憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

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七幕 獄鬼との対峙

二 先代ニノ祓師・宇芭実独

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 宇芭実独。
 現代に至るありとあらゆる祈想幻体、異念体を祓う術を考案した人物であり、歴史上、どんな祈想幻体、異念体も手に及ばない実力者。それこそ六赫希鬼すらも足元に及ばない程である。
 その高すぎる技術力と聡明な頭脳を持つことから、数多くの伝説や人間離れした逸話が存在するほどである。

「しかし、なぜ噂ばかりを?」楼雅は調べた情報を述べた。「祓い手関連の情報通からは、数多くの幻体を仕えさせていたとか、本性は妖怪の一種、一人では不可能なほど強力な幻体や異念体を祓う事が出来たなど。漠然とした人間離れの情報ばかり。一般の民からはぼぼ知らないとの事で……」
「さらに」高申が加えた。「ある時を境に姿を消した事により亜界に帰ったや、人々に恨みを持ち、自身の中に封印していた異念体を解放した事で、人々に恨みを撒き散らした。代償に身体を亜界の者達に捧げた。などとされております」

 仁が何かに気づいた。
「確か、獄鬼が出始めた時期に近いという話を聞いたことがある」
 その情報と、ススキノの立場から、数人がある事に気づき、一作が代表して答えた。
「まさか、宇芭実独殿が獄鬼……と」
 ススキノは淡々と答えた。
「ああ。この依頼を賜った時、真っ先にその結論を仮定とした。相手は伝説になる人物、人間であった当初、ひがみ、恨み、辛み、を色々買われても仕方ない。実力は群を抜いた存在だ、獄鬼を生んでいたとしてもおかしくはない。獄鬼が生まれる前、良心の呵責で葬術を残していたとも考えられる。少々強引な推論だが、その線を前提に、そしてあの男の情報を元に志誠を追った。獄鬼ともあろう存在を宿した幸之助に憑き、獄鬼の覚醒を留めた。使用する術を見ても分かる。奴はただの幻体ではない。奴の術には我々の知らない別の葬術があると踏んでいたが、奴と獄鬼を合わせねばまるで何も見えんと結論に至った」
「こいつぁ、えらく危険な賭けだな。全てがア奴ら頼りとはな」

 この説明で、ただ一人、腑に落ちなかった者がいた。

「伊生、どうかしたのか?」彩夏が訊いた。
「あ、いえ、どうこう言える程そういった歴史の知識は疎く、俺の意見は当てにしないでください」
 ススキノが訊いた。
「構わん。お主の意見を申してみろ」
 伊生は僅かな間を開け、意見を纏めた。
「先ほどの話は宇芭実独が獄鬼で、それを祓う術を志誠が持ち合わせていると。その流れでした」
「ああ、そう繋がった。どこか含む所でも?」
「いえ、八卦葬送を作ったのは宇芭実独。それは文献にも載り、当然の在り方故に納得できます。しかし、後の獄鬼、志誠の存在が宇芭実独と結び付けるには、少々強引すぎるのでは? と」
 高申が反論した。
「何もおかしくはないだろ。あのように人知を超えた力の持ち主である鬼だ、宇芭実独のなれの果てでもおかしくはないだろ」
「人知を超えた存在であるなら志誠も同じ。獄鬼を宿した奴に憑く行動を起こすほど干渉している点で、何かしら因縁があるとは思えるが、双方と宇芭実独を結びつける要素が曖昧すぎる。現状、三体の強者達を、臆測、可能性、推論で強引に結びつけているだけで、それぞれが別個の強者と分別してもおかしくはないだろ」

 伊生の意見に、ススキノ、六蔵、彩夏はすんなり納得した。

「ほう。こいつぁ、少々考え方を改めねばならんようだな」
 彩夏は何かに気づいた。
「合理的な解釈になるかは分かりませんが、なぜ志誠は彼らを見捨てないのでしょうか?」
「それは」一作が答えた。「仲間だからだろ?」
「長い日々を過ごしての仲間というならそうでしょうが。そうではなく、獄鬼が幸之助に憑いた際、どうして志誠は彼に憑き、共に過ごそうと決意したのかが気になります」
「確かに、あの獄鬼が憑いているなら、いくら手練れの鳳力技を用いていようと、共に一人の人間に憑くなど幻体とて命知らずにもほどがある」

 その話に楼雅は疑問を抱いた。
「それ程危険なら、なぜあの幻体は無事でいるのでしょうか。昨日今日ではなく、長年なのでしょ?」
 この発言が、ススキノを閃かせた。
「そうか。我々はとんだ見当違いをしていたのかもしれん」
「と、言いますと?」
「志誠の実力、鳳力の質、獄鬼と共に幸之助の中にいる点を考慮しても並以上の実力者であることは分かる。いや、むしろ高位の導師と同等かそれ以上。そして、幻体がそれ程の実力を備えるには当然長年の鍛錬か、とてつもない力が働いたとしか考えられん。もし、宇芭実独の関係者があやつとすればどうだ」

 一同、納得した。

「確かに、宇芭実独の逸話には同時期、別場所で悪しき異念体を祓うというものがあります。志誠も共に祓い手を担っていたのなら頷けます」
 一作が答えた。
 仁が一作のほうを向いた。
「まて。どういう経緯で宇芭実独は消息を絶ったかは分からないが、年数的にも生きてはいない。だったらなぜ彼の者がおらん世に残り、自身の身に危険が及ぶ役を担って居続ける必要がある?」

 仁の意見に、またも伊生が結論に至る意見を述べた。

「宇芭実独が獄鬼ではなく、志誠。ではどうだろう」
「なに?」
「歴史上、宇芭実独は実在する為、元は人間であった。そして幻体も従えつつ幻体や異念体絡みの件を解決していった。しかしとうとう祓えない存在、獄鬼が現れた。先ほどの意見の訂正になりますが、人である以上、寿命か限界を迎え、従えた幻体に自分の鳳力か自分自身を宿した。志誠は宇芭実独である。又は宇芭実独の力を宿した存在。獄鬼を倒す信念が奴の鳳力に反応し、獄鬼を追う役を担い続けているのでは?」
「辻褄は合うな。ならあの力の説明が付く」
 ふと、ススキノは何かを思った。しかし、伊生の見解を重視し、話を進める判断を下した。

「今後の計画を指示する。仁と一作、志誠達が動いた時、奴らの前に姿を出す。その時の動向を頼む」
 二人は頭を下げ、御意。と告げた。
「他の者は時が来れば所定の位置につき、八卦葬送の準備を。志誠か獄鬼、どちらかが宇芭実独であれ、状況次第でどのような判断を下すかは追って伝える。しかし、術の使用はどうあれ、獄鬼の出方次第では命の危険は拭えん。敢えて言おう、死ぬ覚悟で当たってくれ」
 一同に、返事がされた。

「ですがお頭、作戦の実行はいつで?」
 一作の質問に答えたのは六蔵であった。
「幸之助が姿を現した時、恐らく三日以内だろ。志誠たちが動いた証拠だ」
「なぜ言いきれますか?」
「まあ、それは……秘密だ」

 ◇◇◇◇◇

 六蔵の意見は、当然アオが黒紫の靄を見て判断した事である。

(途中で気づいた事が言えねぇってのも大変だなぁ。言えばもっと話も早く済んだろうに。先の仮説でも後の仮説でも、結局は志誠頼りじゃねぇか)
(やかましい。言えば色々面倒だから黙ったまでだ。それに先であれ後であれ、捉え方が違うだけで、後々志誠への対応が変わり、事態が好転するかもしれんだろ)

 六蔵は表向きはおどけた表情を露わにしているが、心中で、本音の会話をしているため、表情を崩さない事に必死であった。
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