憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

文字の大きさ
30 / 56
五幕 宿すモノの片鱗

三 剛一郎の洞察

しおりを挟む

 長屋での小宴会から五日後。

「さすが。………幸之助とは全く違う」

 剛一郎が称賛する相手は、肩が上下するほど息を切らせている宗兵衛。
 二人は木刀で手合わせを繰り広げていた。
 剛一郎との手合わせを、無邪気な子供のように生き生きと語る幸之助の話に宗兵衛が触発され、剛一郎に手合わせを願い出たのである。

 激しい打ち合いの末、柄の握りが緩み、一瞬斬り払う動作が遅れた剛一郎の隙をついて、突き出した木刀を相手の首元に当てた宗兵衛の勝利で終了した。
 公式の手合わせ同様、木刀を鞘に納め一礼の動作で相手への敬意を示すと、大きく息を吸って呼吸を整えた。

「何をもってさすがだ? とんだ嘘つきめ。謙遜な態度で油断させたと思いきや、眼つきも太刀筋も足さばきもなかなかのものではないか。もし師がいるのであれば話をしたいものだ」
「師はいません。育ちが上品じゃない分、木刀も真剣も振り回して生きなければ生活できなかっただけです。しかし宗兵衛様の剣術は不思議だった。一般的な誰かの門下であれば一定の動きは似ているのだが、基本の型とは別の型を持って見える。ただの剣客ではないのでしょうが、真剣勝負だと今の動きは命取りになりますよ」
「すごいな。どんな生き方したらそこまで見抜けるのやら」

 一度剛一郎に目を向けると、ゆるりと流すように背けた。

「お前さんは祓い手って呼ばれる連中の事を知ってるか?」

 悩む素振りのまま返答された。

「詳しくは……」頭を左右に振った。「しかし、目に見えない化物を倒す集団がいる話は聞いてます。俺はそんなの見えないですから、信じようもありませんが」
「まあ、俺の師はその連中関係者でな。祓い手の術を教えようと、祓い業の剣捌きに普通の剣客の剣術が身に着き、ごちゃまぜ剣術完成って訳だ。これでも結構治った方だが、お前さんとの手合わせでまだまだ治しようがあることに気付かされた。礼を言う」

 互いに会釈しあうと、剛一郎は向きを変えた。

「では、そちらの方の番ですね」
 視線の先の永最は手を振って否定した。
「滅相も無い。私は剣術など全く。子供のチャンバラが良い所だ」
「すまんな。俺の好奇心でお前さんと手合わせをしに来ただけで、あいつは興味本位の観戦だ。なんでも、幸之助の剣技を見て、それを超える手練れとやらを見たいのだそうだ」
「ああ。幸之助の動きは確かに見所が満載だ」

 呼び捨てに幸之助は何も思っていない。何より、二人は兄弟のような雰囲気もある。

「しかし動きが激しい分、無駄な所が多い。刀を持ちかえればいいところや、下がって体制を立て直せばいい所を反動に任せて回転したり、近くに木々があれば忍者のように飛び回って斬りかかる。何かの舞のような動き、舞術ぶじゅつと言った者もいましたがそれに似ている。ここまで動けるのは木刀だからでしょう。真剣なら刀の重みで反動が大袈裟になり動きが鈍る。真剣勝負なら体力が早く底をつき斬られるでしょう」
「あっぱれ。改めてお前さんと話をしたい。どうだ、いい汗もかいたし風呂でも行こう。温泉の多い国、もし良い所があるならそこへ行こうではないか」
「いいですね。幸之助、お前も行くだろ」

 満面の笑みで幸之助は返事した。

「ほう。剛一郎に幸之助。兄弟みたいではないか。なら永最、俺らも兄弟同様の付き合いをしようではないか」
 背中をバンバン叩かれ、永最は咳込んだ。
「ああ、ああ~。長い歩き旅で多少強くなったが、まだまだひ弱いなぁ」
「宗兵衛殿の力が強すぎだ。加減を覚えて頂きたい」
「堅い。兄貴とかぁ、もっと砕けた言い方もあるだろうて」
「しませんよ! それに、幸之助殿も畏まった言い回しで話している。だったら私も」
「してないぞ」

 まさかの返答に面食らった。
 確かめるように宗兵衛が幸之助に確認とると、うん。言ってない。と、敬語は一切ない。
 その様子を見て、日頃の対応を思い返し痛感した。

 永最は宗兵衛と志誠の会話が定着し、幸之助と宗兵衛のやり取りは最初の数日の事しか覚えていなかった。
 三人で旅をしていても早く寝るのは自分が先で、その後のやり取りは全く見ていない。こうなっていてもおかしくなかった。

「永最。そろそろお前の堅物をほぐす時が来たのだ。風呂でその辺も一変しようではないか」
「風呂は入るがそれはいい。修行僧の身で」
「そこが堅い。人の世で生きてるのだ、人を知るいい機会。郷に入っては郷に従えと言うだろ」
「私のことは結構です。そんなことは放っといて早く行こう宗兵衛殿」
「兄貴と呼べ」
「呼びません!」

 この後、永最の気が滅入りそうになるまで三人に絡まれ、尚且つ夜には酒を飲まされもてあそばれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...