異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
80 / 90

第78話 決められた敗北

しおりを挟む
 とてつもなく強い。

 しかもこれから先、更に強くなっていくだろう。

 だというのにこちらは制限が多く、周りを気にしながら戦わねばならない。

 負けを認めろ。全部手放して逃げ出してしまえば楽になる。そう心の中で何かが囁いてくる。

 それに従ってしまえばどれだけ楽になれるだろう。

 だが俺は――。

「サラザール、言葉が通じる内に聞いておく」

 体を強く打ち付けたからか、節々から悲鳴があがる。

 俺はそれを無視して立ち上がった。

「お前は何かに取り憑かれてる。それは明らかに、魔の側に属する存在だ」

「それがどぉしたよ」

 先ほど確かに皮膚が破れ、黒い色をした体液の様なものが流れ出たはずだ。

 だが、その傷は何処にも見当たらない。

 治療魔術を施した形跡はないため、何もせずに再生してしまったのだろう。

「いずれお前はその存在に取り込まれてしまう。そうなったらどうなるか分かるか?」

 サラザールは酷くいけ好かない存在だ。

 俺自身奴を嫌っていて、助ける価値なんてこれっぽっちも見出せないが、それでも、人の命は大切なものだから、助けられるなら助けた方がいい。

「お前は死ぬんだぞ。消えてなくなるんだぞ? もうお前は人間じゃなくなり始めてる。今すぐ止めろ」

 この場には知の天使が存在している。可能性はゼロに等しいかもしれないが、治療の余地は残っているのだ。

 そんな一心で最後の手を、差し伸べたのだが――。

「はっ。こんな力を手に入れた俺に、嫉妬してんのか?」

 鼻で笑い飛ばされてしまう。

 サラザールは力に溺れてしまっていた。それこそ、後戻りが出来ないほどに。

「分かった。じゃあ……」

 分かった、ではなかった。

 分かっていた、だ。

 こいつはもう戻る事が出来ない。自分から足を踏み出してしまったんだ。

 決して踏み込んではいけない領域に。

 俺は最初、叩きのめして治療を試みるつもりだったのだが、そんな状態はとっくの昔に過ぎ去ってしまっていたのだ。

「殺す気で相手してやるよ」

 心のスイッチを、無理やり切り替えた。

 頭からすぅっと血の気が引いていき、氷の様に冷たい何かが体の中をめぐり始める。

 俺は――人を殺す決意をした。

「馬鹿が。俺は最初からそのつもりだっ!」

 サラザールが突進してくる。

 その強大な力でもって振るわれる剣は、その一撃一撃が必殺の威力を持つ。

 受ける事すら難しいだろう。

「死ねぇぇっ!!」

 大上段の更に上。烈火から、俺を唐竹割りにしようと剣を叩きつけてくる。

「お前がな」

 受けるのが難しいなら、受けなければいい。

 そもそも近接戦闘を素直に受け入れてやる必要などないのだ。

 俺は一歩後ろにさがると、

≪ソニック・ウォール≫

 超音波の防壁を展開させた。

 何度も何度も使い、魔術の範囲など体に染みついている。

 もっとも威力の発揮される地点も。

「がぁぁっ」

 ヴヴヴッという耳障りな音と共に、大気が揺らぐ。

 サラザールは周りの大気ごと揺さぶられ――。

「効くかぁっ!」

 そのまま突っ込んで来た。

 まずいと思う暇も無く、サラザールの剣が旋回して俺の側頭部を強襲する。

 盾を掲げつつしゃがみ――右腕が俺の顔にぶつかり、それでも構わず押し流されていく。鉄の板が打ち付けてある頑丈な盾が、衝撃に耐えかね激しい音を立てて壊れた。

 だがそれで終わったわけではない。唸り声をあげて旋回した剣が、血を求めて今度は逆方向から襲い掛かって来る。

 これを俺単体の力で防ぐことは不可能。ならば――。

「頼むっ」

 俺の中から光が溢れ、左半身を守る様に光の柱が立ち上る。

 その柱が剣を受け止めているうちに、俺は右手の盾――とは呼べない鉄くずを、サラザールの体に押し当てた。

 盾の残骸は、鉄板がねじ切られていて剃刀の様な断面を持っている。

 即席の刃に体重を乗せ、そのまま押し斬った。

 鉄片は革の鎧など容易く食い破り、その下にあるサラザールの体に食い込んでいく。

 皮膚を裂く感触と骨を削る感覚が、盾を固定している革のベルト通して伝わって来る。しかしそれは――。

「うっとおしいんだよぉ、クソガキがぁっ!!」

 普通の人間ならば致命傷にあたる傷でも、サラザールの現状からすればかすり傷だ。

 逆襲の蹴撃しゅうげきが俺の腹部に決まり、衝撃で後方に吹き飛ばされてしまう。

 4、5メートルは体が空を飛び、それと同じだけ地面を転がる。

 ――やばい。

 本能的に俺は盾を上にかざし、ゼアルの力を総動員させて身を護る。

 光の防壁が俺を包み終わるや否や、雨霰と大小さまざまな魔術が降り注いできた。

 爆音が轟き、衝撃で大気が弾ける。

 防壁の向こう側に少しでもはみ出してしまえば、その瞬間にその部位は消滅してしまうだろう。

 だが、守護天使の力は絶大だ。俺には毛ほどのダメージもない。

 死の雨が降り続く中、俺は既に意味のなくなった盾を外して足元に放る。

 そして、俺はスマホの操作を始めた。

 仕込みが終わった俺は、

「――――サラザール!」

 魔術の爆音に負けないくらいの大声を張り上げる。

「俺の負けだ!」

 その途端、あれほど降り注いでいた魔術がピタリと止まった。

 だが、土煙の向こうからは射貫くような殺気がピンピンと伝わって来る。

 サラザールはまだやる気でいるだろう。もちろん、俺も。

「お前に神器を渡す。それで許してくれ!」

 サラザールの嗜虐心が満足出来るかどうかは分からないが、感情の入らない声で敗北を告げた。

 しばらくの静寂が場を支配する。

 どうなるかはサラザールの胸三寸にかかっているのだが……。

「てめえがそんなタマか?」

「俺は冷静に物事を判断しただけだ。この物量には勝てない。それが分からないほど馬鹿じゃあないさ」

 これじゃあ足らないか。

 まあ、想定内だ。

「武器は持たない」

 そう言って、魔術式が書かれたプレートの入ったポーチを外してその場に放り捨てる。更に分かりやすい様、ポケットも引き出して裏地を晒した。

「盾も捨てろ」

「了解」

 俺は頷いてからスマホを地面に置き、左腕の盾を外す。

 これで本当に武器は一つもない。

 一応、分かりやすいように両手を広げた状態で頭の上にあげ、ゆっくりその場で一回転して見せる。

「……神器を持ってこい」

 完全に武器はない――恐らくまだ疑っているだろうが――と認めてくれたのか、顎をしゃくって命令する。

 俺はチロリとスマホに視線を落とし……。

「……神器を渡したら、俺の命は奪わないと約束してくれるか?」

「…………」

「約束しないなら、この神器を破壊する。この神器は割と繊細なんだ。こう見えて魔導書なんでね」

 鬱陶しそうに俺を見た後、サラザールはいいだろうと頷いた。

 ここまではまだ、俺の予想通りに事は進んでいる。ここから先は――綱渡りだ。

 俺は画面に触れない様慎重にスマホを拾い上げると、背についた泥をふっと吹き飛ばす。

「この神器の事を説明するが……」

 俺は魔術によって穴だらけになった地面に手こずりながら、ゆっくりと歩を進める。

「こいつは様々な魔術式を保存できる魔導書だ。街の入り口辺りに設置されている巨大な魔術式でも保存できるから、10重だろうと扱える」

 残り、2メートル。

 早くしろとサラザールの表情が言っているが、俺の知った事ではない。

「ああ、魔術名は唱えないとだめだ。それから魔力だって使う」

「そんな事は言われなくとも分かっている! てめえとは違うんだよ、クソガキ」

「そうか」

 残り、1メートル。

 互いに手を伸ばせば届く距離だが、まだ少し早い・・

「最後に、この神器は……」

 そう言いながら、魔術式の映って・・・いる画面を見せる。

「神器に選ばれない人間が触ると、この画面が真っ暗になる」

「……何が言いてえ」

「お前が選ばれてなかったら使えないって事だ。使えなかったとしても俺に文句を言うなよ」

「はっ」

 サラザールの口がにぃっと笑みの形に広がった。

「お前如きが選ばれて、俺が選ばれないとでも思うのか?」

 それに対する返答として俺は肩を竦めるだけで何も言わずにいた。

 俺のその態度を一種の開き直りと取ったのか、サラザールは笑みを濃くしながら手を差し出してくる。

 俺は一歩前に踏み出すと、その手にスマホを、ゆっくりと乗せた。

 その瞬間――まるでスマホがサラザールを拒絶したかのように、画面が真っ暗になる。俺の仕掛け通りに。

「なっ」

 サラザールから見れば、これは自分が神器に拒絶された様に見えるだろう。サラザールは驚愕に顔を強張らせて大きな心の隙間を生み――――俺はその顔面に拳を叩き込んだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...