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念願
私は喜びを噛み締めて、しかしそれでもあからさまな態度を示すことはなく声の主の方へと振り向いた。
「アラン陛下。」
この大陸一の国土と力を持つ隣国の王。
シーザー陛下に引けを取らない眉目秀麗な容姿に、即位数ヶ月で裏切り者や反対勢力を徹底的に潰した冷徹な王として噂されている。
しかし私は知っている。
彼は誰よりも民のことを思い、弱者や真摯な人間にはどこまでも慈悲深いことを。
どこぞの情欲に溺れた愚かな王よりも、真に国王としてふさわしいお方だということを。
彼と私が出会ったのは、数ヶ月前に開かれた彼の即位式。
まだ即位前、婚姻前でありながら隣国の代表として招かれた私達を、陛下は丁重にもてなしてくださった。
一言二言交わしただけでわかる、彼の優しさと聡明さ。
なぜ周りの人は彼を冷徹な王だと批判するのかわからなかった。
ただ少し感情に伴う表情の変化が乏しいだけなのに。
私が1人バルコニーへ出ていると、陛下は私の元へとやって来た。
話すことは各国の情勢や交易など政治的で面白味のないものだったが、陛下と私は意気投合したのだ。
話していて飽きない。持ち前の聡明さで誰よりも深く会話が出来る彼とは話題が尽きなかった。
──嗚呼、彼の隣に立てたらどれだけ幸せだろうか。
少し会話をしただけで、私は彼の虜となった。
しかしどうやらそれは私だけではなかったようで、彼もまた、私に好意的な印象を抱いてくれていた。
「あなたを我が物にしたい。」
隣国の時期王妃である私の略奪。
きっと彼が本気で動けば、そんなことは容易いだろう。
しかし彼はその行為がもたらす損害を考えて、言葉にするだけに留めたのだ。
きっとシーザー陛下なら、そんなことは考えつかないだろうに。
即位した彼には王妃候補として様々な令嬢が上がっているが、その全てを断っているらしい。
風の噂では、陛下は叶わぬ恋をしていると。
「セリーヌ嬢。どうか国母として、私の隣に立ってはくれまいか?」
跪いて、私の手を取る陛下の表情はとても柔らかい。
私の前ではこんなにも表情豊かな彼に、期待してもいいのだろうか。
もしあの噂が真実で、相手が私だったら…。
「私はたった今離婚された身。そんな私を妻として迎えてくださるのですか?」
そんな期待と、少しばかりの不安。
彼は私の手の甲にキスを落とすと、ニコリと微笑んだ。
まるで、私の不安を見透かしているかのように。
「あなた以外が私の妻になるなど考えられない。
…この時をどれだけ待ちわびたことか。」
なんて幸せなのだろう。
私達は障壁を乗り越え、たった今両想いで結ばれたのだ。
こんな幸せなこと、あるだろうか。
「愛している…セリーヌ。」
「私もです。アラン陛下。」
陛下は私の腰に手を回すと、いつの間にか沸き起こっていた拍手を片手で制す。
──嗚呼、皆様も祝福して下さるのね。
いや、この大陸一の力を持った国王を祝福しない愚か者なんてこの場所にはいないでしょう。…少なくとも彼ら以外は。
「そ、そんな…。」
明らかに動揺しているシーザー陛下とデイジー。
それもその筈。今この空間は私達の婚姻を祝福する空気に包まれており、本来の主役である彼らは蚊帳の外になっているから。
「おかしい…こんなのおかしいわよ!」
こんなにも高貴な場所でみっともなく声を荒らげるとは。
所詮は男爵令嬢と言ったところか。
私はニコリと、今の幸せな感情のままに微笑んだ。
この欲深い女のことだ。きっとシーザー陛下よりも地位の高いアラン陛下も誑かそうとするだろう。
ならば先手を打たなければ。
「婚姻おめでとうございます。シーザー陛下。これからは国王夫妻として共に精進して参りましょう。」
2人は婚姻関係にある、国を代表する国王夫妻なのだと釘を打てば、デイジーも迂闊に動けまい。
それに、たった今離婚したばかりの女にそんなことを言われては、シーザー陛下もたまらないだろう。
彼は明らかに怒りを宿した目でこちらを睨みつけると吐き捨てるように言った。
「調子に乗るなよセリーヌ…。誰のお陰で大国の妃に慣れたと思っている!所詮貴様は顔だけの女だ、すぐに飽きられるだろう。」
「あらあら…。まさか陛下のお陰とは仰いませんわよね?私、陛下に呆れるようなことをされた覚えはあれど、感謝するようなことをされた記憶はひとつもありませんわ。」
私は優雅に微笑んで、そしてシーザー陛下とデイジーに哀れみの目を向ける。
今この場にいる誰もが、彼らの強欲で自分勝手な様に呆れていらっしゃるのだけれど…本人達は気付かないようね。
シーザー陛下は更に食ってかかろうとしてたけど、アラン陛下が片手で制すれば大人しくなった。
まぁ自分達以上の力を持つ大国の国王に歯向かうほど馬鹿ではないか。
「我々は失礼させてもらおうか、セリーヌ。」
「ええ、アラン陛下。」
以前強く腰を抱かれたまま、私は陛下と共に会場を後にしようとする。
陛下は皆に予定を壊してしまったことの謝罪をし、そして後日改めて私達の婚姻パーティを開くと仰っていた。
今までの仕事を押し付けられる日々から脱し、真に愛するものと結ばれた私は幸せに胸を躍らせていた。
──この方と共に国の為に動くことは、本当に楽しいでしょうね。
「お待ちくださいアラン陛下!」
陛下を呼び止める醜い女の声に、私達は歩みを止めた。
まさか先程の牽制が通用しないなんて…。
嗚呼、どこまでも愚かで煩わしい女。
「アラン陛下。」
この大陸一の国土と力を持つ隣国の王。
シーザー陛下に引けを取らない眉目秀麗な容姿に、即位数ヶ月で裏切り者や反対勢力を徹底的に潰した冷徹な王として噂されている。
しかし私は知っている。
彼は誰よりも民のことを思い、弱者や真摯な人間にはどこまでも慈悲深いことを。
どこぞの情欲に溺れた愚かな王よりも、真に国王としてふさわしいお方だということを。
彼と私が出会ったのは、数ヶ月前に開かれた彼の即位式。
まだ即位前、婚姻前でありながら隣国の代表として招かれた私達を、陛下は丁重にもてなしてくださった。
一言二言交わしただけでわかる、彼の優しさと聡明さ。
なぜ周りの人は彼を冷徹な王だと批判するのかわからなかった。
ただ少し感情に伴う表情の変化が乏しいだけなのに。
私が1人バルコニーへ出ていると、陛下は私の元へとやって来た。
話すことは各国の情勢や交易など政治的で面白味のないものだったが、陛下と私は意気投合したのだ。
話していて飽きない。持ち前の聡明さで誰よりも深く会話が出来る彼とは話題が尽きなかった。
──嗚呼、彼の隣に立てたらどれだけ幸せだろうか。
少し会話をしただけで、私は彼の虜となった。
しかしどうやらそれは私だけではなかったようで、彼もまた、私に好意的な印象を抱いてくれていた。
「あなたを我が物にしたい。」
隣国の時期王妃である私の略奪。
きっと彼が本気で動けば、そんなことは容易いだろう。
しかし彼はその行為がもたらす損害を考えて、言葉にするだけに留めたのだ。
きっとシーザー陛下なら、そんなことは考えつかないだろうに。
即位した彼には王妃候補として様々な令嬢が上がっているが、その全てを断っているらしい。
風の噂では、陛下は叶わぬ恋をしていると。
「セリーヌ嬢。どうか国母として、私の隣に立ってはくれまいか?」
跪いて、私の手を取る陛下の表情はとても柔らかい。
私の前ではこんなにも表情豊かな彼に、期待してもいいのだろうか。
もしあの噂が真実で、相手が私だったら…。
「私はたった今離婚された身。そんな私を妻として迎えてくださるのですか?」
そんな期待と、少しばかりの不安。
彼は私の手の甲にキスを落とすと、ニコリと微笑んだ。
まるで、私の不安を見透かしているかのように。
「あなた以外が私の妻になるなど考えられない。
…この時をどれだけ待ちわびたことか。」
なんて幸せなのだろう。
私達は障壁を乗り越え、たった今両想いで結ばれたのだ。
こんな幸せなこと、あるだろうか。
「愛している…セリーヌ。」
「私もです。アラン陛下。」
陛下は私の腰に手を回すと、いつの間にか沸き起こっていた拍手を片手で制す。
──嗚呼、皆様も祝福して下さるのね。
いや、この大陸一の力を持った国王を祝福しない愚か者なんてこの場所にはいないでしょう。…少なくとも彼ら以外は。
「そ、そんな…。」
明らかに動揺しているシーザー陛下とデイジー。
それもその筈。今この空間は私達の婚姻を祝福する空気に包まれており、本来の主役である彼らは蚊帳の外になっているから。
「おかしい…こんなのおかしいわよ!」
こんなにも高貴な場所でみっともなく声を荒らげるとは。
所詮は男爵令嬢と言ったところか。
私はニコリと、今の幸せな感情のままに微笑んだ。
この欲深い女のことだ。きっとシーザー陛下よりも地位の高いアラン陛下も誑かそうとするだろう。
ならば先手を打たなければ。
「婚姻おめでとうございます。シーザー陛下。これからは国王夫妻として共に精進して参りましょう。」
2人は婚姻関係にある、国を代表する国王夫妻なのだと釘を打てば、デイジーも迂闊に動けまい。
それに、たった今離婚したばかりの女にそんなことを言われては、シーザー陛下もたまらないだろう。
彼は明らかに怒りを宿した目でこちらを睨みつけると吐き捨てるように言った。
「調子に乗るなよセリーヌ…。誰のお陰で大国の妃に慣れたと思っている!所詮貴様は顔だけの女だ、すぐに飽きられるだろう。」
「あらあら…。まさか陛下のお陰とは仰いませんわよね?私、陛下に呆れるようなことをされた覚えはあれど、感謝するようなことをされた記憶はひとつもありませんわ。」
私は優雅に微笑んで、そしてシーザー陛下とデイジーに哀れみの目を向ける。
今この場にいる誰もが、彼らの強欲で自分勝手な様に呆れていらっしゃるのだけれど…本人達は気付かないようね。
シーザー陛下は更に食ってかかろうとしてたけど、アラン陛下が片手で制すれば大人しくなった。
まぁ自分達以上の力を持つ大国の国王に歯向かうほど馬鹿ではないか。
「我々は失礼させてもらおうか、セリーヌ。」
「ええ、アラン陛下。」
以前強く腰を抱かれたまま、私は陛下と共に会場を後にしようとする。
陛下は皆に予定を壊してしまったことの謝罪をし、そして後日改めて私達の婚姻パーティを開くと仰っていた。
今までの仕事を押し付けられる日々から脱し、真に愛するものと結ばれた私は幸せに胸を躍らせていた。
──この方と共に国の為に動くことは、本当に楽しいでしょうね。
「お待ちくださいアラン陛下!」
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まさか先程の牽制が通用しないなんて…。
嗚呼、どこまでも愚かで煩わしい女。
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