18 / 56
三幕 安らぐ村での奇縁
三 消えゆく繋がり、甦る縁
しおりを挟む昼飯時を過ぎた昼下がり。
志誠が世話になっている老夫婦の家に着くと、薪割りを行っている永最の姿と横で見物する男性の姿が視界に飛び込んだ。
二人の会話を聞くと、男性は見物と言うより指導である。
「ほれ、斧を振り落とすのに力入れんでええ。これ全部割ることが出来んくなるぞ」
「でも、小さい頃から薪割ってるから大丈夫だよ」
感心し、喜び合う親子のような二人。
微笑ましい様子を伺う傍らで、事情を知る志誠には虚しさを抱かせた。
「ああ、帰ってたのか幸之助殿」
「ああ。突然出て悪かったな」
老夫婦の前では志誠を幸之助と名乗ってる。それは、幸之助の身体に天邪鬼が憑いているという事を隠すためであり、この永最の訊き方は正しい行動である。
そう、本来はその筈であった。
疑念を抱かせたのは、永最が薪割りの手を止め、不思議そうに志誠を見たからである。
「どうした? 口調が変だ。何かあったのか?」
ただ素直に、『天邪鬼・志誠』という存在が消えていると直感させた。恐らく赤銅色の髪色も黒髪にしか見えていないのだろう。
(……幸、代われ)
虚しさは幸之助にも伝わった。それは、いつも表に出す豊かな表情の一部が引きつって、苦笑いのようにしか見えなかった。
「あ、ちょっと嫌なことがあっただけ……」
詮索はされず、再び穏やかで楽しい薪割りが再開された。
一日の仕事を終え、早めの風呂も済ませ、夕餉時を迎えた。
「残暑になると暗くなるのが早くなったなぁ」
「じきに秋になって寒くなるから、冬支度を急がないと」
もう、旅の事など永最の頭にはない。ここでの生活に溶け込んでいた。
「…………もし」
今まで黙っていた幸之助がつぶやくと、食事中の老夫婦と永最が向いた。
「別れた息子さんが大きくなって戻ってきたら、どうしますか?」
「おい幸之助殿、何を言うんだ」真剣に、強めの口調である。
責める永最を制止し、女性が答えた。
「勿論家族として迎え入れますよ。……けど……無理でしょうね」
「どうしてですか?」
男性が代わる。
「六歳の子を森に囲まれたススキ畑に捨てたんだ………許してもらえるとは……」
それ以上の答えは返ってこなかった。
「いい加減にしないか幸之助殿。不謹慎すぎるぞ」
場を取り繕うように、永最は話を変えた。
「そうだ。薪割りは今日済ませたから、明日は大根の種を撒いて、魚の干物も作りましょう。父さん、母さん」
幸之助も志誠も耳を疑った。
二人の思いに反し、老夫婦は何の疑問も戸惑いも無く会話を成立させ続けている。
(……これが、導師様が言っていた)
(ああ。どうやら俺らも腹を括らなきゃならねぇみたいだ)
心中で話し合う二人は、徳泉の推論に納得した。
◇◇◇◇◇
徳泉は言った。
「九分九厘その夫婦とお前の連れは親子だろうさ。確実と断言できんのは、この目でみておらんからだが。そんな事はさておき、お前の話通りなら色々な面倒事が重なっているぞ」
「面倒って生死に関わることか?」
「この異変にそこまでの危険性はまだ無いな。しかし、その連れは何かを宿している。いや、憑いていると言い換えた方がいいな」
志誠の眉間に皺が寄った。
「やけにはっきりしねぇな。一体何が憑いてるってんだ」
「さあな。偶然が奇妙に起きすぎている点を考慮すると、その結論が成り立つ話だ」
詳しい説明を志誠は求めた。
「寄った村で生き別れの両親がいた。
いつも見えていた異念体が見えなくなった。
寺に幼い時分から住んでいて鳳力が使えない。
幻体を憑かせた人間、お前達の事だが、そんな奴に出会った。
奇縁か偶然か……運が良いと言い換えも出来るが、もっと現実的に言い換えるなら、”何かが憑いている”が適した表現だな。それなら説明がつく」
「憑いてる奴ってのは特別な力でもあるのか?」
「お前達がいい例だろ。鳳力の手練れである天邪鬼がいるのだ。剣術だけ達者な幸之助はそれだけで他者が見れば鳳力使いの侍であろう」
言われてみて納得した。
「けど、その連れの憑いているモノは恐らくなにかの異念体か幻体の片割れ。希に祓われきれなかったモノに憑かれた人間は、幻体や異念体の出る場所、境場などに引かれる性質を持つと言われている。導師の仕事で何度か見たため間違いないだろう」
思い返せば、人が立ち入らない廃神社の境場で寝ていた幸之助を見つけたのも永最であった。
「でも、死にはしないなら危険じゃないだろ」
「それは、お前の選択肢次第だな」
微かな焦りが表れた。
「な、なんで俺が関係する」
徳泉は残りの茶を飲み干した。
「その連れと夫婦は、異常発生した白風と境場の気によって記憶を塗り替えられている。子を焦がれる両親の想いと、両親への想いがしこりとなっている者、しかも何かに憑かれている。双方の心中の気質が同質なら、それに触れた亜界のモノ達は同調して記憶を書き換える。つまり近い将来、難なくそいつと夫婦は文字通りの親子として村で暮らすだろう」
「いいことじゃねぇか」
「お前の事を忘れてな」
即答が、一瞬で何か分からない焦りのような感覚を生みつけた。
「見えないモノが見えなくなったのなら、それに関する記憶は不要この上ない。さらに近い未来には村まで来た経緯も、まあ可能性としては五分五分だが捨てられ、捨た経緯すらなかったことになるだろう」
「……ば、万々歳じゃねぇか。あいつは昔虐められた。親も苦労して町を出た。嫌な過去とおさらばってんなら、このまま――」
「そうはならんよ」
言葉を遮っての否定。
その真剣さの伝わる語気には、まるで説法のような凄みがある。
「いいか。人間と言うのは必ず苦難と幸福が交互に訪れる。報われん努力もやがては別場所、別の形で何かしらの成果を上げる事の方が多い。それで得た賛美は喜びに変わり未来へ向かって生きる為の活力が生まれる。努力でなく苦難もそうだ。やがて訪れる幸福への通過点だ。お前の連れは過去の苦労、苦難の先にお前達と出会い、ようやく両親に会い、家族を覚えた。しかし、過去の苦労の忘却を代償に得た幸せは、須らく仮初でしかない。得体のしれぬ何かにより与えられた幸福は、先の未来でその幸福を満喫した愚者を供物とし、何かが食すだろう。言い換えるなら餌でしかない」
「飛躍だろ。ここには導師もいる。祓い手もそこら中にいるこの国で、幻体や異念体の連中に何できるんだ」
「労ぜず与えられた喜びなど所詮は紛い物。その裏を見なければやがては多大な苦難に見舞われる。それが凄惨な殺しにより家族を引きはがす事態を生む可能性が常人に比べ遥かに高い。人としてあるべき理をねじ曲げたツケだよ。その者を真に救いたいなら方法を教えるが、後はお前達で決めろ。しかしこれだけは覚えておけ。見誤った選択の先は必ず後悔しか残らん。後悔はしこりであり、重しであり、枷となる」
志誠は何も言い返せなかった。
「後はお前次第だ」
徳泉の気迫に圧され、緊張が走った。
0
あなたにおすすめの小説
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる