織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる

猫パンダ

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第五章 渼帝国のお市

第六十九話

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 仮式当日。宮殿内は、朝からざわざわと賑わっていた。宮殿の者だけで行われるため、来客者はいないのだが、大きくて美しい教会に、豪華な料理、豪華な装飾が、小さな結婚式とは思わせない。侍女達は、市と久実にドレスを着せ、いつもより少し濃いめに化粧を施した。

 市の長い髪は上で纏められ、頭には銀色に光る石のついたティアラと長いベールを被っている。透け感のあるベールは、小さな小花が沢山あしらわれていた。手にも透け感のある手袋をし、まるで西洋のお人形さんといった姿の市に、久実がほぅと溜め息を漏らす。

 「お市ちゃん、とってもキレイ……」

 「お久実ちゃんこそ、とても似合っておりまする」

 久実のドレスは、ザァブリオが知恵熱を出しながらも、選び抜いたもの。童顔な久実の大人っぽさを引き上げるために、Aラインのドレスは、シンプルたが、上品だ。いつもの可愛らしい雰囲気よりも、綺麗な雰囲気となっている久実は、凛としたお姫様のようだった。ザァブリオと同じ色の赤い宝石が、久実のティアラに光っている。

 「それぞれ、別の国に嫁いでも、友達でいて下さいますか?」

 市にとって、久実は初めての友達だ。白薔薇宮殿での彼女との日々は楽しく、かけがえのないものとなっていた。

 「当たり前じゃない!」

 そう元気よく答えた久実に、市は嬉しそうに微笑する。すると、目の前の扉が開かれ、広いバージンロードの先に、晧月とザァブリオが立っていた。

 事前にシュミレーションを行っていた二人は、一礼すると、すぐ近くに居たレイムホップの腕に手を絡めて、ゆっくりとバージンロードの上を歩き出す。

 宮殿内の侍女や騎士、悔しそうな顔をした里奈と、その隣に寄り添うキティーリオが見守る中、晧月とザァブリオは、それぞれの姫君の手を取った。お役御免となったレイムホップは、静かに一礼して席に戻る。

 「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか? 」

 「誓います」

 4人の声が重なり、神父は笑みを浮かべた。

 「では、誓いのキスを……」

 その言葉に市の顔が少し曇る。人前で口付けるなど、市からすれば考えられない。だが、それがここでの祝言なのだとしたら、受け入れるしかない。だが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 俯く市のベールを外し、晧月は市の頬に手を添えた。

 「幸せにすると誓うよ」

 彼からの嬉しい言葉に頬を染めると、優しく唇を押し付けられる。柔らかなその感触に、市は恥ずかしさよりも、幸福に包まれた。

 「大好きです、晧月様」



 歴史上ーー。
 戦国一の美姫と言われた、織田信長の妹、お市。彼女はこの世界で、ヘンタドリム大陸一の美姫と呼ばれ、やがては渼帝国の皇妃として名を連ねた。

 皇帝となった晧月は、ついにシュッタイト帝国を滅ぼし、囚われていた異界からの姫君を解放して、ブロリンド王国の王となったザァブリオに預けた。姫君は、生まれてきた久実の子供付きの筆頭侍女として、バリバリと働いたそうだ。

 晧月と市の間には、3人の皇子と、5人の皇女が生まれ、2人によく似た愛らしい子供達は、強く賢く成長した。市は、幸せであった。ただ一つ……兄のことが気にかかっていただけで……。



 ごうごうと燃え上がる炎。本能寺は、裏切り者の明智光秀により、攻め込まれていた。信長が、心底信頼していた、明智光秀に……。

 「光秀めぇ……あの、うつけがぁ!」

 ようやく天下人になれるところを、家臣の裏切りにより、叶わなくなってしまった。大事だった妹の……市は、自分が天下人となる日を楽しみにしてくれていたというのに。

 ある日突然、姿を消してしまった市。攫われたのか、殺されてしまったのか、自ら出て行ったのか……今となってもわからない。生きているのか、死んでしまったのか。信長は、彼女に生きていて欲しいと願っていた。うつけと呼ばれた自分を兄と慕ってくれた可愛い妹が、死んでしまっただ等と、思いたくはない。

 「信長はどこじゃぁー!」

 光秀の兵が、自分を探して声を張り上げている。もう、助からないだろう。本能寺の奥まで追い込まれてしまい、逃げ道もない。そもそも、兵の数も少ない時に、狙われたのだ。どうしようもなかった。

 「是非に及ばず……。蘭丸!」

 「はっ」

 「ここを、燃やし尽くすほどの火をつけよ。信長の首を誰にも取らせるでない」

 「お、お館様……」

 小姓である蘭丸が、悔しさに涙を流す。信長はフッと笑って、その頭に手を置いた。

 「泣くな。よい人生であった」

 唸るように燃え盛る炎。その炎の海の上で、信長は扇子を広げた。

 「人間五十年。天下のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり。一度生を得て、滅せぬものの、あるべきか」

 信長が愛した幸若舞の敦盛を舞う。その力強さは、炎のうねりにも負けてはいない。

 扇子で、燃え上がる炎を斬る。その揺らめきの、なんと美しいことか。皮膚が爛れ、足が焼かれ、やがて信長は舞うのを止めた。うなる炎に呑み込まれながら、彼はその先に何かを見た。それは、死ぬ間際の幻だったのか、それとも本当に彼女だったのかーー。

 遠い見たことも無い地で、かの妹……市は幸せそうに笑っていた。不思議な色彩を持つ子供を抱えて、隣に立つ眩い光を纏う男に寄り添いながら……。

 「……市」

 名を呼べば、一瞬……目が合ったような気がした。彼女の驚いた顔は、信長の記憶にあるものよりもずっと、女性らしく、大人っぽい。

 「見ぬ間に、美しくなったな……」

 後悔でもない。悲しみでもない。その声に含まれた感情は、喜びであった。たとえそれが、彼の願望により現れた幻でもいい。再び、あの可愛い妹と合間見えたのだから。

 炎の海に、信長は倒れた。その顔は、とても満足そうに微笑んでおり、悔いなど窺えない。

 彼の姿はやがて、赤く、橙色に揺らめく炎によって、消えていった。


[完]
ーーーーーーーーーーーーー
ここまで、読んで頂きありがとうございました。途中で、更新速度が落ちてしまい、申し訳ありません。スランプもありながら、ようやく終わらせることが出来ました。応援して下さった方々、本当にありがとうございました。
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感想 35

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みんなの感想(35件)

nagupon
2021.12.28 nagupon

一気に読み進めました。
考えがまとまらないけど、感想は書きたいと思いまして…
色んな感情がグルグルしてるけど、市が幸せでよかったと強く思います。
素敵な作品に出会えてよかった!

2021.12.28 猫パンダ

nagupon様、コメントありがとうございます!完結まで読んで頂けて嬉しいです( ^^ )
戦国時代で過酷な人生を送るはずだった市を、異世界で幸せにしたくて書きました。途中でエイサフが暴走してヤンデレ化したり、当初の予定とは違う方向にキャラが突っ走ってしまったりしましたが、楽しく執筆する事が出来ました(^-^)この作品を読んで頂き、ありがとうございます。

解除
とも
2021.10.12 とも

以前感想を投稿したトモです。
途中で連載終わってしまったと思って、
遠ざかっていましたが、今日たまたま、更新されているのを発見して、2年ぶりに、完結まで読みました。後半重い印象だったので、ラストとても救われて良かったです。もう一度最初から読み返そうと思います。良い作品ありがとうございます。

2021.12.28 猫パンダ

トモ様、コメントありがとうございます。返信遅くなり、すみません(><)
完結まで読んで頂きありがとうございます!嬉しいです(TT)途中で、エイサフが暴走して暗い話になってしまいました、、。市を元の時代よりにいるよりも幸せにしたかったので、最終的にハッピーエンドで終わらせることができて良かったです。応援ありがとうございました!

解除
まもちゃん
2019.10.13 まもちゃん

完結おめでとうございます🎵
新しいお話、楽しみにしています。(o^-^o)

2019.10.14 猫パンダ

まもちゃん様、いつも読んで頂きありがとうございました。ここまで、応援して下さり、ようやく完結する事が出来ました(^^)
また、次の作品を出す際、掲示板でお知らせしますので、よろしくお願いします✩.*˚

解除

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