織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる

猫パンダ

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第四章 消えた侍女

第五十六話

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 ルビーは、よく働く侍女であった。せかせかと動き、掃除をすれば宮殿の隅々まで磨き上げ、埃を残さない。テーブルセットを任せられれば、1ミリの歪みもなく丁寧に準備する。ベッドメイクは完璧なだけでなく、フラワーデコレーションという主人を喜ばせる遊び心も忘れない。覚えも良く、聞き分けもいい。言われた事は忠実にこなす侍女……それがルビーだ。

 市は、久実付きの侍女である凛々りんりんにお茶を入れてもらい、それを一口啜った。目の前では、久実が茶菓子を齧りながら、その優秀な侍女の噂話に花を咲かせている。

 「でね、そのルビーって子があまりにも優秀だから、レイムホップさんがお市ちゃんの正式な侍女にするつもりだって言ってるみたいなの……ほら、あなたには今、正式な侍女が付いていないでしょう?」

 確かに、ラビアが居なくなってしまった今……市の身の回りの世話をしているのは、手の空いている宮殿の侍女達である。バラバラに違う人間が彼女のお世話をするよりは、そろそろ特定の侍女を付けた方がいい。レイムホップは、そう判断したのだろう。

 市としては、ルビーは気弱そうに見えて、なかなか強かな女だ。そういう女は嫌いではない。仕事が出来るなら、なおさらだ。

 「私もあの者が専属になってくれるのなら、嬉しいです」

 「あら、お市ちゃんもその子の仕事ぶりを、気に入っているのね」

 久実から見たルビーとは、仕事が出来るが気弱そうな侍女だ。一度話した事があるが、おどおどとしており、ハッキリとしない。市は、ああいうタイプはあまり好きではないと思っていたため、意外だった。

 「クーミン!!」

 バン!と大きな音を立てて扉が開き、ザァブリオが突進する勢いで久実を抱き上げた。突然の出来事に久実が目を白黒させる中、相変わらず大きな声で、嬉しそうに話し出すものだから、久実は思わず眉を顰める。

 「ハッハッハー!!今日もクーミンは可愛いな!」

 「そのクーミンっていうの止めてって言ったでしょう!?」

 「照れなくても大丈夫だ!!」

 「照れているわけじゃ……っ」

 ザァブリオは爽やかに笑いながら、久実を抱き上げたままクルクルと回った。二人の間に花が舞っているように見えて、市は思わず目を擦る。白薔薇宮殿に帰ってきてからというもの、 ザァブリオと久実はずっとこんな調子だ。ザァブリオがあからさまな好意を隠すこと無く久実にぶつけて、彼女が怒りながらも照れている。そんな二人の様子を見せつけられるのは、もう、お腹いっぱいである。

 市は、ため息を押し殺して、久実の顔を見た。嫌そうでいて、嫌そうには見えない。むしろ彼女は、ザァブリオからの好意を嬉しいと思っているのではないだろうか。

 「クミ!」

 「何よ!?そんな大きな声で呼ばなくても、聞こえてるわよ!」

 ふざけた呼び名ではなく、名前で呼ばれて、久実は思わず頬を染めた。

 「オレと結婚してくれ!」

 「な、何で私があなた何かと…!そもそも、年齢が違いすぎるわ…わ、私は元50歳の女で…」

 真っ赤になって、しどろもどろになる久実は、ストレートな愛の告白に弱かった。彼女の夫は、ザァブリオのように自分の気持ちをさらけ出したりなんかしない。一方、ザァブリオは、照れる久実を愛おしげに見つめながらも、彼女の言った意味について考えていた。

 ーー元50歳とは何だろう。よく分からないが、今オレの目の前にいるクーミンが、オレの愛した人。それでいいじゃないか!

 彼は、頭が悪い。そのため、久実の言った言葉の意味を理解する事はなかった。

 ザァブリオの登場により、久実が彼に取られてしまったため、市はポツンと一人になる。恨めしげにザァブリオを見つめても、「そんな目でオレを見ても無駄だ!オレにはクーミンがいるからな!」等と、見当違いな事を言い出すだろう。市は、ため息を吐くと、久実の部屋をあとにした。

 部屋の外に出ると、派手なメイクをした女と目が合った。女はたっぷりとしたフリルをあしらったドレスを着ている。丈の短いドレスから、白い太ももが除く様は、あまりに下品だと市は思った。

 「何見てんのよ」

 市は首を傾げた。

 「そなた、誰じゃ?」

 「な」

 ビシと固まる女……里奈は、怒りから口元をひくつかせながら、わなわなと拳を握り締めた。

 「いい?調子に乗るんじゃないわよ。あんた……晧月と結婚するらしいじゃない。でも、そんなの認めない!私は絶対に認めないんだから!!」

 負け犬の遠吠えのように、キャンキャンと喚き散らすと、彼女はバタバタと走り去って行った。結局、彼女が誰だったのか思い出せない。市は、関心のない人物のことは、すぐに忘れるのだ。

 「あのように破廉恥極まりない知り合いなど、いたか?」

 女の口振りからして、彼女は自分のことを知っているようだった。だが、市にとっては、取るに足らない女だ。何やら晧月のことを認めない等と喚いていたが、それがどうした。何故、あの女に認めてもらわねばならぬ。市は、ふっと口元を歪める。

 「弱い犬ほど、よく吠える……」

 まさに、あの女のことだ。現に、女は言いたいことだけ言うと、尻尾をまいて去っていったのだから。



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いつも読んで下さり、ありがとうございます。今回は私のミスで、途中だった原稿を投稿してしまいました。すみませんでした。以後、気を付けたいと思いますm(_ _)m
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