13 / 56
二幕 思惑の旅路
四 境場の大理石
しおりを挟む山間の村での用事を済ませた永最は、蓬清の遣いの目的地である三賀嶺の国へは向かわず、全く別の道を進み、ススキノと同行することとなった。
鳳力修業の興奮治まらない永最に、思いもよらずススキノが次の町まで同行してほしいとの誘いに、即答で承諾した為、このような運びとなった。
昼過ぎ、二人は目的地の町を遠景で捉える、小高い山の頂上へと辿り着いた。
そんな折、永最は何かが気にかかって仕方が無い。
「どうした?」
ススキノが心配するも、返事もしない永最は、とある神社を見つめていた。
鳥居は朽ち、社は大木の残骸が積まれている印象を与え、唯一そこが神社だと思わせる賽銭箱も、正面だけそれらしい印象を与えてはいるだけ。
誰がどう見ても廃神社であり、本来なら気味悪がって見向きもしないと思われる。
しかし永最はジッと見つめている。
屋根が崩れ、元は骨組みであっただろう木材が屋根を内側から貫いて飛び出す。
背の高い雑草が一面生い茂り、木漏れ日すら通さない暗い所は見るだけで良からぬ化け物が出てきそうと、恐怖心を煽る。
けして幻体や異念体を見ているわけでなく、かといって興味本位ですらない永最は、
「……あれ……何か……」
呟き、衝動で身体が廃神社へと向かわせた。
一連の奇妙な行動は、呟いた事すら無意識である。
呼び止めるススキノの声も聞かずに駆けた永最は、安全な通路を選んで通り、時折邪魔立てする雑草をかき分け、随所に張られた蜘蛛の巣を近くの木の棒を拾って払った。
後を追うススキノは、まるでそこへ向かおうと決めていたかのように、社の裏手へ向かう永最の様子が、違和感を覚える程に謎めいていた。
裏には、人が三人分並んで腰かけることが出来るほどの、大理石の四角い台が無造作に置かれており、その上に一人の男性が横たわっていた。
寝顔がこちらに向いていたため素性は即座に判明した。
「幸之助殿!」
永最の声で目を覚まそうとした幸之助の髪色がみるみる赤銅色に染まると、目覚めた彼の表情は志誠となっていた。
「あ……んあぁ。――はぁ!? お前、なんでこんなとこにいんだ!」
「永最、何かあったのか?」
後から来たススキノも志誠の姿に驚いた。
「ったく、こっちが気分よく寝ている時にぞろぞろと。別段互いを想う関係でもないだろ」
「気持ちの悪いことを言うな! 私は妙な気を感じただけだ。お前こそなぜこんなところにいる」
志誠の事情を察したススキノが訊いた。
「その大理石が【境場】か?」
「境場?」
永最の訊き返した質問を他所に、二人は話を進めた。
「まあな。今朝がた、護衛の一仕事を終えたばかりで、妙な女が相手ってんで幸に代わってもらった。朝が早かったんであいつは疲れて寝てる。俺も英気を養おうと丁度いい境場があったんで休ませてもらってるだけだ」
「こんな廃れた場所で地力は保たれているのか?」
「問題ない。神聖な場所の境場はそう易々と消えんからな。けどまあ、さすがにここまで廃れりゃ神社もくそも無いんで、地力も弱いわ。この大理石のおかげで保ってるようなもんだ」
石を叩いている志誠へ、ほったらかしにされた永最は質問した。
「おい。サカイバってのは何だ」
声に力が籠っている。
「ああ~。そういえば何も知らないんだったな。難儀な修行僧だ」
カチンときたが、目を瞑り大きく一呼吸置いた。その様子を見てススキノが説明した。
「境場と言うのは人間のいる世界と亜界を繋ぐ領域だ。とはいえ繋ぐと言っても、こ奴らの通り道ではなく、人間の念、幻体の英気等、いわゆる気脈のようなものだ。それを行き来させる領域の事。【地力】とは、気脈の流れの勢いがどれ程のものかを知るうえで出来た言葉だ」
納得すると丁寧に礼を述べ、志誠へ再び質問した。
「先ほど申した護衛の女性と言うのはどういう事だ?」
「その話は町に行ってからにしようぜ。昼飯奢ってくれたら説明してやるよ」
不躾な態度。
無礼な言動。
昼飯催促。
永最は抱いた苦言を押し殺して黙った。
すぐに落ち着いて冷静になると、虫や蛇等が寄ってくるこのような場所での長居は危険と判断した。
志誠の意見を肯定するようで不快には思ったが、仕方なくこの場を去る事にした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる