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策士の香り
第一話
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「また来ましたわね」
「ええ、また来たわね」
春子と毎日のように文を見て、ため息を零す。ここ数日はそんなことばかりを繰り返していた。
すでにこれは毎日の恒例行事になりつつある。
私は、盛大にため息をついた。
中務卿宮の邸へ行き、三の姫にお香の指南をしたあの日から毎日、敦正様から文が届いているのである。
それも熱烈な恋文だ。見ているだけで恥ずかしくなる文ばかりで、ある種の拷問のようだ。
歯が浮くなんてものではない、思わず文を放り出して身を捩ってしまうほどの威力だ。
恋文というものは、こんなに威力があるものなのだろうか。そして、かつてこんなに熱烈な文を貰ったことがあっただろうか。
だって、私は敦正様からの文を読んだだけで疲れがどっと出るのだから恋文というものは本当に恐ろしいものだ。
言霊にも力があると、有名な陰陽師が言っていたことを思いだしたが、もしかしたら文にもそんな力があるのかもしれない。
いや、きっとある。とんでもない威力があるに違いない。
これは呪詛に近いかもしれない。それだけの威力があると言い切れる。
私は、ハァーと大きく息を吐き出して文を放り投げた。
だが、その行動を見ていた春子に諫められる。春子のお小言も聞き飽きた。
私は耳を塞いでそっぽを向く。
ここ数日、毎日送られてくる敦正様からの恋文攻撃で、すっかり私は気が滅入ってしまっている。
今まで恋文なんてと侮っていたのだが、ここまで神経をすり切らせてしまうものとは知らなかった。恋文、恐るべしである。
こうなったら、専門職である有名な陰陽師に頼んで力を封印してもらうべきだろうか。
そう真剣に悩んでしまうほど、敦正様からの恋文に困っているのだ。
「こうも熱烈だと感激を通り越して、怯んでしまいますわね……」
春子は今まで敦正様が送ってきた恋文を並べて唸った。
どれも世の中の姫君が喉から手がでるほど欲しいと願っている敦正様からの恋文だ。しかし、私にしてみれば迷惑以外のなにものでもない。
世の女性にそんなことを言ったら……罰当たりだと罵られることだろうか。
春子は並べた恋文を眺めながら、私にチラリと視線を向けてきた。
その視線はとても意地悪なものに感じて、私は怯む。
春子はニヤニヤと口元を緩めながら、私に進言してくる。
「ここまで熱心なのですもの。もういいかげん勘弁したらどうです?」
「ちょ、ちょっと! 勘弁ってどういうこと? 春子は誰の味方なの? 私は折れないわよ、絶対に!」
ギョッとして声をあげると、春子は涼しい顔をして恋文を集めて文机に置いた。
「都中の姫君たちが、姫様の発言を聞いたら怒り狂いますよ。たとえ変人と名高い敦正様とはいえ、あれだけ人気のあるお方なのですから」
「そ、それはそうだけど……」
「なんでも今、都では姫さまと敦正様の噂でもちきりだそうですよ」
「な、なんですって!?」
どこでその情報が漏れたのだ。私は一人慌てふためいたが、春子は冷静なものだ。
「そりゃあすぐにバレるでしょう。敦正様の従者が毎日この邸に文を届けに来るのですもの」
「……」
本人たちが口を噤んでいても、世間の目はごまかすことはできないということらしい。
私は項垂れて脇息にもたれかかった。全くドッと疲れが押し寄せてくる。
周りが騒ごうとも、自分のお付き女房である春子が結婚を勧めたとしても、乗り気でないものはしかたがないであろう。
そこのところを父様にもわかっていただきたいものである。
今朝の父様とのやりとりを思い出し、げんなりと肩を落とす。
敦正様から文が毎日届く様を見て、父様は肩の荷が下りたと言ってはしゃいでいることは知っている。
理想が高いだの、胸がキュンキュンしないだの、あれこれ文句を言っている娘だが、敦正様なら文句なしで求婚を受けるだろうと思っているのだ。
残念、父様。私は敦正様からの求婚はお引き受けしないつもりだ。
だって、この人危険。絶対に危険だと思う。そう、私の勘が叫んでいる。
だから、父様が「返事を早くだしなさい」と毎日のように私を窘めにくるのには、正直辟易しているのだ。
この苦境をどう乗り越えればいいのだろうか。
このままにしていては、下手をすれば中務卿宮と父とで話をつけてしまいそうな勢いだ。
兄である、清貴(きよたか)兄様の情報だと、中務卿宮はやっと結婚をする気になった我が息子のことを手放しで喜んでいるという話ではないか。
『敦正のあんなに真剣な顔を見たのは、初めてかもしれない』
嬉しそうにほほ笑む兄様を見て、私が複雑に思ったのは言うまでもない。
なんせ私は敦正様のことをステキだとも思わないし、心が躍るということもないのだ。
それなのに、周りだけが騒いでいる状況。どうにかしていただきたい。
どうして兄様が敦正様の肩を持つのか疑問をいだしていたのだが、なんでも兄様と敦正様は旧知の仲だというのだ。
そんなことを聞くのは初耳だった私はビックリした。
私が知らなかっただけで兄様はよく中務卿宮邸に行っていたらしく、敦正様とはお互い親友という間柄だという。
それを聞いて、あのときの三の姫の態度もやっと腑に落ちた。
何度も中務卿宮邸に通っている兄様を見たことがあったのだろう。
兄様は、妹の私から見ればとてもステキな公達だ。
しかし、世間では厳ついだの、強面だのと言われていることを知っている。
世間の姫君は、敦正様のような美上丈の男を好み、清貴兄様のような男を敬遠する。
しかし、私は世の姫君たちに物申したい。
見かけだけで、何もかもを決めてしまっていいものか、と。
確かに兄様は、世間一般の美上丈の要素は兼ね備えていないかもしれない。
しかし、仕事に対してのまじめさ、人柄、男としての包容力。
それを兼ね備えているのが兵部少輔、清貴なのである。
下級貴族ながら、手柄をいくつも取り、今までにない大出世をしている我が兄。ああ、なんて素敵な兄様なんでしょう。
結婚するなら、兄様のような誠実で包容力のある人間が一番だと考える私には、どうも尻軽な雰囲気がある敦正様のことは好きになれない。
さっさと自分のことは忘れて、もっと美しくて気品あふれる姫のところに通ってほしい。
そう願う私は、やっぱり変わり者なのだろうか。いやいや、絶対に私は堅実的であるはずだ。
やっぱり結婚するなら兄様のような方でないとする気にはなれない。
私は、送られてきた敦正様の文を見て再びため息を零した。
「これって……やっぱり返事するべき?」
毎日送られてくる文に、私はまだ一度も返事をしたことがない。
敦正様の従者がそれとなく「文を……」と催促してきているという。
それなのに、まだ一度も文を出していないのだから宮家としてもプライドが許さないだろう。
宮家の威光をちらつかせ始めているという今日この頃、さすがに返歌をしない訳にもいかないかもしれない。
残念ながら世は縦社会。
相手は変人と名高い公達だが、宮家の人間だ。
下級貴族の端くれである我が家がたてつくのは体裁的にもよくないだろう。
ブチブチと文句を垂れる私に、春子は目の色を変えた。
「もちろんですわよ! 敦正様は、清貴様のご親友ですわよ。心証が悪くなって仲たがいにでもなったら……姫様が清貴さまに怒られるのですからね」
「っ!」
今の春子の言葉はさすがに胸に響いた。
痛くてズキズキする。さすがはお付き女房だ。私の弱点などお見通しというところだろう。
しかし、返歌などしたら、敦正さまが図に乗らないだろうか。
一度返歌をしたことにより、うまく丸め込まれて気が付けば結婚なんて恐ろしい事態になりそうな、そんなイヤな予感させするのだ。
あまりうかつな事はできないだろう。それが私が出している答えだ。
だけど、そろそろしびれを切らし、敦正様がなにかしら攻撃をしてきそうで恐ろしい。
一度会っただけだが、なんとなく敦正様を敵に回さない方がいいと思っている。
板挟みな状態に、私はもう一度盛大にため息をついた。
困ったと頭を悩ませていると、衣擦れの音が聞こえてくる。
そして微かに香るのは大好きな香りだ。
「香、先触れもせずすまない。今、大丈夫だろうか?」
「兄様!」
春子が止めるのを無視して、御簾から飛び出した私を兄様は困ったように抱きしめてくれた。
しかし、あとに眉を顰めて私を窘める。
「香。お前も十六だ。いくら兄妹といえど、こうして直接顔を見せるものではない」
「でも、私は兄様のお顔を間近で拝見しとうございます。いいではないですか。二人しかいない兄妹。気軽に顔を合わせることを、誰が咎めましょう」
私は知っている。こうして目を潤ませて兄様にお願いすれば、大抵のことは許してくれると。
ズルいとはわかっている。だけど、こうしなければ兄様は私の顔を見てくれない。そんなの寂しすぎる。
ギュッと兄様に抱きつくと、頭上で息を吐き出した音が聞こえた。
「香は仕方がない子だ」
「兄様」
困ったように眉を下げ、ゆっくりと私の頭を撫でてくれるのは昔から変わらない。
やっぱり兄様は、この都で一番のいい男だ。
それをわからない姫君たちは大馬鹿だ。兄様の良さがわかるのは、私しかいない。
嬉しくなって兄様に飛びついたのだが、思わず固まった。
「兄様……?」
「ごめん、香。敦正がしつこくて」
視線の先、簀子を少しだけ開けて敦正様が手を振って立っていた。
驚きを通り越して呆れてしまった。さすがは変人と名高い敦正様だ。手段を選ばない。
私がガックリと項垂れていると、春子が突然私の顔を扇で隠した。
「ええ、また来たわね」
春子と毎日のように文を見て、ため息を零す。ここ数日はそんなことばかりを繰り返していた。
すでにこれは毎日の恒例行事になりつつある。
私は、盛大にため息をついた。
中務卿宮の邸へ行き、三の姫にお香の指南をしたあの日から毎日、敦正様から文が届いているのである。
それも熱烈な恋文だ。見ているだけで恥ずかしくなる文ばかりで、ある種の拷問のようだ。
歯が浮くなんてものではない、思わず文を放り出して身を捩ってしまうほどの威力だ。
恋文というものは、こんなに威力があるものなのだろうか。そして、かつてこんなに熱烈な文を貰ったことがあっただろうか。
だって、私は敦正様からの文を読んだだけで疲れがどっと出るのだから恋文というものは本当に恐ろしいものだ。
言霊にも力があると、有名な陰陽師が言っていたことを思いだしたが、もしかしたら文にもそんな力があるのかもしれない。
いや、きっとある。とんでもない威力があるに違いない。
これは呪詛に近いかもしれない。それだけの威力があると言い切れる。
私は、ハァーと大きく息を吐き出して文を放り投げた。
だが、その行動を見ていた春子に諫められる。春子のお小言も聞き飽きた。
私は耳を塞いでそっぽを向く。
ここ数日、毎日送られてくる敦正様からの恋文攻撃で、すっかり私は気が滅入ってしまっている。
今まで恋文なんてと侮っていたのだが、ここまで神経をすり切らせてしまうものとは知らなかった。恋文、恐るべしである。
こうなったら、専門職である有名な陰陽師に頼んで力を封印してもらうべきだろうか。
そう真剣に悩んでしまうほど、敦正様からの恋文に困っているのだ。
「こうも熱烈だと感激を通り越して、怯んでしまいますわね……」
春子は今まで敦正様が送ってきた恋文を並べて唸った。
どれも世の中の姫君が喉から手がでるほど欲しいと願っている敦正様からの恋文だ。しかし、私にしてみれば迷惑以外のなにものでもない。
世の女性にそんなことを言ったら……罰当たりだと罵られることだろうか。
春子は並べた恋文を眺めながら、私にチラリと視線を向けてきた。
その視線はとても意地悪なものに感じて、私は怯む。
春子はニヤニヤと口元を緩めながら、私に進言してくる。
「ここまで熱心なのですもの。もういいかげん勘弁したらどうです?」
「ちょ、ちょっと! 勘弁ってどういうこと? 春子は誰の味方なの? 私は折れないわよ、絶対に!」
ギョッとして声をあげると、春子は涼しい顔をして恋文を集めて文机に置いた。
「都中の姫君たちが、姫様の発言を聞いたら怒り狂いますよ。たとえ変人と名高い敦正様とはいえ、あれだけ人気のあるお方なのですから」
「そ、それはそうだけど……」
「なんでも今、都では姫さまと敦正様の噂でもちきりだそうですよ」
「な、なんですって!?」
どこでその情報が漏れたのだ。私は一人慌てふためいたが、春子は冷静なものだ。
「そりゃあすぐにバレるでしょう。敦正様の従者が毎日この邸に文を届けに来るのですもの」
「……」
本人たちが口を噤んでいても、世間の目はごまかすことはできないということらしい。
私は項垂れて脇息にもたれかかった。全くドッと疲れが押し寄せてくる。
周りが騒ごうとも、自分のお付き女房である春子が結婚を勧めたとしても、乗り気でないものはしかたがないであろう。
そこのところを父様にもわかっていただきたいものである。
今朝の父様とのやりとりを思い出し、げんなりと肩を落とす。
敦正様から文が毎日届く様を見て、父様は肩の荷が下りたと言ってはしゃいでいることは知っている。
理想が高いだの、胸がキュンキュンしないだの、あれこれ文句を言っている娘だが、敦正様なら文句なしで求婚を受けるだろうと思っているのだ。
残念、父様。私は敦正様からの求婚はお引き受けしないつもりだ。
だって、この人危険。絶対に危険だと思う。そう、私の勘が叫んでいる。
だから、父様が「返事を早くだしなさい」と毎日のように私を窘めにくるのには、正直辟易しているのだ。
この苦境をどう乗り越えればいいのだろうか。
このままにしていては、下手をすれば中務卿宮と父とで話をつけてしまいそうな勢いだ。
兄である、清貴(きよたか)兄様の情報だと、中務卿宮はやっと結婚をする気になった我が息子のことを手放しで喜んでいるという話ではないか。
『敦正のあんなに真剣な顔を見たのは、初めてかもしれない』
嬉しそうにほほ笑む兄様を見て、私が複雑に思ったのは言うまでもない。
なんせ私は敦正様のことをステキだとも思わないし、心が躍るということもないのだ。
それなのに、周りだけが騒いでいる状況。どうにかしていただきたい。
どうして兄様が敦正様の肩を持つのか疑問をいだしていたのだが、なんでも兄様と敦正様は旧知の仲だというのだ。
そんなことを聞くのは初耳だった私はビックリした。
私が知らなかっただけで兄様はよく中務卿宮邸に行っていたらしく、敦正様とはお互い親友という間柄だという。
それを聞いて、あのときの三の姫の態度もやっと腑に落ちた。
何度も中務卿宮邸に通っている兄様を見たことがあったのだろう。
兄様は、妹の私から見ればとてもステキな公達だ。
しかし、世間では厳ついだの、強面だのと言われていることを知っている。
世間の姫君は、敦正様のような美上丈の男を好み、清貴兄様のような男を敬遠する。
しかし、私は世の姫君たちに物申したい。
見かけだけで、何もかもを決めてしまっていいものか、と。
確かに兄様は、世間一般の美上丈の要素は兼ね備えていないかもしれない。
しかし、仕事に対してのまじめさ、人柄、男としての包容力。
それを兼ね備えているのが兵部少輔、清貴なのである。
下級貴族ながら、手柄をいくつも取り、今までにない大出世をしている我が兄。ああ、なんて素敵な兄様なんでしょう。
結婚するなら、兄様のような誠実で包容力のある人間が一番だと考える私には、どうも尻軽な雰囲気がある敦正様のことは好きになれない。
さっさと自分のことは忘れて、もっと美しくて気品あふれる姫のところに通ってほしい。
そう願う私は、やっぱり変わり者なのだろうか。いやいや、絶対に私は堅実的であるはずだ。
やっぱり結婚するなら兄様のような方でないとする気にはなれない。
私は、送られてきた敦正様の文を見て再びため息を零した。
「これって……やっぱり返事するべき?」
毎日送られてくる文に、私はまだ一度も返事をしたことがない。
敦正様の従者がそれとなく「文を……」と催促してきているという。
それなのに、まだ一度も文を出していないのだから宮家としてもプライドが許さないだろう。
宮家の威光をちらつかせ始めているという今日この頃、さすがに返歌をしない訳にもいかないかもしれない。
残念ながら世は縦社会。
相手は変人と名高い公達だが、宮家の人間だ。
下級貴族の端くれである我が家がたてつくのは体裁的にもよくないだろう。
ブチブチと文句を垂れる私に、春子は目の色を変えた。
「もちろんですわよ! 敦正様は、清貴様のご親友ですわよ。心証が悪くなって仲たがいにでもなったら……姫様が清貴さまに怒られるのですからね」
「っ!」
今の春子の言葉はさすがに胸に響いた。
痛くてズキズキする。さすがはお付き女房だ。私の弱点などお見通しというところだろう。
しかし、返歌などしたら、敦正さまが図に乗らないだろうか。
一度返歌をしたことにより、うまく丸め込まれて気が付けば結婚なんて恐ろしい事態になりそうな、そんなイヤな予感させするのだ。
あまりうかつな事はできないだろう。それが私が出している答えだ。
だけど、そろそろしびれを切らし、敦正様がなにかしら攻撃をしてきそうで恐ろしい。
一度会っただけだが、なんとなく敦正様を敵に回さない方がいいと思っている。
板挟みな状態に、私はもう一度盛大にため息をついた。
困ったと頭を悩ませていると、衣擦れの音が聞こえてくる。
そして微かに香るのは大好きな香りだ。
「香、先触れもせずすまない。今、大丈夫だろうか?」
「兄様!」
春子が止めるのを無視して、御簾から飛び出した私を兄様は困ったように抱きしめてくれた。
しかし、あとに眉を顰めて私を窘める。
「香。お前も十六だ。いくら兄妹といえど、こうして直接顔を見せるものではない」
「でも、私は兄様のお顔を間近で拝見しとうございます。いいではないですか。二人しかいない兄妹。気軽に顔を合わせることを、誰が咎めましょう」
私は知っている。こうして目を潤ませて兄様にお願いすれば、大抵のことは許してくれると。
ズルいとはわかっている。だけど、こうしなければ兄様は私の顔を見てくれない。そんなの寂しすぎる。
ギュッと兄様に抱きつくと、頭上で息を吐き出した音が聞こえた。
「香は仕方がない子だ」
「兄様」
困ったように眉を下げ、ゆっくりと私の頭を撫でてくれるのは昔から変わらない。
やっぱり兄様は、この都で一番のいい男だ。
それをわからない姫君たちは大馬鹿だ。兄様の良さがわかるのは、私しかいない。
嬉しくなって兄様に飛びついたのだが、思わず固まった。
「兄様……?」
「ごめん、香。敦正がしつこくて」
視線の先、簀子を少しだけ開けて敦正様が手を振って立っていた。
驚きを通り越して呆れてしまった。さすがは変人と名高い敦正様だ。手段を選ばない。
私がガックリと項垂れていると、春子が突然私の顔を扇で隠した。
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