織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる

猫パンダ

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第三章 奪還

第四十四話

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 土で汚れた城壁を伝う蔦。所々苔の生えた城は、小さく寂しい印象を抱かせる。その小城の傍を流れる川に、何隻かの小舟が浮かんでいた。松明は途中で消したのか、灯りのともさない小舟は、上手いこと闇に溶け込んでいる。

 「オレ達の存在には、気付かれていないようだな」

 ザァブリオが、鼻を鳴らした。見張りの兵士は、闇に紛れた彼等の事が見えないらしい。皆、こぞって黒い服を着ているから、尚更だろう。

 「お前の赤髪は、目障りなんだからさ。見付からないように気を付けろよ」

 晧月がサラっと毒を吐く。だが、ザァブリオは嫌味なんて気にしない男。いや、気にしない……というより、気付いていないのかもしれない。嫌味の通じないザァブリオは、キョトンと間抜けな顔で、頭を捻らせた。言葉の意味を、空っぽの頭で処理し、やがて答えを導き出す。

 「はっはっは。ありがとう晧月!心配してくれたんだな!」

 持つべきものは友なのだと、ザァブリオは照れ臭そうに笑う。その顔を見て、晧月は何とも言えない気持ちになった。崖から落ちた自分を、助けてくれたザァブリオには、感謝している。だからか、前のような嫌悪感はない。ただ……こうも純粋に友情を示されると、照れ臭くて仕方がない。

 「声がデカいよ。馬鹿」

 晧月は、目線を逸らして、悪態をつくことしか出来なかった。

 手に滑り止め付きの手袋を嵌め、晧月は城壁に足をかけた。まさか、道具も無しに壁を登るつもりなのかと、普通なら思うだろう。だが、晧月の化け物じみた身体能力を知っているザァブリオ達は、黙って様子を見守っていた。

 土や石で築かれた城。石と石の間に出来た僅かな隙間を掴んで、指だけの力で自分の体重を支えなければならない。晧月は、特に苦しそうな顔を見せるでもなく、余裕そうに片腕……いや、片指で城壁にぶら下がった。もう一方の腕も伸ばして、指だけの力で、どんどん上へとよじ登って行く。その姿を見上げながら、まるで、蜘蛛男のようだと、ザァブリオは思っていた。そんな事を思ったからなのか、晧月が移動した際に落ちてきた石ころが、ザァブリオの頭にゴツンと当たる。

 「ぬぉおおお!?」

 唸り声を上げて悶絶するザァブリオを、晧月が呆れた顔で見下ろした。

 「何やってんの、あいつ……」

 ようやく到達した窓枠に手をかけ、窓ガラスを割る。パリンという音により、数人のシュッタイト兵が走って来たが、素早い動きで首を掻ききった。吹き出す返り血を、首を傾けて避けると、窓から勢い良く縄梯子を下ろす。それをメイリンが受け止め、兄の顔を見上げた。

 「お兄様……」

 晧月は片手で、合図した。それに頷いて返し、メイリンは振り返って、渼帝国の兵士達を見やる。晧月と同じ銀色の髪が、橙色の星に照らされて、淡く輝いていた。

 「そうね……お前達は城の門付近で、身を隠していなさい。私とザァブリオ王子は、お兄様に続いて、姫君達を奪還する。無事成功すれば、合図するので、くれぐれも出遅れぬように」

 メイリンは、縄梯子に足を掛けて、再度言葉を紡いだ。

 「よいか?合図さえあれば、この城で暴れ回ってよいのだ。憎きシュッタイト人の血潮で、剣を染め上げて見せよ。勇敢なる兵士には、この私自らが褒美をやりましょう」

 「が、頑張ります!皇女様!」

 メイリンの妖艶な笑みに、兵士達はこぞって、やる気を見せた。その様子を、ザァブリオがポツンと後ろで眺める。メイリンは、確かに美人だ。華のある顔。気高い獅子のような気の強さ。カリスマ性もある。だが、なかなかに恐ろしい女なのだ。

 「お前達、私はもう皇女ではないと何度言えばわかるの?夫人と呼びなさいと言ったはず……もしかして、ワザとやっているのかしら……?」

 「め、滅相もございません!!」

 銀色の瞳が、キュッと細められる。まるで蛇のような眼差しに、ザァブリオは息を止めた。そのまま、存在感も薄める。兵士達の後ろで、ひっそりと姿を隠すザァブリオの腕を、メイリンが掴み上げた。

 「ザァブリオ王子、何をやっているの?遊びに来た訳じゃないのよ?早く城の中に侵入しましょう」

 「あ、ああ……」

 ずる、ずると体を引き摺られて、ザァブリオは歯噛みした。細腕の癖に、何という馬鹿力。メイリンはニッコリと笑いながら、兵士達へと言葉を投げかける。

 「では、行ってくるわ。縄梯子の処理は、お前達がしておきなさい」

 「は、はい!……李夫人!」

 「あら、よく言えたわね……今度また間違えたら、エイサフの首を取る前に、お前達の舌を抜き取っていたところよ」

 冷めた言葉に、ザァブリオが体を縮こまらせた。メイリンに掴まれたままの腕が、ミシリと音を立てる。ザァブリオは、思った。おしっこがチビりそうだと……。
 
 青ざめた顔で敬礼する兵士達に見送られながら、メイリンとザァブリオは縄梯子を登った。上では、晧月がむっつりとした顔で待っている。

 「遅いんだけど」

 「ごめんなさい、お兄様」

 兄である晧月には、しおらしい態度のメイリン。ザァブリオは、やれやれと心の中でため息を漏らした。
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