「無」の魔王

エルド

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第２章「統治」

第六話-③「早すぎる農業改革」

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僕たちは農業区画に到着した。

この土地はアクセスの中で最も農作業に適していた。

しかし農地は想像より格段に狭く、街の人たちを賄うほどの収穫量は期待出来なかった。

正直ボクは人間たちから送られてくる資源を利用してしまえばよいのではないかと疑問に思ってしまう。

だからこの政策に何の意味があるのか分からずにいた。

そんなこと考えていると作業していた農家の人間たちが声をかけてきた。

「おや、魔王様！」

　魔王様の姿を見た農家たちは一目散に集まり始めた。

そして一同が一斉に「お疲れ様です！」と挨拶をする。

彼らの挨拶を終えると魔王様も続けて挨拶をした。

「お疲れ様です」

　魔王様が挨拶をするとそれを見ていた農家たちが一同茫然としていた。

すると農家たちはこそこそ耳打ちをしていた。

その表情はどこか嬉しそうだった。

（お気楽な人間たちだな……）

　ボクは農家たちのその光景を見てどこか不愉快な気持ちになった。

しかし仕事などで私情を挟んではいけないと分かっているボクは軽く咳払いをして本題のことを話し始めた。

「コホン！　それで今の状況を教えてください」

　ボクの言葉に一人の農家が駆け寄って来た。

「はい！　報告書にあげた通り収穫までは順調ですが、収穫量を増やすのは難航しているところです。」

　その農家が言葉と一緒に執務室に提出した報告書と同じ内容の資料を渡してくれた。

しかしボクはこの資料を見て驚くことになった。

「え、何ですかこのデータは！？」

　その資料に書いてある収穫量は予想通りだが、問題は作物の性質についてだ。

「作物の栄養価が従来のものより比較的に高くなっている！」

　そう何故かこの場所で収穫した作物が予想以上に栄養価が高いものたちばかりだった。

調べたときはそんなに良い土壌というわけでは無かった。

むしろ取引で生活してきた土から作物が育つだけでも驚きものである。

「まさかあの“肥料”がこんなにも凄い結果になるとは思わなかった」

　実はこの農地は普通に植えただけだと収穫に至るまで時間がかかってしまう。

そんなときに魔王様がとある肥料を農地にばら撒くと、明日になるとすぐに収穫出来る状態にまで成長したのだ。

その瞬間を見たボクは腰を抜かすかと思った。

しかしそれでも飲食店や貿易品として使うにはあまりにも数が足りなかった。

それでも街の人たちを補うのには十分だった。

「……けれどやはり今後のことを考えると収穫量を増やせるといいですね」

　やはりコネと信頼を得るには供給量増やす必要がある。

こんなにも需要がとても魅力的なのに供給に回す量がなくては意味がない。

そのことを考えると魔王様が口を開いた。

「それではこんなのはいかがでしょう」

　魔王様は6枚の紙を生成して、3枚ずつボクと農家に手渡した。

紙に書いてあったのは提案書だった。

考えることの出来ない魔王様の提案書がどんなものかと不安な気持ちで見ているとその内容は驚きのものだった。

「『農地の敷地を塔のような建造物を作る案』に『地下に農地を作る案』、『領地を拡大させる案』って何ですかこの提案書！？」

　すべての提案書は見て分かるものだったがもし実現できるのであれば農業以外で利益が大きい内容のものも多かった。

そんな内容ばかりの提案書に脱帽しているのか驚いた顔のまま固まってしまった。

そんな提案書たちに驚きの気持ちが収まっていないというのに魔王様はせかすように追い打ちで言葉を続けた。

「それで決まりましたか？」

　まだ内容を詳しく理解出来ていないのに答えを求めるので焦ってしまう。

それだというのに魔王様は無表情で立ち尽くしていた。資料を見ているだけで魅力的に思える。

だがこの全てを採用してしまうと魔物として何か外れてしまう気がする。

同じく資料を見ている農家は全て採用したいという顔をしつつも気軽に発言をしても良いのかと悩んでいる。

だからボクはその決定権を譲る気はない。

ボクは熱くなり試行錯誤した即席の提案を魔王様に伝えることにする。

「魔王様、発言の許可を」

　ボクの真剣な物言いに農家は少し怖気づいた。

それとは引き換えに魔王様は表情一つも変えずに「どうぞ」と発言権を貰った。

ボクはこのチャンスを逃すことなくボクの考えたことを伝えた。

「私は塔の建設の案と地下に農地を拡大させる案を採用したいと考えております。理由は塔のような建造物はどのような形になるかは想像出来ておりませんが、農業的観点から見ても、また観光資源としてもとても魅力的だと思います。それと地下に農地を広げることは収穫量増加だけではなくいざとなった時に避難所として機能出来ると思います。さらに地下なら鎮圧剤や自白剤の材料の確保が可能になり、政治的に見てもこの街の重要性がガラッと変えるきっかけになると判断できます」

　ボクの熱弁に農家は話になんとか食らい付いている。

しかし重要なのはそこではない。

魔王様がそれを採用くださるかが重要だ。

これまでちょっとした我儘を受け入れてくれた魔王様でもその全ては『加護』の審議によって決まる。

（頼む！　ボクの提案を受け入れてくれ）

　ボクがそんな願いを祈っていると魔王様はゆっくり口を開いた。

「分かりました」

　その言葉を聞いたボクは嬉しく舞い上がりそうなった。

だが、そんなボクの心情を置き去りにするように魔王様は地面に手を置き、口頭で何かを唱えていた。

「アースクリエイト、ビルドクラフト」

　魔王様の発した言葉と同時に大きな出来事が起こった。

まず初めにアクセスの街に大きな地震が発生した。

その激しかったのだが後日その被害者は見受けされなかった。

そしてもう一つは農地の周りにまるで囲むように壁が生成させた。

その壁はやがて円柱のような建造物になった。

ここまで話したこと全て10秒の内で起こったことだった。

こんなことが起こってしまったら流石の周りにいた人たちは一緒になって驚いてしまった。

農家の何人かは腰が抜けた者もいた。

「こちらをどうぞ」

　ふと魔王様がとある紙の束をボクに渡してきた。

ボクはそれを見た驚愕してしまった。

「各階層に種類別に農作物を育てているだけではなくゴーレムを3体ずつ配備しており、さらには地下にも厳重に貴重な作物を栽培が可能にしている！？」

　この資料を見ているだけでもオークションで出品出来てしまう代物ではないかと思えてしまうものばかりだった。

資料見て改めて塔の方に視線を向けると地面を同じ色をしていた壁がいつ間にか透明になっており、中には確かにゴーレムがいた。

（地下はまだ見ていないけど、ボクの希望を全て叶えてくれたのか！）

　その真実が分かっただけでもボクは加護の容認できるものだと判断されたのだと思った。

（けれどこんな希望を通すより“あの願い”を叶えて欲しかった……）

　ボクがそんなことを考えていると魔王様が農家に話をしていた。

「それでは1週間後にまた報告書を上げてください」

「はい！　分かりました」

　話を終える魔王様は瞬間移動の魔法を使って執務室に戻ってしまった。

そんなことに気づかずにいると先程魔王様を話していた農家に声をかけられた。

「あの……魔王様がお帰りになりましたが？」

　その声を共にボクはようやく置いてけぼりにされたことに気づいた。

ボクは急いで執務室に戻った。

「ていうか戻るときは一言声をかけろよー！」

　そんな言葉が魔王様に届かないと分かりながらもボクは残っている仕事を済ませて一日を終えた。

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