あなたの愛はいりません

oro

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終曲

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「アラン陛下!私、デイジーと申します。」

私達の進行を邪魔する位置に立ち、聞いてもいないのにいきなり名乗る不躾な女。

陛下は先程とは打って変わって無表情になると、冷たい眼差しでデイジーのことを見つめている。

「その女…セリーヌ様は、陛下の子を宿した私に嫉妬して虐げる酷い女なのです!」

だから自分にしろ。という浅はかな欲が全面に出ているが、まさか見破られないとでも思っているのだろうか。

「…それが何だ。」

「っだから…その嫉妬深いセリーヌよりも、私の方が陛下のお力になれます!」

…呆れてものも言えないとはこういうことを言うのだろうか。
明らかに困惑しているシーザー陛下を横目に、アラン陛下はため息をつくと射殺さんばかりの冷たい視線をデイジーに向けた。

「そなたはシーザー陛下の妻だろう。それに彼の子を宿していると言っていたでは無いか。妊娠が些か早すぎる気もするが…。まさか、他人の子を孕んだ女を国母にしろと?」

貴様の出る幕はない。アラン陛下の瞳はそう言っていた。
陛下の言葉に、周囲も賛同の声を上げている。
確かに、妊娠発覚が早すぎると。
デイジーは明らかに狼狽え、先程の威勢はどこえやら。シーザー陛下の後ろへと退いた。

「他者の子を孕む女など…国母には出来ぬよな、シーザー陛下。」

威圧的なアラン陛下の言葉に、シーザー陛下は緊張した面持ちで頷いた。

「安心しろ。例えその妾の子がそなたの子でなかろうと、そなたら夫婦が離縁することはない。私が保証しよう。」

陛下とデイジーはその言葉に明らかに安心していたようだが…本当に愚かな人達だこと。
アラン陛下はもしデイジーの子が陛下の子出なかった場合、2人から王位を剥奪し、夫婦として辺境にでも送るつもりなのだろう。
つまり、2人は縁を切って逃げることが許されないということ。

──本当に。救いようのない阿呆ね。

「さぁ、今度こそ行こうかセリーヌ。」

「ええ、アラン陛下。…今までお世話になりました。シーザー陛下。」

早くこの場から抜けようと、私は心のままに微笑んでカーテシーをする。
顔を上げると、シーザー陛下は驚いた顔をしてこちらを凝視していた。
嗚呼、そういえば。シーザー陛下に社交的な笑顔以外を向けたのは、これが初めてかもしれませんね。
まあ、もう関係の無い話ですけれども。















数ヶ月後、私とアラン陛下は無事婚姻することができ、婚姻パーティーは国を上げて大々的に行われた。
陛下と私は、望まぬ相手との婚姻という障害を2人で切り抜けて結ばれた運命の夫婦として有名になり、国民からは賞賛の声が上がった。
その勢いは凄まじく、私たち夫婦の絵画や、私達をモデルにした書籍が出版される程だった。
更にアラン陛下と私で様々な政策を打ち出すことによって、国民の生活はより豊かになった。

毎日彼と共に過ごす日々は幸せだ。


しかし隣国のシーザー国王夫妻はどうやら違ったようで、なんとデイジーの子が生まれたらしい。
あまりにも早すぎると思うのだが…。
しかもどうやらその子供というのが、緑の髪に黒い瞳と、デイジーにも陛下にも似てないらしいのだ。

嗚呼、やはり…。
このことで陛下とデイジーは喧嘩をしたようで、今ではお互いの存在を無きものとして過ごしているそうだ。
さらにシーザー陛下の愚策と増税によって国民は疲弊し、近頃は反旗を翻すのではないかと噂されている。

「そろそろ隣国も吸収してしまおうか。」

私の隣に座る旦那様は、私が手にしている資料に目を通しながらそう呟いた。
きっと彼なら、本当にそうしてしまうだろう。
いや、聡明な彼なら、そうすることが国民にとって一番の幸せであることを知っている。

少し前まではシーザー陛下から手紙が届いていたが、最近は手紙と共に花束まで送られてくるようになった。

曰く、アラン陛下と私が結ばれたのは自分のお陰なのだから、隣国の王妃として援助をしろと。

曰く、私の笑顔を見てから私の存在が忘れられない。どこぞの馬の骨とも知らない子を産んだ妾よりも私が大切だと。是非自分の妻として再び国に戻ってきて欲しいと。

この二つの手紙の間にはデイジーの出産という一大イベントがあったのだが、なんという変わりようだろうか。
最初は無視して燃やしていたのだが、イベント後にはさらに頻度が上がったため処理するのも面倒だ。
それにこの意味の無い手紙の為に使われる国民の血税が勿体ない。

「今更セリーヌの愛を乞うとは…見苦しいな。」

アラン陛下の声からは呆れが感じられた。
それでも私の肩に伸ばされた腕は力強く、私のことを離すことは決してないだろう。

「例えどんなことがあろうとも…私が彼の愛を求めることは無いのに…。」

私の幸せは、アラン陛下と共に国を導くことだから。



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