マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

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SS3 優先席

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 六課からの帰り、俺は一人でモノレールに揺られていた。
 車内は比較的空いており、ちょうどよく全員が座っているような状況だった。

 モノレールは徐々にスピードを落として、停車駅に止まる。
 降りる人も乗る人もおおよそ同じだったため、車内には至って変化はない。
 多少あるとすれば、一人か二人の若者がドアのすぐそばで立っているくらいだ。

 ……それと今、俺の目の前に立っているこの小学生か。

 背丈的に小学校低学年くらいと思われる男子がランドセルを背負って一人立っている。
 制服を着ているところから、私立の小学校に通っているのだろう。
 その小学生は、なぜか先ほどからじっと俺を見つめている。
 気にならないというわけではないが、俺は気付かない振りをして手にしたスマホに目を落とす。

「ねぇ」

 小学生がいきなり声を出したので驚きはしたが、俺は小学生の方を見向きもしなかった。
 小学生なんて、どんな行動するか予測不能だ。
 いきなり声を出すことぐらいはあるだろう。

「ねぇ、ねぇってば!」

 どうも、この小学生は誰かに明確な意思を持って誰かに呼びかけているようだ。
 一体、誰に?
 近くに友達らしき人物は見当たらないな。

「ねぇ、そこのお兄ちゃん!」

 お兄ちゃん?
 俺の左右にはお兄ちゃんと呼ばれるような奴はいないぞ。
 いたとしても右のおっさんだが、さすがにおっさんをお兄ちゃんとは呼ばないだろう。
 となると……答えは一つか。

「え、俺?」

 俺はようやく、目の前の小学生に向き直った。

「そうだよ。さっきから、ずっと呼んでるじゃん!」

 小学生は不服そうに俺に言う。

「そうだったのか。それは悪かったな。で、俺に何の用だ?」

 こんな小学生に声を掛けられるようなことを俺はしていただろうか。

「そこ、優先席だから若い人が座っちゃいけないんだよ!」

 小学生は俺に人差し指をピンと向けて言った。

「……」

 正直に言えば、「なんだ、このクソガキは」と思ってしまったのは事実だ。
 優先席はあくまで席であり、若者が座ってはいけないというものではない。
 ましてや、車内のほんとんどの人は座っており、立っているのは僅か数人の元気の良さそうな若い奴らだけだ。
 俺だって、足腰の悪い年寄がいたら快く席を譲るし、混んでいたら優先席にだって最初から座らない。

 俺は頭の中で、あれこれと自らの正当性を瞬時に考えたが、ふと思考を止めた。
 この小学生が言っていることは根本的には全くもって正しいからだ。
 いくら車内が空いていたからといって、俺みたいな若くて健康な奴が優先席に座るという行為はあまり褒められたものではない。
 いくら六課の仕事が忙しくて疲れていたとしても、それとこれとは話が別である。

「……そうだな。お前の言う通りだな。俺が悪かったよ」

 俺は自分の邪念を振り払い、小学生の指摘を素直に受け入れる。
 腰を上げ、近くのドアよりも一個先のドアの近くまで行き、背中をドアの脇に預けて俺は立つことにした。
 疲れてはいるが、スマホでもいじって気を紛らわせていれば大したことはないだろう。
 俺は再度スマホに目を落とし、意識をスマホに集中させた。

 --------------------------

 降りる駅が近くなったことで、俺は集中していたスマホから目を離した。
 気を紛らわせれば、疲れも案外なんとかなるもんらしい。

 駅に降りる寸前にふと、さっきまで俺が座っていた優先席の方を見た。
 俺に注意をしてきた小学生はいつの間にかいなくなっていた。
 途中の駅でもう降りたのだろうと思った時、小さな足が浮いているのが見えた。
 よく見ると、俺が座っていた席にあの小学生がちょこんと座っていた。

「……は?」

 俺が思わず声を漏らした時には、もうモノレールは通り過ぎて行っていた。
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