1 / 2
一番星は輝き続ける。彼らの中で。
しおりを挟む俺には感情がない。
いつからだろう。僕は何も感じなくなった。
桜が咲き涼しい風が吹く春も
快晴で自然豊かな夏も
静かで色鮮やかな秋も
寒くて真っ白な冬も
俺には何も感じられない。
俺が中1の時、俺の家族は死んだ。その時からなにも感じなかった。
きっと、あの時から俺の心はなかったのだろう。
けど、それで困っていることはない。むしろその方が楽なのかもしれない。
周りの人間とは違い、自分の嫌なことがあると落ち込んだり、悔しんだりすることがない。
それと同時に、
人生に楽しいと感じることもないのだ。
俺は一人暮らしをしている中学三年生だ。
たぶん中学三年生で一人暮らしをしている人なんて俺しかいないだろう。
朝起きて、ご飯を作り、支度をして、学校に行き、
授業を受け、家に帰り、ご飯を作り、寝る
これが僕の毎日だ。いつもこれをする。
自動的に体が動くようになっている。まるで時計のように決められた時間に決められた場所で決められたことをする。
ピピピビ ピピピビ ピピピビ
目覚ましが鳴る。あぁまた今日も起きてしまった。
カーテンから差し込む光が俺の心臓を突き刺す。
俺の内臓はきっと焦げてしまっているのだろう。
朝食を作る。作ると言っても、パンにジャムを塗り
ヨーグルトと食べるだけだ。なんの味もしない。
学校に向かう。今がなんの季節かも知らずにただいつもの道を歩く。今日は朝から日差しが強い。俺は目を細めて歩いていた。「あいつ目つき悪」「気持ち悪い」「あいつ誰?」そんな声が飛び交う。
だけど俺からしてみたらそんな言葉なんかどうでもいい。学校につき、席を探す。大体僕の席はいつもトイレの前にある。わざわざ俺の机をトイレの前まで運ぶのは何故だろう。僕のことを嫌いなら何もしなければいいのに。いつもそんなことを考えながら席を戻す。
たぶん俺はいじめられている。
けど、いじめられっ子が必ず不幸なわけではない。
俺のように、苦と感じない人もいるのだ。
俺の席は一番後ろで一人席だ。 しかし今日は俺の隣に机が置いてある。
先生が入ってきた。後ろに誰か知らない人がいる。
「今日から転入しました遠藤真奈です。」
教室の窓から強い光が僕を焼いている気がした。
正直俺は人間に興味がない。興味がないんじゃなくて興味を持てない。中学三年生にもなるとカップルとかいう自己満足のためだけにあるくだらないことをする人が多い。現に僕らのクラスは半分くらいが付き合っているらしい。たぶん彼女も誰かと付き合うんだろう。意味もないのに。
「隣よろしく」それが彼女が僕に話した最初の言葉だった。おそらく最後の言葉でもあるだろう。
僕俺は焦点を合わせずに軽く頭を下げた。休み時間はクラスの女子たちが僕の隣に集まる。なぜ集まるのかわからない。けど僕が隣にいると邪魔なような気がしたから休み時間はずっとトイレにいた。
放課後、
俺は意外だと思うがクラブに入っている。しかも二つ。
これだけ聞いたら、中学校を満喫している俗に言う陽キャというやつだ。
でも、俺はあんなうるさいとこしか取り柄がないやつとは違う。
俺が入っているクラブの一つは文芸部。
この部活は、活動日はなく来たいときに来て帰りたいときに帰る、そんな部活だ。
ここは俺みたいな人が多い、
つまりいじめられっ子。
もう一つは天文観測部。
別に星が見たいからじゃないし、星が好きなわけでもない。一人だからだ。天体観測クラブは例年部員がいなかった。俺は一人になれる環境が欲しかった。
しかも天体観測クラブの活動場所は一応屋上になっていて、広い屋上を一人で使うことができる。
かなりおすすめのクラブだ。(進めたら人が入ってくるから進めないけど)天体観測といっても俺は一度も星を見ていない。屋上にいる時は小説を書いている。
俺は小説を書いている。
もし小説を書く人のことを小説家と言うなら俺は小説家だ。だけど俺には人の心に残る小説を書けない。人どころか自分の心に響かない。そんな小説は小説といっていいのだろうか?
文芸部として図書室にいるより、こうして屋上にいる方が楽だった。
結局いつも星が出てくる前に家に帰ってしまう。
家に帰って夜ご飯を作る。
ご飯を食べたらもうやることがないから俺は寝る。
次の日
またいつものように学校に向かった。
今日は席はある。隣には昨日の転入生
確か遠藤真奈だった気がする
が座っていた。俺はバレないように座り本を読んだ。やけに男子の視線を感じる。
俺じゃなかった隣の彼女を見ていた。
きっとみんなからしてみたら彼女は可愛いに分類されるのだろう。昼の時間
昼飯を買うために俺は売店へと向かった。
中学校にしては、売店は珍しいだろう。
大してメニューがある訳でもないがそこそこ揃っている。
俺はいつも通り、
「しっとりなめらかクリームパンをください」
と売店の人に言った。
もう少し、いい名前にしてほしい。
正直こんな名前を言うのは恥ずかしい。
会計をしていると、隣で、
「ヤバっ、あと200円足りないじゃん」
と、声がした。どうやらお金が足りないらしい。
昼の売店は混んでいて、後ろはたくさんの人が並んでいた。
しょうがない。
俺は財布から200円を取って隣の会計の人に渡した。
「良かったら使ってください」
「え、いいのっ?てか、君じゃん」
聞いた事のある声だと思ったら、転校生、確か、遠藤真奈とかだっけ?
「お、おう」
こういう時に何も話せない自分が情けない。
「ごめんね、今度返すから」
そう言って彼女は200円を取った。
帰りざまに彼女の会計を見たが、
1500円
高すぎだろ。
俺の昼の過ごし方、
屋上の鍵を持っているから屋上に行き鍵をかけひとりで昼飯を食べる。
この時間が最高に平和な気がする。ひとり空の下昼飯を食べる。
風が気持ちいい。
まるで雲に笑われているような気がした。
放課後
今日も僕は屋上に行き小説を書いていた。
すると屋上の扉があき誰か入ってきた。
みたことある顔だ。
「ここ天体観測クラブであってる?って誰もいないの?」
遠藤真奈だ。
最悪だ。せっかく一人のクラブだったのに他の人が入ってこられると困る。と悩んでいる後ろに彼女がきた
「君、天体観測クラブだったの?私も今日から入るからよろしく。」
いつの間にか俺の後ろにいた。俺は慌ててパソコンを切った。
俺は小説を誰にも読まれたくなかった。
「天体観測クラブって何するの?」当たり前のようなことを聞いてきた。
「星を見るんだよ」
みたことないし、見るつもりもないけど嘘をついた。
正直入って欲しくなかった。誰もいないから入ったんだ。誰か来たらめんどくさい。「なんでさっきから嫌な顔で見てるの?」
しまった。思わず顔に出てしまった。
「なんでもない。今日は星が見えるかなー」
苦し紛れに言い訳をした。彼女は本気で星を見るつもりだ。それは困る。僕は見方も道具も知らない。
「僕は今日用事あるから帰るね」
適当なことを言って帰ろうとした、ガチャ ガチャ
鍵がかかってる。
「私も天体観測クラブなんだから鍵くらい持ってるよ」
確かにそうだ。でも俺も持っている。あれ?ない俺の鍵がない。
「あー君の鍵ならここにあるよ、さっき机に置いてあったからとっちゃった」
おもちゃを買ってもらった子供のように俺の鍵を掲げていた。
しょうもない。めんどくさかった。
「早く返してよ」
「やだよ、だって今日予定ないでしょ?星みようよ」
バレてた、俺は元から嘘が苦手だ。しょうがない付き合ってやるか。
「でも星の見方とか俺は知らないよ」
「は?じゃあいつも何やってるの?」
俺は嘘をつこうと思ったけど、バレる気がしたから正直に話した。
「なるほど、つまり君はサボってるってことだね」
少し意味が違う気がしたがまぁ間違いではない。
すると彼女はどっかに向かって走っていった。
「ここが部室でしょ?」
驚いた。
こんな場所があるとは、僕は普段屋上に机だけ置いて本を読んでいたから屋上の裏にこんな部室があるとは思わなかった。彼女はなんの迷いもなく部室に入っていった。
すぐ手に出てきて何にか大きなものを持ってきた。
「見つけたよ!これで星を見れるね」
どうやらこれで星を見るらしい。こんなのテレビでしか見たことない。ほんとに存在するんだ。
「それにしてもずっといるのに部室を知らないってどういうこと?バカなの?」
急に煽ってきた。
確かにバカかもしれない。
俺は携帯で望遠鏡の使い方を調べてセッティングした。
こんな感じでいっか。
正直星を見れるとは思ってはない。
そんな簡単なことではないことくらいはわかってる。
「まだ時間あるけど何する??」
一緒にする前提で聞いてこられても、僕は彼女と星が出るまで過ごす気はない。
机に戻って小説を書き始めた。
「そういえば、今日の200円ありがとね」
「別に大丈夫、てか食いすぎだ。」
ムッとした顔でこっちを見ている。
「それと、別に返さなくていいから」
後々面倒だから返さなくていい。
そして俺は机に戻った。
「ねぇ小説書いてるんでしょ?」
びっくりした、本当に驚くと肩が上がるんだというのがわかった。
「なんで知ってるの?」
「さっきチラッと見えちゃった、読ませてよ」
「絶対にヤダ、俺は自分の小説を誰にも見せないようにしてるんだ」
「じゃあなんのために書いてるの?」
そう言われると確かになんで書いてるんだろう。
たぶん
「俺は何も感じないんだ、たぶん心が死んでるんだろう。だから小説を書けば何か変わる気がして書いてるんだ」思ったことをただ喋った。
「それで何か変わった」
「何も」
俺は一体なんのために小説を書いてるんだろう?
きっとこの気持ちは墓場まで持っていくんだろうな。そんなことを考えていると、辺りは暗くなっていた。
「そろそろ星が見えるんじゃない」
中学三年生とは思えない幼い顔をしていた。
確かにもう辺りが暗い。僕は望遠鏡を覗いた。
真っ暗だ。何も見えない。
まるで自分の心の中を見ているような気持ちだった。
「ねぇレンズのカバー取った?」
そう言って彼女が何やらレンズを動かした。
すると俺の目に光が差し込んできた。
俺の目には夜空に輝く星が見えていた。
それはなんとも美しいものだった。
例えようとしても例えられない。言葉では表せない景色だった。
「ねぇ私にも見せてよ」
俺は星に見惚れてしばらく夢中になっていた。
俺は初めて美しいと思った。
それどころか初めて何かを感じた。
感じるということがこんなにも素晴らしいことなんだとわかった。
自分の心臓が動き出した気がした。
今までは止まっていたのがようやく動き出した。
「私にも見せて!」
彼女は俺を押し倒し望遠鏡を奪った。
俺の視界は戻ったが、美しく見えた。
「うゎー綺麗」
望遠鏡を覗き込む彼女が俺にはなんだか眩しく見えた。
「星ってこんなに綺麗なんだね」彼女が言うと、
俺は「そうだな!」と答えた。
「やっと感情がこもった声を出したね」笑顔で言う彼女。
きっと今まで俺はなんの気持ちのこもってない声を出してたんだろう。
今日という日を俺は決して忘れないだろう。
「また星を見よう」
考えるより先に、言葉が出ていた。心の底から思った言葉が。
「当たり前でしょ天体観測クラブなんだから」
夜、屋上で俺らは星を見た。
この時間がいつまでも続いて欲しかった。
月が俺らを見て、微笑んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる