31 / 56
五幕 宿すモノの片鱗
四 偶然の露天風呂
しおりを挟む二日後の夕方。
永最は遠征の法事仕事を請け負い、その日に帰ることが出来ないため、安宿で一泊する事となった。
久しぶりの一人の時間。
寂しいものの、どこか解放された感覚に陥り、一人露天風呂を満喫すると、その感覚はより感慨深いものとなった。
ふうぅ……。と、溜息も深く、頭を左右にゆっくり倒すとパキパキと音を鳴らし、疲れが身体から溶け出る錯覚にとらわれた。
「おんや。これはこれは」
露天風呂は中央に大岩が佇んでおり、それにより先客がいる事に気づいていなかった永最は、完全に気が抜けていた所を見られたのを恥ずかしく思いながら、姿勢を正した。
「ああ、気になさらんで下され。これ程極楽な場では、誰でも気が緩むものじゃて」
「ああ! 六蔵殿じゃないですか」
見知った顔に、永最は安堵した。
檜摩の国へ訪れ、今まで度々六蔵とは温泉で出会っている。
いつも通う温泉がほぼ同じ所であるため、六蔵が行きつけの温泉だと思い、偶然の出会いも仕方ないと思っていたが、まさか遠出先でとは。永最は本気で驚いた。
「どうしてここへ?」
「釣りよ釣り。昨日仕事仲間に訊いたんでな。この近くの森の沢で良い魚が釣れたんだわ」
「え、でもその魚はどうされたんですか?」
「宿代の足しに、渡したんでな。現物を見せれんのが残念だ」
宿では、宿泊代とは別に、山での山菜や魚など、料理として使えそうな食材を提供すると、宿代が微々たる金額だが安くできる所がある。
「で、お前さんは?」
六蔵はのぼせたのか、温泉の縁の岩場に胡坐を掻いた。永最ものぼせ、少し離れた位置に腰掛け、足は湯に浸けた。
「法事に関する仕事でここへ。帰るには遅いですので今日は泊まろうと思って。しかし、どうしてこの国はこうも葬儀が多いのでしょうか……」
「時期的なもんかもしれんな。ほら、秋口や冬前はよく年寄りは死ぬだろ。夏の疲れが吹き飛んでそのまま亡くなるとか」
それは迷信であり、真偽の程は定かではない。しかし、永最の故郷でも、兄弟子と共に訪れた町でも、似たような季節に葬儀が重なる事がよくあり、兄弟子達も似たようなことを言っていた。
「ところでお前さん、坊さんの類だったよな」
咄嗟に葬儀の仕事を振られると思い、さすがに連日出歩いて葬儀が続くと気が滅入る。
苦笑いが不意に表れた。
「安心せい。葬儀とかを頼む気はないわい」
「いえ、別にそういうわけでは……」
必死に否定はしたが、内心では安堵した。尚、表情変化に永最は気づいていない。
「ほれ、幽霊見たりとか、経文唱えて化物退治ぃ~。とか、そういうのをしたりしないのか?」
何を突拍子もない事を言うのかと思ったが、それらを生業としている者達と旅をしている反面、強く否定できなかった。
「あ、いえ、私はそういったことは……ちょっと……」
「そうか……」視線を逸らせた。「そいつは残念」
「残念と言いますと?」
「いやぁ、この歳になると、ちょっと刺激のあるモノを見たいとか思ってな」六蔵は湯に浸かった。「日が昇る前に魚釣りに行くとな。死んだ親父お袋に遭えるかなぁとか、ふと思ったりしてな」
どこまでが本気だろうか。
永最は故郷が偏見体質の者達に囲まれていたためか、他所ではそういった力は優遇されたり憧れめいたものがあるのかとさえ思えた。
冷静に考えれば、導師という存在が認知され、敬意を持たれてる所があるのだから、憧れがあってもおかしくない。
「六蔵殿は、そういったモノを見たいのですか?」
「ああ見てみたいなぁ。ほれ、導師とか見える者とか、自分に出来ん特殊な力とかは憧れないと思うか?」
「すいません。私の故郷は、そのような特異体質者を嫌う者達が多く、六蔵殿の意見は新鮮で、なんか……」
どう言っていいか分からず、言葉が曖昧となった。
どう話そうか躊躇っていると、六蔵は立ち上がった。
ここ最近よく見ているが、改めて近距離で見ると六蔵は年齢に反して見事な肉体をしている。
「すまん。のぼせたから上がるわ。また同じ町にいるんだろ?」
「あ、はい。何もなければ、明日は同じ町に居る筈です」
笑顔で会釈されると、六蔵は去っていった。
宿に戻った六蔵は、大の字で布団に倒れた。
「お前馬鹿か、歳考えろ。いつまで風呂入ってんだ。そりゃぁのぼせるわ」
アオの声がよく聞こえた。
「仕方ないだろ。先回りしたらどうしても長風呂になる。それより、これだけ体張ったんだ、当然何か掴めたか?」
「ああ。良い質問だった。おかげで奴の微弱な鳳力の質が見れた。お前の読み通りだぞ」
六蔵は呆然と天井を眺めた。
「おい、聞いてっか?」
「ああ。だったらって、色々思い出していた」
「色々ってなんだよ」
「いや、あの若造が言ってた、特異体質者を嫌う町。をな。今まで風呂で旅の期間やら、見て来た場所を考えれば、若造の出身は一つしかない。だったら……」
色々、六蔵の知る限りの情報を頭の中でまとめていくと、次第に眠気が襲って来た。
「すまんアオ。もう寝かせてもらうから、飯が来たら食っていいぞ」
「本当か! どういう風の吹き回しだ?!」
食事出来る事に興奮した。
「眠いだけだ。飯食ったら寝ろよ。余計な事はするな。明日に響くから」
「分かってる分かってる!」
声が弾んでいる。
この六蔵の忠告を無視すれば、二度と豪華な料理を食する事が出来ないのを知っている。なぜなら、過去に身体の支配権を受け取り、出歩いて色々買い食いをしてしまった為、六蔵にこっ酷く叱られ、反抗すれば鳳力を当てられる罰を受けた。
二度目は無い。
この言葉をアオは忘れないでいる。禁を破れば料理が食えない地獄が待っているからである。
0
あなたにおすすめの小説
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる