異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第7話 魔獣の巣

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 俺がギルドの一員になった次の日、まだアウロラを受け入れてくれるパーティが帰還するまで少し時間があるということで、俺たちはゴブリン退治のクエストを受ける事になった。

 ゴブリンの強さ自体はそこまででもないが、とにかく数が多いとかでこの手の依頼はかなりあるそうだ。ただ、あまり戦闘力が高くなくてもこなせるクエスト、イコール専門性が低いため、報酬はもの凄く低い。感覚的には近所の野良犬を追い払ってくれ程度のものなのだろう。

「ねえ、木札は持ってる?」

「持ったよ。新品の魔術式をアウロラが描いてくれただろ」

「他にも水とか地図とか、それからそれから……」

「ギルドが支給してくれる基本装備は全部持った。というか出発前ギルド長のシュナイドさんに確認してもらったし、完璧だよ!」

 忙しいだろうに、わざわざ俺の所に来て持っているかどうかの目視確認までやってくれたのだ。これで何か忘れて居たらさすがに立つ瀬がない。

「ファイアー・バレットは出来る?」

「昨日あれだけ練習しただろっ。なあ、さっきからちょっと過保護過ぎないか?」

「だって私が身元保証人なんだよ? お姉ちゃんなんだよ? ナオヤの面倒は私が見るんだから」

 要らない肩書が増えたせいでアウロラはずいぶんと張り切っているらしく、ギルドに入る事になってからだいぶその……ちょっとめんどくさい。

 ちなみにファイアー・バレットだが、効果は速度の速い炎の弾丸を一発放つだけのもので、初心者向けの魔術であり、基本的には魔術式を持っていればほとんどの人が使える魔術だ。

 とはいえ何の魔術も使ってこなかった俺が発動させて制御するのは意外と難しく、コツをつかむまで数時間ほど練習をさせてもらった。

「離れた位置からファイアー・バレットを撃って倒す。近づかれたら走って逃げる。頭にきっちり入ってるよ」

「じゃあゴブリン以外が居たら?」

「戦わずに逃げて報告」

「……それでいいけど」

 なんで不満そうなのさ。間違ってて欲しかったのかよ。

 アウロラはぷすっと片頬を膨らませると一歩横を離れて歩く。この調子では目的地である昨日の神殿までたどり着くのに何回質問されるのか知れたものではなかった。







「ここか……」

 ようやくたどり着いた神殿は、放棄されて数年程度経っているらしく、植物のツルが巻き付いていたり、窓に打ち付けられた板が剥がれかけてはいるものの、まだ建物としての姿をはっきりと残している。

 というか、建物としての機能を保っていてくれたおかげで俺の命は長らえたと言っても過言ではない。

 俺は傷だらけのドアを見て、昨日の恐怖を思い出しながら何となく合掌をしてしまうのだった。

「ここっていうか、ここからもうちょっと行ったところにある廃村なんだけどね」

 アウロラの言葉通り、クエストの内容はそこに住み着いていると思しきゴブリンの討伐である。

 目撃された数が比較的少なかったことから、さほど難易度は高くだろうという事で初心者とその先輩にお鉢が回って来たのだ。

 シュナイドいわく、移動する時間の方が多くかかるだろうとの事だった。

「なあ、早く移動した方がよくないか?」

 太陽の位置的には正午ちょっと前くらいの頃合だ。クエスト完了後、その廃村やこの教会で一泊なんて事はさすがに避けたかった。

「ん~、一応この神殿の二階から偵察しといた方がいいと思うの」

「……なるほど、それもそうだね」

 この神殿は小高い丘に建っており、ここから数キロ行った先にある廃村をある程度見渡すことが出来るという。

 知らない道よりも、一度望遠鏡で確認してから歩くのはだいぶ違うだろう。俺はその提案に同意し、アウロラと共に神殿の中へと足を踏み入れた。

≪光よ≫

 アウロラがポーチから木札を取り出して呪文を唱えると、その木札に描かれた魔術陣が懐中電灯の様に白く発光を始める。

 暗かった神殿内に白い光が満ちて、長椅子や壁に掛けられた十字架の様なシンボルが照らし出された。

「行こ」

 アウロラが警戒しながら先を歩く。その足取りは、一年以上こういったクエストをこなしていただけあってなかなか堂に入っているように見える。

 俺はスマホより一回り大きいファイアー・バレットの木札を握り締め、周囲を警戒しながらその後をついていった。

 二階北側にある窓の手前で止まり、アウロラが空っぽの手をこちらに突き出してくる。

「望遠鏡出して」

 思考が切り替わったのか、アウロラの言動からは先ほどまであった様な無駄が削ぎ落とされており、必要最小限の事しか口にしなくなっている。

 その事に少し戸惑いつつも、言われるがままにリュックを下ろして望遠鏡を取り出し、引き伸ばしてからアウロラに渡す。

 アウロラは望遠鏡をまどから突き出すと、きょろきょろあちこちを見渡した後、満足そうに頷いてから俺に手招きした。

「今合わせてるから、ちょっと望遠鏡覗いてみて」

 アウロラは望遠鏡を手で窓に固定しているのだが、どうやらこのまま覗いて欲しい様である。ただそれには一つ問題があって、体を寄せるというか、くっ付かなければならないのだ。黙っていたら深窓の美少女にしか見えないアウロラの体に。

 彼女居ない歴=年齢な俺としては、なかなかにハードルの高い行動だった。

「なにしてるの、早く」

 再び催促される。

 アウロラの顔には羞恥の色はこれっぽっちもない。

 俺は、こんな時にそんな事を意識してしまう方がおかしいのだと自分自身を叱りつけてから、思い切って望遠鏡を覗き込んだ。

「見える?」

 茂みしか見えなかったのでしばらく何があるのかと探していたが、

「木が生えたりツルが巻き付いてるけど、今見えてるのが家なんだよ」

「あ~」

 言われてみれば、壁や屋根の一部を見て取る事が出来た。

 そのままアウロラから望遠鏡を受け取ると、その周囲や廃村までの道を確認する。

 道や目標になるものの形状を頭に叩き込みながら、望遠鏡を覗いていると――。

「ん? なんだあれ」

 何やら不審な物陰……いや、影そのものか、日の光ですら照らし出すことのできない真っ黒なもので出来た穴の様な代物が宙に浮いているのを見つけてしまった。強いて言うなら、ゲームで見るワームホール的なものが一番近いだろうか。

「どうしたの?」

 俺が不審な声を上げた事が気になったのか、アウロラがとんとんと肩を叩いてくる。

「ああ、うん。なんか不思議な……影の塊というか、穴みたいなのが見える」

 反応は返ってこない。

 だから俺は何でもない事なのかなと思ってその穴の観察を続けて居ると……。

「ナオヤ、逃げよう」

「え?」

 内容もそうだが、聞こえて来たアウロラの声そのものも、怯え切っている様に感じた。

 思わず望遠鏡から目を離して隣に居るアウロラへと顔を向ける。

 意外に近くにあったアウロラの顔に、少しだけドキっとしてしまったが、今はそれよりも彼女が怯えている理由を知る方が重要だと意識を切り替える。

「とりあえず俺じゃ判断がつかないからアウロラも見てくれよ」

「う、うん」

 俺はアウロラの為に場所と望遠鏡を譲る。

 望遠鏡を俺の言うとおりに操作して、その穴を確認したアウロラは、

「やっぱり魔獣の巣ビースト・ネストだ……」

 呻く様にそう呟いた。

「巣?」

「そう。あの穴みたいなのから魔物が湧き出て来るから巣って呼ばれてるの」

 魔物。弱いものならゴブリンやスライムといった素人でも倒せる存在から、オークやトロールなどの注意しなければ死を招く相手や、キマイラなどのパーティを組まなければ倒せないような強力な存在までその種類は多岐にわたる。

 いずれも共通している事は、人間の敵という事だけ。

「普通は一瞬開いて魔物を数匹生み出すと消えちゃうんだけど、たまにああして開き続けて強力な魔物を生んだり、大量に生み続けたりするのがあるの」

「あれはどのタイプになるんだ?」

 俺が見た時には一切魔物が生まれていなかった。つまり……。

「多分、強力な魔物を生むタイプ」

 マジかよ……。初クエストでいきなり強敵に遭遇してゲームオーバーとか絶対に勘弁してほしい。

「なんか対処法とか無いのか?」

「普通は出て来る前に強力な魔術で魔獣の巣を吹き飛ばしちゃうってのが定石らしいけど……」

 ……強力な魔術。俺はそれにたった一つ心当たりがあった。

 俺の意識がリュックの奥底で封印されているとある代物に向く。

「魔獣の巣を破壊できる魔術なんて8重エイトサークルくらい強力なのが必要なの。私が知ってるのでそれができるのはシュナイドさんだけだけだから早く帰って報告しないと」

 俺のスマホに記録されている魔術は、10重テンサークル。十分に魔獣の巣を破壊できる威力が出せるはずだ。

 問題は、一度も使ったことのないこの魔術を俺が制御しきれるのか。

「なあ、今から帰ってシュナイドさんに来てもらうなんて、間に合うのか?」

「それは……」

 分からない。

「強力ってどのくらい強力なのが出て来るんだ?」

「国が一つ滅ぶくらい強力なのから、軍隊総出でかかれば何とか倒せるのくらいまで……」

 どちらにせよ確実に死人が出るって事か……。

 じゃあ――。

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