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五幕 宿すモノの片鱗
一 幸之助と剛一郎
しおりを挟む秋も終わり近いのか、上空の青空も厚い小さな一塊の雲や薄曇りが多くなり始め、五日前には、小雨のような積もるほどでもない初雪が降った。今年は冬になるのが早い。
幸之助、永最、宗兵衛の三人は、雪が本降りとなる前に檜摩の国の国境を越えた。
吹雪く冬を迎える前に、前の国の大河、国境沿いの山脈を越える予定は無事果たされた。
檜摩の国は火山を中心に、町や小国が集まっている国である。
歴史上、”檜摩”と呼ばれる国は戦で領土を広げ大国となった。それは現代においてもその領土は狭まることは無い。
過去、戦の多い国として危険視されていたこの国も、近年では火山と、それが影響して出来た温泉目当てに旅人や観光客が訪れる国となった。
点在する町や小国にもそれぞれ名前はあるが、『檜魔の国の――』を頭に付けて呼ばれることがある。
三人の目的地は、『檜摩』と呼ぶ町にある。
「始めて来ますが、本当にそこら中に湯気が上がっていますねぇ」
永最が感心する中、宗兵衛は歩くのが不便でしかない草鞋を脱ぎ捨て、裸足になった。
長い山越えを終えた宗兵衛の草鞋は、いよいよ応急処置すら無意味なほどにボロボロとなり、その役目を終えた。
「しかし、こうも歩き回らねば目的地に着かんのか? それより足袋屋はないか?」
永最も幸之助も草鞋が傷んでおり、まず先に足袋屋を捜した。
町や小国の間は主に岩石地帯で、地図上では真っ直ぐ進めばすぐ到着できても、岩石地帯のおかげで曲がり道が多く、とても不便である。
さらに四日歩いて三人は、目的地から山を一つ挟んだ町に到着した。
その町に到着してから雨、霰が相次ぎ、本国への道が崩れ、修繕工事期間の間三人はその町で足止めをくう事となった。
終了期間は未定であり、長期化すると噂がたった。
幸い長屋宿もあり、少ない銭で雨風を凌ぐことは出来たものの、長居するなら銭は直に底をつくため、宿をとった翌日には各々で仕事を探すこととなった。
仕事と言っても短期間の簡易的なものであり、一定期間までに割り終えないといけない薪割りや、雑用諸々の仕事である。
役所で仕事を探した三人は、それぞれの出来そうな仕事を探し、宗兵衛はさっそく大量の薪割りへと向かった。
永最は早急に葬儀の経を唱える僧侶が欲しいという珍しい仕事へ。「こんな仕事もあるのだな」と感心しながら向かった。
一方幸之助は、一般人がしないような仕事を見つけ、手続きを済ませると早速向かった。
戦や災害後の遺体処理、並びに武具、家具一式採集。
やれることの限られた幸之助は、唯一出来そうな百姓仕事が見つからず、簡易斡旋にしては稼ぎの良い処理業を初挑戦することとなった。
役所で聞いた話をそのまま想像すると、人体の部位が無残に散乱している光景を想像していた幸之助であったが、いざ到着すると噂ほど凄惨な現場ではなかった。
「ここは初めてか?」
突然、親しそうに声をかけて男性が歩み寄ってきた。
「短期間で出来る仕事を探して来ました。波沢幸之助です」
「その頬の傷……は?」
「ああ、小さい頃、何かで切った傷だそうです。さっぱり覚えてないですが」
男性はふーん。と納得すると、自己紹介を再開した。
「俺は里井剛一郎。もう大方死体のほうは無いはずだ。誰もやらない仕事だが死体とか大丈夫か?」
見た目も年上に見え、態度も立場上、当然上からの物言いになる。これが幸之助には、まるで兄に言われているような感覚に陥った。
「一応、旅をして戦後の死体の山は何度も見てるから、こんな仕事は初めてだけど、たぶん大丈夫です」
「じゃあ、俺と一緒に作業に取り掛かろうか。……先に担当の親方へ挨拶しに行くぞ」
不思議と剛一郎が本当に兄のように思い、その日一日で幸之助は剛一郎を兄のように慕った。
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