157 / 169
Tire102 脇腹
しおりを挟む
サーっと冷たい風が傍若無人に顔に当たる。
北風だろうか。
街路樹に青々と茂った葉っぱが騒がしく揺れている。
最近は気温が上がってきたこともあり、冷気を孕んだ北風がやけに心地いい。
俺の右側を通り過ぎて行く車の音が一種の風の音のように聞こえる。
「……いつの間にか、俺は外に出ていたんだな」
今更ながら、俺は行く当てもなく外をフラフラと歩いていることに気がついた。
スクランブル交差点の映像を見て、何者からのメッセージがあって、それから……俺は……
駄目だ。
上手く思い出せない。
たぶん、伊瀬達に何かを言われたような……
それで……俺は……何かを言って……
その後は……
外にいた。
さっきまでは何も考えずに、何も感じずに、ただただ歩いていた。
どこへ?
何の目的で?
俺は歩いている?
どうして俺はここにいる?
「わからない」
戻ろう。
どこに?
戻れない。
歩みは止まらない。
引き返せない。
進むしかない。
俺はもう……
進み続けるしか――
『グイッ』
突然、背中を引っ張られるような感じがした。
その直後、ワイシャツの第二ボタン辺りが首元まで上がってきて息苦しくなる。
歩き続けようにも後ろを何かに掴まれているせいで進みようがない。
それを振り払う気力は今の俺にはなかった。
心もとない足取りは簡単に止まってしまう。
「アンタ、勝手にどこ行くのよ!」
俺はボーっとした頭で無意識に自分の後ろを振り返った。
そこにはなぜか、必死な顔をした美結……如月が俺のワイシャツの裾をちょこんと掴んで立っていた。
--------------------------
「アンタ、勝手にどこ行くのよ!」
アタシがそう呼び止めると、アイツはゆっくりとアタシに振り返った。
やっぱり、六課を出た時と同じような虚ろな目をしている。
人や物事を見透かすような鋭い目は完全に消え失せている。
「……なんだ、お前か……」
アタシの顔を見てもアイツは……マノは驚くこともなく、表情一つ変えないでボソリと呟いた。
本当、心ここにあらずって感じだ。
「悪かったわね! アタシで!」
「……」
何も言わない。
いつもだったら皮肉めいた軽口が返ってくるはずなのに……
今は虚ろな目でアタシを黙って見続けてくるだけ。
アタシを見ているはずなのに、アタシを見ていない。
そんな感じがしてしまう。
ううん。
それは今に限ったことじゃないよね。
マイグレーターじゃないアタシは、どこかでマノや日菜っちとは決定的に違うんだよね。
結局、アタシは何もできないのかな。
一番大切な人を支えてあげることさえも……
「少し歩かないか?」
「え?」
ずっと黙っているものと思っていたアイツが急に喋ったから、アタシはびっくりして素っ頓狂な声を出してしまった。
「えっと……う、うん……」
しどろもどろになりながらもアタシはぎこちなくコクンと頷いた。
「……」
自分から歩こうだなんて提案して来たくせにマノは全然歩きだそうとする気配を見せない。
ジーッと振り返ったまま、こっちを見てる。
「何して――」
そこまで言いかけて、アタシはマノが見つめる視線の先にある意味に気づいた。
「あ、ごめん」
アタシは慌ててちょこんと掴んでいたマノのワイシャツの裾をパッと離した。
すっかり、掴んでいたことを忘れてしまっていた。
これじゃ、マノが歩き出せなくて当たり前だよね。
アタシが裾から手を離したのを見て、マノは黙って前を向いて歩き出した。
アタシもすぐに一歩前に踏み出して、マノの背中をおいかけるように歩き出す。
けど、マノの背中はすぐに見えなくなった。
その代わりに、マノの横顔がアタシの右隣に見える。
そういえば、マノには昔からこういうとこがあった。
一人でいる時や普段の何気ない時、マノは自分のペースでカツカツと歩いて行ってしまうことが多い。
一緒にいる人を置いてけぼりにしてしまうことはないけれど、先頭きって一人で歩いているタイプだ。
でも、側にいて欲しい時にはいつの間にか相手の歩幅に合わせて隣を歩いてくれる。
マノのそういうところがアタシは……
アタシはもう一度、マノの横顔を見る。
なんとなくだけど、さっきよりは顔色がよくなっているように思う。
虚ろだった目にも少しだけ光が戻っている。
「あっ……」
マノの横顔を見ることに意識を向け過ぎてしまったせいか、アタシはマノの方にかなり近寄っていたみたい。
思わず、お互いの手と手が軽く触れあってしまった。
それなのにマノはなんの反応も示さない。
これだとアタシだけが変に反応しちゃってるみたいじゃん。
それに、人を誘っておいて一言も喋らないし、こっちを見向きもしない。
……なんか、ちょっとイライラしてきた。
アタシだけマノにいいように振り回されるとかあり得ない!
『ちょんちょん』
アタシはマノの脇腹をつついてみた。
マノは昔から、脇腹を触られるのが苦手だった。
ほんの少し触られただけでも、すぐに体をよじってくすぐったいのを耐えるように顔をしかめる。
それは今のマノでも変わってはいないと思う。
たぶんだけど……
『ちょんちょん』
アタシは再び、マノの脇腹をつついてみる。
若干の放心状態のせいか、あまりくすぐったそうな反応は見せない。
やっぱり、今のマノだとくすぐったくないのかな?
『ちょんちょん』
アタシはさらに、マノの脇腹をつついてみる。
うん?
今、少しだけアタシに脇腹をつつかれるのを避けたような。
『ちょんちょん』
あっ、今度は間違いない。
絶対に避けた。
なんなら、アタシから少しだけ距離取ったもん。
効いてるんだ。
アタシはずいっとマノに近づく。
なんだか、ちょっと楽しくなってきた。
『ちょんちょん、ちょんちょん、ちょんちょん』
アタシはマノの脇腹に連続攻撃を仕掛ける。
すると、とうとう耐え切れなくなったのかマノは自分の脇腹を守るように手で押さえた。
「……くすぐったいからやめろ。知ってるだろ……俺が昔から脇腹弱いの……」
そう言って、マノはやっとこっちを見てくれた。
虚ろだった目はどこかに消えていて、その瞳にはちゃんとアタシが映っていた。
北風だろうか。
街路樹に青々と茂った葉っぱが騒がしく揺れている。
最近は気温が上がってきたこともあり、冷気を孕んだ北風がやけに心地いい。
俺の右側を通り過ぎて行く車の音が一種の風の音のように聞こえる。
「……いつの間にか、俺は外に出ていたんだな」
今更ながら、俺は行く当てもなく外をフラフラと歩いていることに気がついた。
スクランブル交差点の映像を見て、何者からのメッセージがあって、それから……俺は……
駄目だ。
上手く思い出せない。
たぶん、伊瀬達に何かを言われたような……
それで……俺は……何かを言って……
その後は……
外にいた。
さっきまでは何も考えずに、何も感じずに、ただただ歩いていた。
どこへ?
何の目的で?
俺は歩いている?
どうして俺はここにいる?
「わからない」
戻ろう。
どこに?
戻れない。
歩みは止まらない。
引き返せない。
進むしかない。
俺はもう……
進み続けるしか――
『グイッ』
突然、背中を引っ張られるような感じがした。
その直後、ワイシャツの第二ボタン辺りが首元まで上がってきて息苦しくなる。
歩き続けようにも後ろを何かに掴まれているせいで進みようがない。
それを振り払う気力は今の俺にはなかった。
心もとない足取りは簡単に止まってしまう。
「アンタ、勝手にどこ行くのよ!」
俺はボーっとした頭で無意識に自分の後ろを振り返った。
そこにはなぜか、必死な顔をした美結……如月が俺のワイシャツの裾をちょこんと掴んで立っていた。
--------------------------
「アンタ、勝手にどこ行くのよ!」
アタシがそう呼び止めると、アイツはゆっくりとアタシに振り返った。
やっぱり、六課を出た時と同じような虚ろな目をしている。
人や物事を見透かすような鋭い目は完全に消え失せている。
「……なんだ、お前か……」
アタシの顔を見てもアイツは……マノは驚くこともなく、表情一つ変えないでボソリと呟いた。
本当、心ここにあらずって感じだ。
「悪かったわね! アタシで!」
「……」
何も言わない。
いつもだったら皮肉めいた軽口が返ってくるはずなのに……
今は虚ろな目でアタシを黙って見続けてくるだけ。
アタシを見ているはずなのに、アタシを見ていない。
そんな感じがしてしまう。
ううん。
それは今に限ったことじゃないよね。
マイグレーターじゃないアタシは、どこかでマノや日菜っちとは決定的に違うんだよね。
結局、アタシは何もできないのかな。
一番大切な人を支えてあげることさえも……
「少し歩かないか?」
「え?」
ずっと黙っているものと思っていたアイツが急に喋ったから、アタシはびっくりして素っ頓狂な声を出してしまった。
「えっと……う、うん……」
しどろもどろになりながらもアタシはぎこちなくコクンと頷いた。
「……」
自分から歩こうだなんて提案して来たくせにマノは全然歩きだそうとする気配を見せない。
ジーッと振り返ったまま、こっちを見てる。
「何して――」
そこまで言いかけて、アタシはマノが見つめる視線の先にある意味に気づいた。
「あ、ごめん」
アタシは慌ててちょこんと掴んでいたマノのワイシャツの裾をパッと離した。
すっかり、掴んでいたことを忘れてしまっていた。
これじゃ、マノが歩き出せなくて当たり前だよね。
アタシが裾から手を離したのを見て、マノは黙って前を向いて歩き出した。
アタシもすぐに一歩前に踏み出して、マノの背中をおいかけるように歩き出す。
けど、マノの背中はすぐに見えなくなった。
その代わりに、マノの横顔がアタシの右隣に見える。
そういえば、マノには昔からこういうとこがあった。
一人でいる時や普段の何気ない時、マノは自分のペースでカツカツと歩いて行ってしまうことが多い。
一緒にいる人を置いてけぼりにしてしまうことはないけれど、先頭きって一人で歩いているタイプだ。
でも、側にいて欲しい時にはいつの間にか相手の歩幅に合わせて隣を歩いてくれる。
マノのそういうところがアタシは……
アタシはもう一度、マノの横顔を見る。
なんとなくだけど、さっきよりは顔色がよくなっているように思う。
虚ろだった目にも少しだけ光が戻っている。
「あっ……」
マノの横顔を見ることに意識を向け過ぎてしまったせいか、アタシはマノの方にかなり近寄っていたみたい。
思わず、お互いの手と手が軽く触れあってしまった。
それなのにマノはなんの反応も示さない。
これだとアタシだけが変に反応しちゃってるみたいじゃん。
それに、人を誘っておいて一言も喋らないし、こっちを見向きもしない。
……なんか、ちょっとイライラしてきた。
アタシだけマノにいいように振り回されるとかあり得ない!
『ちょんちょん』
アタシはマノの脇腹をつついてみた。
マノは昔から、脇腹を触られるのが苦手だった。
ほんの少し触られただけでも、すぐに体をよじってくすぐったいのを耐えるように顔をしかめる。
それは今のマノでも変わってはいないと思う。
たぶんだけど……
『ちょんちょん』
アタシは再び、マノの脇腹をつついてみる。
若干の放心状態のせいか、あまりくすぐったそうな反応は見せない。
やっぱり、今のマノだとくすぐったくないのかな?
『ちょんちょん』
アタシはさらに、マノの脇腹をつついてみる。
うん?
今、少しだけアタシに脇腹をつつかれるのを避けたような。
『ちょんちょん』
あっ、今度は間違いない。
絶対に避けた。
なんなら、アタシから少しだけ距離取ったもん。
効いてるんだ。
アタシはずいっとマノに近づく。
なんだか、ちょっと楽しくなってきた。
『ちょんちょん、ちょんちょん、ちょんちょん』
アタシはマノの脇腹に連続攻撃を仕掛ける。
すると、とうとう耐え切れなくなったのかマノは自分の脇腹を守るように手で押さえた。
「……くすぐったいからやめろ。知ってるだろ……俺が昔から脇腹弱いの……」
そう言って、マノはやっとこっちを見てくれた。
虚ろだった目はどこかに消えていて、その瞳にはちゃんとアタシが映っていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした
山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。
そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。
逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。
それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶
この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。
そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる