憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

文字の大きさ
27 / 56
四幕 静かに関わっていた者達

六 四人の密談

しおりを挟む

 そこは檜摩の国近くのとある荒野。
 所々にこじんまりと雑草は生えているも、その殆どが細く、枯れたまま残るものもある。
 年間を通して降雨量が他所と違い、極端に少ないこの場所は、境場とは全く逆の働きをする場所である。

 気流が著しく乏しく、どのような方法を用いても作物が育たない。
 全くもって、死んだ土地と言える場所。

 各国の所々に境場があるように、こういった荒野も、境場程多くは無いが点在する。
 土地面積が広くなく、祓い手界隈でも、自然界におけることわりとして受け入れられ、放っておいても人々の生活に害を及ぼさない。むしろ、不思議と生活に支障をきたす災害が起きないため、国が変われば、位の低い者達が住む居住区や、戦場などに使用される。

 そんな荒野に、一作、仁、高申、楼雅の四名が集まった。

「三人共、集まってもらってすまない」
 この集合は、一作が三人に頼んだ事である。
「一作様、これはどういった集まりなのでしょう」

 仁も高申も、一作の腹の内を曖昧にだが察し、何も口出ししなかったが、こういった経験の乏しい楼雅は、素直に訊いた。

「他でもない、おかしらの命令と、あの国の不穏な鳳力に関して一度話を纏めたい」

 仁は鋭い目を他所に向けた。

「不穏というが、如月の倅だろ。あれはもう駄目だ。殺す他、手は無いぞ」
「今回の希鬼の総大将に位置する異念体。いや、あそこまで異常だと、幻体に類する鬼だ。奴の鳳力の影響で、周辺では戦が多く、野盗も集まっている。放っておけば悪質な異念体が増え、希鬼が蔓延するぞ」
 高申は視線を一作に向けている。
「しかしなぜお頭は、こうも自分で六赫希鬼を一人で祓おうとなさるのでしょう。自分はまだ祓い手として未熟ですが、兄様方がまとめて向かえば、事は早く済むのでは」

 弟である楼雅が、あまりにも無知な点が目立ち、兄である仁は面倒くさそうに説明した。

「阿呆かお前は」
 昔から、寡黙で弟想いに世話をしてくれた仁であるが、忠告するときの、楼雅に向けられる目の圧力に、楼雅は緊張が走ってしまう。
「希鬼はその辺の雑魚と違い、そう易々と祓えん。たとえこの場に居る四名が祓いに向かったところで、予測できん特異な方法で奴らは攻めて来る。力があろうと、精神を攻められる手を出されでもしろ、全滅だぞ」
「ですが兄様、如月の希鬼であれば――」

 今度は高申が告げた。仁と違い、高申から圧力はそれほど感じられない。
 仁が強面なのが影響しているとも思える。

「確かに、如月の希鬼は精神を攻めはせんであろう。鳳力の質も本人の横暴も、力の誇示を表している。力で圧せばどうにか出来るだろうが、我々四名、いや、本件で選ばれた者達七名の鳳力を合わせたとて、接戦がいい所だ」
「なぜですか?」
「奴の鳳力の質。分かりやすく言うなら、単純に禍々しすぎるのだ。お前なら奴を前にすれば足が震え、身動きが取れんだろう」

 楼雅が言い返えそうとしたが、それをさせまいと、仁が割って入り告げた。

「俺たちでさえ、まともに向き合えん。お前ほどの未熟者が協力者として役立つと思うか?」

 そう言われると何も言い返せない。
 自分が、眼前の三名と、一対一で比べられても、圧倒的に楼雅は劣る。そんな者が、まともに対峙出来ないと言うのだ、楼雅では怯んだ挙句に殺されるのは目に見えている。

「しかしどうする。あれでは俺らが協力した所で、かしら一人で対峙出来るとも思えんぞ」
 仁は一作の方に視線を向けた。
「それに、後に『ゴウキ』も控えている。あの術を使う前にお頭が死んでしまう」

 ゴウキ。字は【獄鬼】。
 気流を乱す程の禍々しい鳳力と、狂暴な性質から、地獄の鬼を彷彿とさせ、そう呼ばれた。
 六嚇希鬼と同時に討伐を依頼された鬼である。

 そう、一作もその展開に気づき、今回の話し合いの場を設けた。
 場所も、ススキノが警戒している人物連中が寄り付かないであろうと踏み、この場を選んだ。

「お頭もその流れは理解しているだろう。そこで皆に共通の一つの命令が下った」
「四導師の情報収集。特に先代二の祓師に重点をおいて」
 仁はさらに加えた。
「もう一つ気になる連中がいる」

 一作が説明を求めた。

「変わった連中だ。数度見ただけだが、一人は幻体を憑かせ、もう一人は鳳力が感じられん。最後に見た時は、侍らしき者を連れていた」
「どう気になる?」
「旅の目的は不明だが、悪質化した異念体を、俺らのように祓って消すのではなく、直に消している。あれは、亜界に帰してると言っていいだろう」

 世の祓い手達は、異念体であれ幻体であれ、悪質化すれば祓い続け、消滅に至らせる。
 直に亜界へ帰すことも出来なくはないが、導師であれそれはかなり難しい方法である。

 人間が、異念体、祈想幻体に対抗できる手段、それが祓いの技。

「確かに不思議だが、私の聞いた話では、お頭はその者達に接触し、すぐに離れた。と」
 それを訊いて、一作は考えた。
「そういえば、今お頭が足止めをくっている町にその連中が来ている筈だ」

 目的は不明でも、辿り着いた場所は檜摩の国の外れ。
 如月の希鬼が関係しているとさえ思えた。

「もしや、連中に如月の希鬼を相手取らせようと?」高申がこの答えに至った。
「そいつは無理だ。いくら侍を引き連れていようと、あの希鬼は強力すぎる」

 しかし、ススキノがその三名に接触していくには、何かしら事情があると踏んだ一作は、結論を出した。

「あの連中を追ってみようと思う」
「宜しいので?! お頭の命に背く事になりますよ」
「無論、二の祓師の情報収集の事も考えている。しかし、仁は数回、我々三人は一度も見ていないその者達を調べ、使えるかどうかを見極める。そこに一縷の望みを託すほかない」
「けどどうするよ。四名とはいえ、こんな大所帯で向かえば、さすがに連中が気づくだろ。頭は説明すればいいだろうが」
「そこで、我々は二手に別れたい。一つ、件の連中の尾行。もう一つは先代二の祓師の情報収集」
「割り振りは?」高申が訊いた。
「私と仁で尾行、高申、楼雅で情報を集めてくれ」

 演技事を苦手とする高申と仁が尾行だと思っていた楼雅は、割り振りの説明を求めようとしたが、同じことを仁も抱いていたのか、即座に訊かれた。

「仁は奴らを見ており、あの近辺では希鬼の影響で悪辣な連中が増えている。もしもの時、即座に対応できるなら、この四人の内、仁が適役だと判断した。私は、お頭へ報告もしやすい。情報収集は楼雅が得意とし、情報整理は高申がこの中で群を抜いて早い。各々の適材適所を活かした采配だ」

 反論は誰からも上がらなかった。

 各々、分担場所へと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...