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二幕 思惑の旅路
四 境場の大理石
しおりを挟む山間の村での用事を済ませた永最は、蓬清の遣いの目的地である三賀嶺の国へは向かわず、全く別の道を進み、ススキノと同行することとなった。
鳳力修業の興奮治まらない永最に、思いもよらずススキノが次の町まで同行してほしいとの誘いに、即答で承諾した為、このような運びとなった。
昼過ぎ、二人は目的地の町を遠景で捉える、小高い山の頂上へと辿り着いた。
そんな折、永最は何かが気にかかって仕方が無い。
「どうした?」
ススキノが心配するも、返事もしない永最は、とある神社を見つめていた。
鳥居は朽ち、社は大木の残骸が積まれている印象を与え、唯一そこが神社だと思わせる賽銭箱も、正面だけそれらしい印象を与えてはいるだけ。
誰がどう見ても廃神社であり、本来なら気味悪がって見向きもしないと思われる。
しかし永最はジッと見つめている。
屋根が崩れ、元は骨組みであっただろう木材が屋根を内側から貫いて飛び出す。
背の高い雑草が一面生い茂り、木漏れ日すら通さない暗い所は見るだけで良からぬ化け物が出てきそうと、恐怖心を煽る。
けして幻体や異念体を見ているわけでなく、かといって興味本位ですらない永最は、
「……あれ……何か……」
呟き、衝動で身体が廃神社へと向かわせた。
一連の奇妙な行動は、呟いた事すら無意識である。
呼び止めるススキノの声も聞かずに駆けた永最は、安全な通路を選んで通り、時折邪魔立てする雑草をかき分け、随所に張られた蜘蛛の巣を近くの木の棒を拾って払った。
後を追うススキノは、まるでそこへ向かおうと決めていたかのように、社の裏手へ向かう永最の様子が、違和感を覚える程に謎めいていた。
裏には、人が三人分並んで腰かけることが出来るほどの、大理石の四角い台が無造作に置かれており、その上に一人の男性が横たわっていた。
寝顔がこちらに向いていたため素性は即座に判明した。
「幸之助殿!」
永最の声で目を覚まそうとした幸之助の髪色がみるみる赤銅色に染まると、目覚めた彼の表情は志誠となっていた。
「あ……んあぁ。――はぁ!? お前、なんでこんなとこにいんだ!」
「永最、何かあったのか?」
後から来たススキノも志誠の姿に驚いた。
「ったく、こっちが気分よく寝ている時にぞろぞろと。別段互いを想う関係でもないだろ」
「気持ちの悪いことを言うな! 私は妙な気を感じただけだ。お前こそなぜこんなところにいる」
志誠の事情を察したススキノが訊いた。
「その大理石が【境場】か?」
「境場?」
永最の訊き返した質問を他所に、二人は話を進めた。
「まあな。今朝がた、護衛の一仕事を終えたばかりで、妙な女が相手ってんで幸に代わってもらった。朝が早かったんであいつは疲れて寝てる。俺も英気を養おうと丁度いい境場があったんで休ませてもらってるだけだ」
「こんな廃れた場所で地力は保たれているのか?」
「問題ない。神聖な場所の境場はそう易々と消えんからな。けどまあ、さすがにここまで廃れりゃ神社もくそも無いんで、地力も弱いわ。この大理石のおかげで保ってるようなもんだ」
石を叩いている志誠へ、ほったらかしにされた永最は質問した。
「おい。サカイバってのは何だ」
声に力が籠っている。
「ああ~。そういえば何も知らないんだったな。難儀な修行僧だ」
カチンときたが、目を瞑り大きく一呼吸置いた。その様子を見てススキノが説明した。
「境場と言うのは人間のいる世界と亜界を繋ぐ領域だ。とはいえ繋ぐと言っても、こ奴らの通り道ではなく、人間の念、幻体の英気等、いわゆる気脈のようなものだ。それを行き来させる領域の事。【地力】とは、気脈の流れの勢いがどれ程のものかを知るうえで出来た言葉だ」
納得すると丁寧に礼を述べ、志誠へ再び質問した。
「先ほど申した護衛の女性と言うのはどういう事だ?」
「その話は町に行ってからにしようぜ。昼飯奢ってくれたら説明してやるよ」
不躾な態度。
無礼な言動。
昼飯催促。
永最は抱いた苦言を押し殺して黙った。
すぐに落ち着いて冷静になると、虫や蛇等が寄ってくるこのような場所での長居は危険と判断した。
志誠の意見を肯定するようで不快には思ったが、仕方なくこの場を去る事にした。
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