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三幕 安らぐ村での奇縁
六 希鬼の残骸
しおりを挟むススキノはある町へ辿り着いた。それは、六蔵と別れて二日後の事である。
町に到着して、すぐ役所近くの宅配所へ向かい一通の手紙を預かり、読み終えると懐へしまった。
外へ出てその足で茶屋へ向かうと、屋外の日傘を差してる長椅子に腰かけた。
ススキノと背中合わせに、三十代と思しき女性と、女性よりも若く見える男性が並んで腰かけている。
茶屋の従業員の女性が熱いお茶を渡し、注文を伺った。
すぐにできるものを注文すると、仕込み置きをしていた団子二本を皿に乗せ、そのまま運んで来た。
お礼を言い、従業員が店へ戻っていくと、合席していた女性が呟いた。
「先に報告しておきますが、仁と高申は、こういった演技事が苦手な為、別任務に当たっております」
名の上がった二人は演技事が苦手だという事に反し、捜索事が得意であると、ススキノは理解している。
「だろうな。しかし彩夏が来てくれるとは思わなかった。分かっているのか、死を伴う一件だぞ」
「ええ。私は最後の最後まで、あなたが皆を生かすほうへ導くと信じてますので」
「買いかぶりも良いところだ。まだ解決の糸口すら見つかってないのだぞ」
彩夏は静かに微笑んだ。
「何が可笑しい?」
「ご冗談でしょ。あなたの事です、解決の糸口とはいかずとも、気になる事は内に秘めているのではないですか?」
昔からそうだ。彩夏はススキノの心中をまるで見透かしている様に、思うところがある事を見抜いてくる。確証の度合いの強弱がどうであれ。
見抜いている証拠が無い為、彩夏に発破をかけたから当たったとも思われる。
真偽は不明だ。
「全く、相変わらず大したものだ。……別行動で調べてもらいたい事はある。日数が掛かる内容故、すぐにでも取り掛かってもらいたい」
彩夏は隣の男性の事を告げた。
「彼は仁の弟の楼雅です。彼に要件をお伝えくださいませ」
楼雅が彩夏に何やら呟いている。しかしその声はススキノには聞えていた。
内容は”なぜ自分がススキノの傍で行動出来ないのか?”という苦情である。
「失礼を。彼はあなた様のお役に立てる事を喜んでおりまして、離れ――」
「――おい!」声は小さいが、今度ははっきり言葉を遮る声が聞こえた。
楼雅の照れる心情を察したススキノは、彼に向かって話しかけた。
「すまぬ。この要件は皆の生死を分かつものかもしれんのだ。私を含め、皆の命を左右する重要な役を担ってくれるか?」
渋々だが、楼雅は納得した。
「では、四導師について調べてもらいたい」
二人は疑問に思った。
「なぜ四導師について? 何より、各々の導師についてはあらゆる国の秘蔵書庫へ忍ばねばなりません」
それは見つかれば死罪を意味する。
「なによりもその事は――」
「勘違いしないでもらおう。四導師を主観で調べるのではない。客観的に、民の噂を中心に調べてもらいたい。それぞれの現代と先代を。その中で先代二ノ祓師、奴を重点的にだ」
二人が驚くのも無理はない。
先代の二の祓師。その素性も不明で、文献にも詳細が記されていない。
人々の記憶に功績、名前は残っているものの、個人の人間性がまるで不明瞭である。
まことしやかに語られるのは、その人物が祈想幻体ではないのかという事である。
「伝説の様な人物ですよ。なぜ?」
「理由は二つ。一つは本任務の果て、使用する術の考案者が奴という事」
二人の知りえない事実。素直に驚いた。
「一つは、何か見落としている事があるのだが。”奴”の事を考えると、関係しているのではと思えて仕方がない。まあ、御託を抜けば、勘としか言いようがない」
理由はともあれ、楼雅は二の祓師の事が気になり、この興奮を鎮める為、即座に行動に移った。
楼雅はこういった未知の存在に迫り、真実の糸口を探す事が好きである。その捜索の成果がどうであれ。
ススキノは団子を、皿の横に備えてある竹皮に包んだ。
仕度が整うと、彩夏に声をかけ、目的地へ向かう事にした。
◇◇◇◇◇
二人が到着した場所、そこは町外れの、廃れた家屋が三軒ある小さな集落跡である。
この時期、田んぼの稲もそれなりの高さに成長し、穂を付け始めている。しかしその集落の田んぼは雑草で生い茂り、畑と思しき場所は、雑草地帯に妙な段差がある状態。
家屋は所々ボロボロで随所の雑草が生えている。
「ここの何所に希鬼がいるというのだ?」
「正確には、いた。です」
ススキノが下した命令は、六赫希鬼と遭遇しても手を出さず、ススキノが訪れるまで待つ筈であった。
「ここで起きたことは幻覚。この地に踏み入った者が別の村へ訪れた様な事態に陥りました。私と楼雅も偵察に訪れた際、突然範囲が広がり私達を呑みこみました。仕方なく奴を捜しに向かい見つけましたが、私達二人を前にすると遠くへ逃げて行きました。そしてこの有様です」
本来、六赫希鬼は祓い手を前にすると襲ってくるのが通例であるが、それをせず逃亡した。それは即ち――。
「力の弱い希鬼だな。しかし面倒な奴だ」
「ええ」
起こしている現象は強力な幻覚。しかも範囲を広げるため、力が強い事は伺えるが、逃亡行為から戦闘向きではない。
しかしこう言った希鬼はほうっておくと幻覚内でも本体を見つける事が困難となり、幻覚効果が広く強くなってしまう。
「このような事例はあまり対応したことが無いのですが、どのように対処すれば?」
「本来、彩夏が奴の幻覚に捕らわれた時、罠に嵌めるのが定石だが、その術も少々面倒なものばかり。現世に戻って来られた事で大健闘だ」
「しかしそれでは奴を祓えたことにはなりませんよ」
「対策は考えてある。後は奴の居場所を突き止めるだけだ」
「では、荒らし役は私が行います。現れた残骸の処理はお任せしても?」
ススキノの合図を伺うと、彩夏はニコリと笑い、颯爽とある廃屋へと向かった。
居間と思しき場所は、所々の畳に雑草が生え、井草が剥がれ、さらには木材の破片がそこら中に散らばっている。
砂、泥、小石に塗れた場所へ彩夏は訪れた。
「――……あ、ああ……――ぎ、ああ……」
声の主は、目の前の壁に黒く揺蕩う、形の整わない影であると容易に判断出来る。
六赫希鬼は残骸であれ、気を引き締めなければならない。それは祓い手であれ憑かれてしまえば、外へ引き出す事には時間が掛かり、放っておけば新たな鬼を生む羽目になる。
「では、参ります」
彩夏は懐に備えた仕込み刀の小太刀を取り出し、刃を地面に突き刺した。
柄を握る右手をそのままに、左手は人差し指と中指を揃えて伸ばした指先を、柄の先端に当てた。
「地における縛りを放て。影である縛りを放て」
小太刀を中心に、白い光の波紋が揺れた。
「理に反す在り方を正し、粗悪なる柵よ――」
居間全体に広がった波紋が消え、更に続く詠唱に反応して床全体が光り出した。
「――断たれ!」
言葉は引き金となり、床の光が部屋全体を明るくした。
一件、術による発光と思えるが、これら光の原因はその場に溜まった白風が、彩夏の術に過剰反応しての発光である。この発光が起こる事で、溜まった白風の浄化が成功されたといえる。
六赫希鬼の長期滞在により、穢れた白風が浄化される事で、残骸をこの地に留まらせる楔を完全に剥がした。
地縛させる力を無くした残骸は、紙風船のように緩やかに、ふわりと地面に落ち、軽やかに弾むと、その流れのまま屋外へと飛んだ。
(――来たな)
残骸が現れるのを待っていたススキノは、両手の指を揃え、手を合わし、何かを呟いた。
鋭い視線が揺蕩う残骸に向けられ、呟いた術が終わりを迎えると、声が大きくなり、締めとなる一言『オン!』と叫んだ。
ススキノの手から発せられた、淡く光る蒸気のようなものが残骸に当たった。しかし、残骸は止まることなく他所へと飛んで行った。
「作戦は成功ですか?」廃屋から出て来た彩夏が訊いた。
「ああ。しかし相変わらず大したものだな。【イシビ】家のお家芸である白風への干渉は。いつ見てもその手際よさは感服に値するよ」
「あなたが言っても喜ばしいかどうか悩ましい所です。それより……」
二人は離れて行く残骸を目で追った。
「今すぐ追いますか?」
「いや、一度町へ戻り、今後の対策を練りたい。あの速度から考慮するに一日は置いた方がいいだろう」
その目算を信じ、彩夏はこれ以上の事は訊かなかった。
「……では、戻りましょうか」
二人は町へと帰っていった。
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