憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

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四幕 静かに関わっていた者達

六 四人の密談

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 そこは檜摩の国近くのとある荒野。
 所々にこじんまりと雑草は生えているも、その殆どが細く、枯れたまま残るものもある。
 年間を通して降雨量が他所と違い、極端に少ないこの場所は、境場とは全く逆の働きをする場所である。

 気流が著しく乏しく、どのような方法を用いても作物が育たない。
 全くもって、死んだ土地と言える場所。

 各国の所々に境場があるように、こういった荒野も、境場程多くは無いが点在する。
 土地面積が広くなく、祓い手界隈でも、自然界におけることわりとして受け入れられ、放っておいても人々の生活に害を及ぼさない。むしろ、不思議と生活に支障をきたす災害が起きないため、国が変われば、位の低い者達が住む居住区や、戦場などに使用される。

 そんな荒野に、一作、仁、高申、楼雅の四名が集まった。

「三人共、集まってもらってすまない」
 この集合は、一作が三人に頼んだ事である。
「一作様、これはどういった集まりなのでしょう」

 仁も高申も、一作の腹の内を曖昧にだが察し、何も口出ししなかったが、こういった経験の乏しい楼雅は、素直に訊いた。

「他でもない、おかしらの命令と、あの国の不穏な鳳力に関して一度話を纏めたい」

 仁は鋭い目を他所に向けた。

「不穏というが、如月の倅だろ。あれはもう駄目だ。殺す他、手は無いぞ」
「今回の希鬼の総大将に位置する異念体。いや、あそこまで異常だと、幻体に類する鬼だ。奴の鳳力の影響で、周辺では戦が多く、野盗も集まっている。放っておけば悪質な異念体が増え、希鬼が蔓延するぞ」
 高申は視線を一作に向けている。
「しかしなぜお頭は、こうも自分で六赫希鬼を一人で祓おうとなさるのでしょう。自分はまだ祓い手として未熟ですが、兄様方がまとめて向かえば、事は早く済むのでは」

 弟である楼雅が、あまりにも無知な点が目立ち、兄である仁は面倒くさそうに説明した。

「阿呆かお前は」
 昔から、寡黙で弟想いに世話をしてくれた仁であるが、忠告するときの、楼雅に向けられる目の圧力に、楼雅は緊張が走ってしまう。
「希鬼はその辺の雑魚と違い、そう易々と祓えん。たとえこの場に居る四名が祓いに向かったところで、予測できん特異な方法で奴らは攻めて来る。力があろうと、精神を攻められる手を出されでもしろ、全滅だぞ」
「ですが兄様、如月の希鬼であれば――」

 今度は高申が告げた。仁と違い、高申から圧力はそれほど感じられない。
 仁が強面なのが影響しているとも思える。

「確かに、如月の希鬼は精神を攻めはせんであろう。鳳力の質も本人の横暴も、力の誇示を表している。力で圧せばどうにか出来るだろうが、我々四名、いや、本件で選ばれた者達七名の鳳力を合わせたとて、接戦がいい所だ」
「なぜですか?」
「奴の鳳力の質。分かりやすく言うなら、単純に禍々しすぎるのだ。お前なら奴を前にすれば足が震え、身動きが取れんだろう」

 楼雅が言い返えそうとしたが、それをさせまいと、仁が割って入り告げた。

「俺たちでさえ、まともに向き合えん。お前ほどの未熟者が協力者として役立つと思うか?」

 そう言われると何も言い返せない。
 自分が、眼前の三名と、一対一で比べられても、圧倒的に楼雅は劣る。そんな者が、まともに対峙出来ないと言うのだ、楼雅では怯んだ挙句に殺されるのは目に見えている。

「しかしどうする。あれでは俺らが協力した所で、かしら一人で対峙出来るとも思えんぞ」
 仁は一作の方に視線を向けた。
「それに、後に『ゴウキ』も控えている。あの術を使う前にお頭が死んでしまう」

 ゴウキ。字は【獄鬼】。
 気流を乱す程の禍々しい鳳力と、狂暴な性質から、地獄の鬼を彷彿とさせ、そう呼ばれた。
 六嚇希鬼と同時に討伐を依頼された鬼である。

 そう、一作もその展開に気づき、今回の話し合いの場を設けた。
 場所も、ススキノが警戒している人物連中が寄り付かないであろうと踏み、この場を選んだ。

「お頭もその流れは理解しているだろう。そこで皆に共通の一つの命令が下った」
「四導師の情報収集。特に先代二の祓師に重点をおいて」
 仁はさらに加えた。
「もう一つ気になる連中がいる」

 一作が説明を求めた。

「変わった連中だ。数度見ただけだが、一人は幻体を憑かせ、もう一人は鳳力が感じられん。最後に見た時は、侍らしき者を連れていた」
「どう気になる?」
「旅の目的は不明だが、悪質化した異念体を、俺らのように祓って消すのではなく、直に消している。あれは、亜界に帰してると言っていいだろう」

 世の祓い手達は、異念体であれ幻体であれ、悪質化すれば祓い続け、消滅に至らせる。
 直に亜界へ帰すことも出来なくはないが、導師であれそれはかなり難しい方法である。

 人間が、異念体、祈想幻体に対抗できる手段、それが祓いの技。

「確かに不思議だが、私の聞いた話では、お頭はその者達に接触し、すぐに離れた。と」
 それを訊いて、一作は考えた。
「そういえば、今お頭が足止めをくっている町にその連中が来ている筈だ」

 目的は不明でも、辿り着いた場所は檜摩の国の外れ。
 如月の希鬼が関係しているとさえ思えた。

「もしや、連中に如月の希鬼を相手取らせようと?」高申がこの答えに至った。
「そいつは無理だ。いくら侍を引き連れていようと、あの希鬼は強力すぎる」

 しかし、ススキノがその三名に接触していくには、何かしら事情があると踏んだ一作は、結論を出した。

「あの連中を追ってみようと思う」
「宜しいので?! お頭の命に背く事になりますよ」
「無論、二の祓師の情報収集の事も考えている。しかし、仁は数回、我々三人は一度も見ていないその者達を調べ、使えるかどうかを見極める。そこに一縷の望みを託すほかない」
「けどどうするよ。四名とはいえ、こんな大所帯で向かえば、さすがに連中が気づくだろ。頭は説明すればいいだろうが」
「そこで、我々は二手に別れたい。一つ、件の連中の尾行。もう一つは先代二の祓師の情報収集」
「割り振りは?」高申が訊いた。
「私と仁で尾行、高申、楼雅で情報を集めてくれ」

 演技事を苦手とする高申と仁が尾行だと思っていた楼雅は、割り振りの説明を求めようとしたが、同じことを仁も抱いていたのか、即座に訊かれた。

「仁は奴らを見ており、あの近辺では希鬼の影響で悪辣な連中が増えている。もしもの時、即座に対応できるなら、この四人の内、仁が適役だと判断した。私は、お頭へ報告もしやすい。情報収集は楼雅が得意とし、情報整理は高申がこの中で群を抜いて早い。各々の適材適所を活かした采配だ」

 反論は誰からも上がらなかった。

 各々、分担場所へと向かった。
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