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二章 魔女の巣くう塔
Ⅰ 目指す目的
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視界に映ったのは、天井から落ちた瓦礫が足に圧し掛かり、動けなくなった十五歳の弟の姿であった。
「……兄……ちゃん、……たす、け、て」
次第に声が弱くなっている。何度も「兄ちゃん、兄ちゃん」と呼ぶ姿。しかし兄のトウマも、瓦礫に埋もれて鳩尾から上までした出ておらず動けない。
視界に映る弟の姿を、”どうにかして助けたい”と悲痛な想いで眺めるしか出来ない。足掻こうにも身体が動かせず声も出せない。
涙が零れ、死が迫っていると恐怖した矢先、落ちた瓦礫が手を潰し、更に落ちてくる音だけが聴こえて視界が暗転した。
トウマは百貨店で起きた爆発事故に遭い死んだ。爆発が事故なのか事件なのか、定かでないままである。
運良く転生し、ビィトラに神の昇格試験内容と試練達成後に貰える報酬の話を聞いた。どんな無理な願いも叶うと言われたので、即座に爆破事故が無かった世界にすると誓った。
転生も幸運だが、更に幸運だと感じたのは、前世で流行った”転生”をテーマにしたアニメやゲームのような方法で成長できる事であった。
効率よく力を付け、仲間を作り、前途洋々とばかりに順調にレベルを上げていった。しかしある依頼で異形の魔獣と遭遇し、全てが崩れた。
魔獣の姿は、頭と胴体がライオンのようであり手足がやけに長い。行動は肉食野獣が標的を襲うようなものだが、かなり素早い。
仲間や他の賞金稼ぎ達と共に魔獣に挑むも全く歯が立たない。正確には、剣技や術は効果が見られたが、急速で傷が修復し、落とした手足も再生したのである。
戸惑いと焦りを強いられた戦いを続け、一人、二人と頭を喰われてしまう始末。
窮地に立たされ混乱する最中、トウマは魔獣の攻撃を受けた。その接触のおかげで、魔獣の傍に浮遊する守護神を見つけた。しかしそれは混乱を招いた。
生き残った者達が逃亡を考えたが時すでに遅く、魔獣の広すぎる間合いから抜け出す事すら困難な状態となってしまった。賞金稼ぎ達が喰われ、転生者の仲間も捕まり、圧倒的なまでの劣勢に立たされたトウマは自らも頭を喰われる光景を想像した。
「助けてくれぇぇ!」
自分より年下の転生者が魔獣の口元まで運ばれるのを見た。
「助けて! トウマさん! 助けてぇぇぇ!」
(兄ちゃん……たすけて)
弟の姿と仲間の姿がダブって見える。……間もなく、仲間の頭が喰われた。
悔しかった。憤った。しかし、”抗う事は不可能”と理性が判断した。沸き立つはずだった激高は、不気味な笑みを浮かべる魔獣と目が合った途端、全てが“恐怖”一色に染め上がった。
「う、うわああああああ!!!」
トウマは逃げた。必死に、思考は助けを求める言葉しか繰り返さない。
追いつかれる事は分かっている。逃げきれないのは分かっている。それでも足は魔獣から離れる一心で動いた。
ドシン、ドシンと、迫って来る音が聴こえる。
ガラガラと、岩が崩される音が聴こえる。
振り返る事は出来ない。とにかく身体は一心不乱に逃げる事だけしか機能しなかった。
(助けて! 助けて! 誰か!)
涙を流し、呼吸がひゅう、ひゅうと音が鳴るほど走った。
『町へ行けば助かる』
その思いを強く抱き、ひたすら走った。
渾身の想いに反応したのか、自らの魔力がトウマの全身を覆い、瞬間的に町へ移動した。
現実か幻かなど分からない。ただ、助かったと安堵し、気が抜けたトウマは意識を失った。依頼を受けた町の入り口で。
トウマは岩場の惨劇と魔獣の顔に恐怖して目を覚ました。隣にはジェイクが小さいながらも鼾をかいていた。
自分はあの惨劇から生き延びた。
けどどうして生き延びているのか分からない。
まだ魔獣が自分を探しているかも、と不安が募る。
数日経っても恐怖はまるで払拭されていない。
今後、あのような魔獣が現われでもすれば、自分は生き残れる保証は無い。
死ぬ時は、仲間達と同じような有様で。
恐怖に苛まれたトウマは布団の中で蹲った。
◇◇◇◇◇
翌朝、支度を整えてジェイク達は次の町へと向かった。トウマは寝不足で両目の下にくまができ、表情は元気が無い。
「おいおい大丈夫か? ”寝不足で術が使えません”、じゃあ洒落になんねぇぞ」
金も無く、村には馬も次の町へ向かう馬車なども出ておらず、徒歩で向かうしかなかった。
「ははは……。ごめんなさい」
苦笑いを浮かべるトウマの様子は、昨日聞いた仲間が喰われる場面が影響しているものだとジェイクは察した。
「眠くなったら無理するなよ。お前が死んだら俺もかなり窮地だ。何より、ベルに喚かれる」
言葉に反応してベルメアが姿を現した。
「気遣いが出来るのは良い心がけね、最後の言葉は聞かなかったことにしてあげる。けど、いらない心配よ」
「なんでだ?」
「ビィトラが余裕って感じでしょ?」
二人がビィトラを見ると、優雅に仰向けで浮遊しており、「いつもこんなだよ」と返された。
「ビィトラの特定加護が寝不足程度は安心って事なのよ」
「へぇ。トウマ、お前の特定加護って何だ? 仲間なんだからそれ位打ち明けてたほうが良いだろ。寝不足解消か?」
答えたのは傍まで寄って来たビィトラであった。
「答えてもいいけど、ビィ達が嘘ついてたらどうするのぉ?」
「はぁ? ”神”は嘘つかねぇんじゃねぇのか?」
「ビィ達が独断で嘘つく事はないよ。けど、転生者と関わったら色んな場面や条件で嘘を吐く事もあるし、頑なに秘密を貫き通す事もあるよ」
今度はベルメアが寄って来た。
「けど、今のビィトラはその質問に嘘も秘密も出来ない状態よ」
「なんでだ?」
「だって、私達の情報を公開しまくったからよ。転生者と守護神間の内部情報を他の転生者と守護神に教えると、その情報の質に見合った”本当の情報”は、守護神から教えてもらえるのよ。まあ、こっちから聞かなきゃ意味ないんだけどね」
ジェイクは納得するも、よくよく考えると、色々腑に落ちない部分に気付いた。
「おい、それって俺があの板壊したことや受肉したいとかって事だろ」
「ついでにレベルとかもよ。それがどうしたの?」
「その程度の情報が秘密にするとか嘘つくどうこうって話になんだ?」
「そりゃ、レベルなんか分かったら殺される危険性は増すし、ステータスボード壊すなんて、試練中じゃ結構な欠点よ。受肉が目的なんて知ったら、その期を見て襲われるだろうし」
ベルメアが平然と語るも、内容の危険性をようやく理解したジェイクは焦りを覚えた。
「馬鹿野郎! そんな危険があんならもっと早く言えよ!」
いまさらの事にベルメアも憤る。
「言っても聞かないでしょ! ずっと受肉受肉って言うし、トウマと話してる時にステータスボード出さないとかってなったら嫌でも気付かれるでしょうが! あたしもね、そういう点は諦めて、状況見てこっちで何処まで公にするかは決めてるの! ちゃんと考えてるわよ」
気迫に圧されジェイクの勢いは弱まる。
「け、けどよ、トウマもビィトラも演技でこの雰囲気作ってるとか思わねぇのか」
「状況判断とあたしの特定加護をなめんじゃないわよ。けっこう……いや、かなり、かっっっなぁぁり! あんたの為になってるんだから、感謝なさい!」
説教めいて告げられ、ジェイクは納得し、弱弱しく感謝の意を述べた。
面白がって見ていたビィトラは観念した。
「ビィの特定加護は『魔力の防衛措置』。トウマが弱ったら魔力が強制的にトウマを救うほうに発揮されるんだ。今寝不足状態だけど、もうすぐしたらぐっすり寝た後みたいに回復するから心配ないんだぁ」
ジェイクはベルメアに視線を向けた。
「すげぇな。こっちは縁結びだぞ」
「縁結びなめんじゃないわよ。こうして有能な仲間と巡り合えたんだからね」
言いながらトウマを抱きしめ、トウマは苦笑いする。
「確かに」ビィトラは頬を掻いた。「ベルメアの縁結びがあれば、色んな面で旅がしやすいと思うよ」
「そりゃあれか? 倒せる転生者捜し……とか?」
「それもあるかな……極論だけど。まあ、それは追々分かる筈だよ」
ジェイクが疑問に思うも、ビィトラは続けた。
「それより、二人はコレからどうするか決めてるの?」
ジェイクは何も考えていないという気持ちが表情から読み取れた。
「とりあえず、“魔女退治”を最優先に考えた方がいいと思ってる」
「なんだ? 魔女なんて魔獣がいるのか?」
トウマは背負っているカバンから四つ折りの地図を取り出して広げた。
世界地図に描かれたのは、平たく言えば丸みのある五角形の大陸が描かれていた。
大陸の中央やや上寄りに巨大な歪な円形の大湖があり、左下あたりの陸地は太い線で大きな円が描かれている。あとは山脈や平地、台地、砂漠地帯などが描かれ、大陸から離れて小さな島がいくつか描かれていた。
その地図で六ケ所、小さな三角形が描かれている。
ジェイクは地図を見て、自分は本当に違う世界にいる事を再認識した。
「安物の地図だから正確かどうかは微妙なところですけど。僕達がいるのはこの大湖の東に位置する……この辺」
そこは二つの国の国境近くでもあった。ガニシェッド王国とレイデル王国とある。
ジェイク達は北側のガニシェッド王国にいる。
「国境越えする準備か。国の申請とかいるんじゃねぇのか?」
「それは問題ないみたい。この二国はかなりの友好的で、国境でも簡単な申請ぐらい済むとか」
ビィトラが補足した。
「もっと正確にいうと、その国境線辺りは小さな砂漠地帯でしょ。そこに危険な魔獣がいるみたい。この世界は危険地帯を国境って決めてる所があちこちにあるんだとか。……討伐依頼もあるから行こうと思えば行けるし、無理だと判断したら砂漠を避ける道を進むべきだよ」
”こういった選択肢のときは……”と、見え透いた意見が浮かんだジェイクはベルメアを見た。すると、腕組状態でそっぽを向かれる。
「あんたの考えはお見通しよ。加護に頼って変な選択肢を作らないの。現状は町へ行って体制の立て直し。それで、忘れてるようだけど、トウマが言ってた魔女の情報収集が先決よ」
「おお! そう、その魔女ってなんだ?」
魔女とは、地図に描かれた三角形の塔を出現させた存在であり主。
魔力の質が純粋な悪性に染まっており、塔周辺の自然は粗悪な状態。凶悪な魔獣が蔓延り、近隣の町では異常な事件の依頼が相次ぐ。
「この地図に記してるのは明確にある魔女の塔で、記されてないだけで他にもあるみたいです。魔女を倒すと英雄扱いになるらしいけど、僕たちの目的は魔女退治で得られる報酬のみ」
ビィトラが補足した。
「けど信頼やら仲間が多いと試練では優位だよ。貢献は神力を溜めるのに影響するし、魔女は神力を得られる対象だからね。結果的にビィ達は強くなるし、経過報告時に特典がかなり豪華にもなるんだよ」
まとめのようにベルメアが語った。
「転生者を倒すの重要だけど、この世界の問題を解消するのも色々と有利になるの。だから、『受肉』もいいけど依頼達成を真剣に考えるべきよ」
受肉を強調されて説明されてもジェイクの『元の身体に戻る』の意志が揺らぐことはなかった。
「……兄……ちゃん、……たす、け、て」
次第に声が弱くなっている。何度も「兄ちゃん、兄ちゃん」と呼ぶ姿。しかし兄のトウマも、瓦礫に埋もれて鳩尾から上までした出ておらず動けない。
視界に映る弟の姿を、”どうにかして助けたい”と悲痛な想いで眺めるしか出来ない。足掻こうにも身体が動かせず声も出せない。
涙が零れ、死が迫っていると恐怖した矢先、落ちた瓦礫が手を潰し、更に落ちてくる音だけが聴こえて視界が暗転した。
トウマは百貨店で起きた爆発事故に遭い死んだ。爆発が事故なのか事件なのか、定かでないままである。
運良く転生し、ビィトラに神の昇格試験内容と試練達成後に貰える報酬の話を聞いた。どんな無理な願いも叶うと言われたので、即座に爆破事故が無かった世界にすると誓った。
転生も幸運だが、更に幸運だと感じたのは、前世で流行った”転生”をテーマにしたアニメやゲームのような方法で成長できる事であった。
効率よく力を付け、仲間を作り、前途洋々とばかりに順調にレベルを上げていった。しかしある依頼で異形の魔獣と遭遇し、全てが崩れた。
魔獣の姿は、頭と胴体がライオンのようであり手足がやけに長い。行動は肉食野獣が標的を襲うようなものだが、かなり素早い。
仲間や他の賞金稼ぎ達と共に魔獣に挑むも全く歯が立たない。正確には、剣技や術は効果が見られたが、急速で傷が修復し、落とした手足も再生したのである。
戸惑いと焦りを強いられた戦いを続け、一人、二人と頭を喰われてしまう始末。
窮地に立たされ混乱する最中、トウマは魔獣の攻撃を受けた。その接触のおかげで、魔獣の傍に浮遊する守護神を見つけた。しかしそれは混乱を招いた。
生き残った者達が逃亡を考えたが時すでに遅く、魔獣の広すぎる間合いから抜け出す事すら困難な状態となってしまった。賞金稼ぎ達が喰われ、転生者の仲間も捕まり、圧倒的なまでの劣勢に立たされたトウマは自らも頭を喰われる光景を想像した。
「助けてくれぇぇ!」
自分より年下の転生者が魔獣の口元まで運ばれるのを見た。
「助けて! トウマさん! 助けてぇぇぇ!」
(兄ちゃん……たすけて)
弟の姿と仲間の姿がダブって見える。……間もなく、仲間の頭が喰われた。
悔しかった。憤った。しかし、”抗う事は不可能”と理性が判断した。沸き立つはずだった激高は、不気味な笑みを浮かべる魔獣と目が合った途端、全てが“恐怖”一色に染め上がった。
「う、うわああああああ!!!」
トウマは逃げた。必死に、思考は助けを求める言葉しか繰り返さない。
追いつかれる事は分かっている。逃げきれないのは分かっている。それでも足は魔獣から離れる一心で動いた。
ドシン、ドシンと、迫って来る音が聴こえる。
ガラガラと、岩が崩される音が聴こえる。
振り返る事は出来ない。とにかく身体は一心不乱に逃げる事だけしか機能しなかった。
(助けて! 助けて! 誰か!)
涙を流し、呼吸がひゅう、ひゅうと音が鳴るほど走った。
『町へ行けば助かる』
その思いを強く抱き、ひたすら走った。
渾身の想いに反応したのか、自らの魔力がトウマの全身を覆い、瞬間的に町へ移動した。
現実か幻かなど分からない。ただ、助かったと安堵し、気が抜けたトウマは意識を失った。依頼を受けた町の入り口で。
トウマは岩場の惨劇と魔獣の顔に恐怖して目を覚ました。隣にはジェイクが小さいながらも鼾をかいていた。
自分はあの惨劇から生き延びた。
けどどうして生き延びているのか分からない。
まだ魔獣が自分を探しているかも、と不安が募る。
数日経っても恐怖はまるで払拭されていない。
今後、あのような魔獣が現われでもすれば、自分は生き残れる保証は無い。
死ぬ時は、仲間達と同じような有様で。
恐怖に苛まれたトウマは布団の中で蹲った。
◇◇◇◇◇
翌朝、支度を整えてジェイク達は次の町へと向かった。トウマは寝不足で両目の下にくまができ、表情は元気が無い。
「おいおい大丈夫か? ”寝不足で術が使えません”、じゃあ洒落になんねぇぞ」
金も無く、村には馬も次の町へ向かう馬車なども出ておらず、徒歩で向かうしかなかった。
「ははは……。ごめんなさい」
苦笑いを浮かべるトウマの様子は、昨日聞いた仲間が喰われる場面が影響しているものだとジェイクは察した。
「眠くなったら無理するなよ。お前が死んだら俺もかなり窮地だ。何より、ベルに喚かれる」
言葉に反応してベルメアが姿を現した。
「気遣いが出来るのは良い心がけね、最後の言葉は聞かなかったことにしてあげる。けど、いらない心配よ」
「なんでだ?」
「ビィトラが余裕って感じでしょ?」
二人がビィトラを見ると、優雅に仰向けで浮遊しており、「いつもこんなだよ」と返された。
「ビィトラの特定加護が寝不足程度は安心って事なのよ」
「へぇ。トウマ、お前の特定加護って何だ? 仲間なんだからそれ位打ち明けてたほうが良いだろ。寝不足解消か?」
答えたのは傍まで寄って来たビィトラであった。
「答えてもいいけど、ビィ達が嘘ついてたらどうするのぉ?」
「はぁ? ”神”は嘘つかねぇんじゃねぇのか?」
「ビィ達が独断で嘘つく事はないよ。けど、転生者と関わったら色んな場面や条件で嘘を吐く事もあるし、頑なに秘密を貫き通す事もあるよ」
今度はベルメアが寄って来た。
「けど、今のビィトラはその質問に嘘も秘密も出来ない状態よ」
「なんでだ?」
「だって、私達の情報を公開しまくったからよ。転生者と守護神間の内部情報を他の転生者と守護神に教えると、その情報の質に見合った”本当の情報”は、守護神から教えてもらえるのよ。まあ、こっちから聞かなきゃ意味ないんだけどね」
ジェイクは納得するも、よくよく考えると、色々腑に落ちない部分に気付いた。
「おい、それって俺があの板壊したことや受肉したいとかって事だろ」
「ついでにレベルとかもよ。それがどうしたの?」
「その程度の情報が秘密にするとか嘘つくどうこうって話になんだ?」
「そりゃ、レベルなんか分かったら殺される危険性は増すし、ステータスボード壊すなんて、試練中じゃ結構な欠点よ。受肉が目的なんて知ったら、その期を見て襲われるだろうし」
ベルメアが平然と語るも、内容の危険性をようやく理解したジェイクは焦りを覚えた。
「馬鹿野郎! そんな危険があんならもっと早く言えよ!」
いまさらの事にベルメアも憤る。
「言っても聞かないでしょ! ずっと受肉受肉って言うし、トウマと話してる時にステータスボード出さないとかってなったら嫌でも気付かれるでしょうが! あたしもね、そういう点は諦めて、状況見てこっちで何処まで公にするかは決めてるの! ちゃんと考えてるわよ」
気迫に圧されジェイクの勢いは弱まる。
「け、けどよ、トウマもビィトラも演技でこの雰囲気作ってるとか思わねぇのか」
「状況判断とあたしの特定加護をなめんじゃないわよ。けっこう……いや、かなり、かっっっなぁぁり! あんたの為になってるんだから、感謝なさい!」
説教めいて告げられ、ジェイクは納得し、弱弱しく感謝の意を述べた。
面白がって見ていたビィトラは観念した。
「ビィの特定加護は『魔力の防衛措置』。トウマが弱ったら魔力が強制的にトウマを救うほうに発揮されるんだ。今寝不足状態だけど、もうすぐしたらぐっすり寝た後みたいに回復するから心配ないんだぁ」
ジェイクはベルメアに視線を向けた。
「すげぇな。こっちは縁結びだぞ」
「縁結びなめんじゃないわよ。こうして有能な仲間と巡り合えたんだからね」
言いながらトウマを抱きしめ、トウマは苦笑いする。
「確かに」ビィトラは頬を掻いた。「ベルメアの縁結びがあれば、色んな面で旅がしやすいと思うよ」
「そりゃあれか? 倒せる転生者捜し……とか?」
「それもあるかな……極論だけど。まあ、それは追々分かる筈だよ」
ジェイクが疑問に思うも、ビィトラは続けた。
「それより、二人はコレからどうするか決めてるの?」
ジェイクは何も考えていないという気持ちが表情から読み取れた。
「とりあえず、“魔女退治”を最優先に考えた方がいいと思ってる」
「なんだ? 魔女なんて魔獣がいるのか?」
トウマは背負っているカバンから四つ折りの地図を取り出して広げた。
世界地図に描かれたのは、平たく言えば丸みのある五角形の大陸が描かれていた。
大陸の中央やや上寄りに巨大な歪な円形の大湖があり、左下あたりの陸地は太い線で大きな円が描かれている。あとは山脈や平地、台地、砂漠地帯などが描かれ、大陸から離れて小さな島がいくつか描かれていた。
その地図で六ケ所、小さな三角形が描かれている。
ジェイクは地図を見て、自分は本当に違う世界にいる事を再認識した。
「安物の地図だから正確かどうかは微妙なところですけど。僕達がいるのはこの大湖の東に位置する……この辺」
そこは二つの国の国境近くでもあった。ガニシェッド王国とレイデル王国とある。
ジェイク達は北側のガニシェッド王国にいる。
「国境越えする準備か。国の申請とかいるんじゃねぇのか?」
「それは問題ないみたい。この二国はかなりの友好的で、国境でも簡単な申請ぐらい済むとか」
ビィトラが補足した。
「もっと正確にいうと、その国境線辺りは小さな砂漠地帯でしょ。そこに危険な魔獣がいるみたい。この世界は危険地帯を国境って決めてる所があちこちにあるんだとか。……討伐依頼もあるから行こうと思えば行けるし、無理だと判断したら砂漠を避ける道を進むべきだよ」
”こういった選択肢のときは……”と、見え透いた意見が浮かんだジェイクはベルメアを見た。すると、腕組状態でそっぽを向かれる。
「あんたの考えはお見通しよ。加護に頼って変な選択肢を作らないの。現状は町へ行って体制の立て直し。それで、忘れてるようだけど、トウマが言ってた魔女の情報収集が先決よ」
「おお! そう、その魔女ってなんだ?」
魔女とは、地図に描かれた三角形の塔を出現させた存在であり主。
魔力の質が純粋な悪性に染まっており、塔周辺の自然は粗悪な状態。凶悪な魔獣が蔓延り、近隣の町では異常な事件の依頼が相次ぐ。
「この地図に記してるのは明確にある魔女の塔で、記されてないだけで他にもあるみたいです。魔女を倒すと英雄扱いになるらしいけど、僕たちの目的は魔女退治で得られる報酬のみ」
ビィトラが補足した。
「けど信頼やら仲間が多いと試練では優位だよ。貢献は神力を溜めるのに影響するし、魔女は神力を得られる対象だからね。結果的にビィ達は強くなるし、経過報告時に特典がかなり豪華にもなるんだよ」
まとめのようにベルメアが語った。
「転生者を倒すの重要だけど、この世界の問題を解消するのも色々と有利になるの。だから、『受肉』もいいけど依頼達成を真剣に考えるべきよ」
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