置かれている。

 俺は考えを改め、タッパーを開けると中からゴミを取り出して捨て、洗い始めた。

「……兄が洗うなんて珍しい」

 そんなに呟くほどか? と記憶を探ってみるが、確かに俺が自主的に食器を洗っている記憶はほとんどなかった。

「蒼乃に作ってもらったから多少はな」

「なら学校ですすぐくらいして。臭くなるの」

「ぐっ」

 確かに蓋を開けたらちょっと甘酸っぱい匂いがしたが、これはやっぱり腐ってる臭いなのか……。今度から気を付けよう。

 洗い終わったタッパーなどを食器乾燥機に置いてから、俺はお茶とお菓子を用意して食卓までもっていく。

「ふい」

「ありがと」

 そっか、普通にありがとって言えば良かったのか。俺なんかやっぱり混乱してるな。

「蒼乃、弁当作ってくれてありがとう」

「別に、ついでだし」

 ……素直じゃねえの!

 思わず不満が表情に出てしまったが、運が良い事に蒼乃はノートばかり見ていて俺のことなど一顧だにしていないため、気付いた様子はない。

 ……本当に運が良ければ蒼乃は拗ねたことなど言わないだろうけど。

「なんかお礼とかしたいんだが……ってあんまり高いのは無理だぞ?」

 俺の経済力は小遣い+たまに入る臨時収入くらいだからな。ぶっちゃけ蒼乃の方が持ってるかもしれん。

「お礼……」

 始めて反応を見せた蒼乃が顔を上げ、口元にシャーペンを当てて少し悩む様子を見せる。

 そうしてると真面目な女生徒って感じで凄く絵になるのだが……。

「じゃあまたゲーセンに連れてって」

「……そんなんでいいのか?」

 真面目な蒼乃とゲーセンの組み合わせはあまりそぐわないものだ。この間は俺が相当混乱していたから誘ってしまったが、未だと連れて行こうとさえ思わないだろう。

 実際ごくごく偶に変なのが居る事もある。

「分かった。じゃあ名取やぼたんも連れて行くか」

「……兄と二人がいい」

「…………」

 つい、この間の事を思い出してしまう。

 俺が変に意識しすぎて蒼乃を抱きしめたままぼーっとしてしまったり、二人で撮影をしながらドキドキしてしまった。ああいう事はもう絶対に起こしてはならない。

 ……多分、一定の距離離れて居れば大丈夫だろう。あれ以外の時は、ただの兄妹として純粋に楽しんでいられたのだから。

 今だって蒼乃は繋がりの薄い俺の友達と一緒に居るのが気まずいから断っただけで、それ以上の意味なんて何もないはずだ。

「分かった。じゃあまた今度な」

「ん」

「毎週はさすがに小遣いがもたないから来月くらいでどうだ?」

「兄の好きにして」

「おっけ」

 それだけ約束すると、俺は鞄を背負い、コップとお菓子を持って自分の部屋へと向かう。

 きっと俺たちはどこにでも居る仲の良い普通の兄妹。それ以上でも以下でもない関係になれている筈だった。
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