マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

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SS4 (3) 肝試し

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 僕達は今、夜の学校の三階女子トイレで絶賛肝試し中だ。

「え~と、三番目の扉を三回ノックして『花子さん、遊びましょ』って言えばいいんだよね?」

 指さし確認をしながら那須先輩が端から1、2、3と数えて三番目の扉の前で立ち止まる。
 もちろん、扉は閉まっている。

「ここの扉を三回ノックするわけね……」

『コン、コン、コン』

 那須先輩が規則正しいリズムでトイレの扉を三回ノックする。
 その後一度、那須先輩は僕達を見るために振り返った。
 「皆、行くよ?」という合図らしく、僕達は少し緊張した面持ちで黙って頷く。

「花子さん、遊びましょ」

 那須先輩がそう言った後、僕達は扉の向こうから返事がないかと耳を澄ませる。

『……』

 いくらかの間、聞き漏らさないように耳を澄まし続けていたけど、一向に返事がする気配はなく扉の向こうはシーンとしていた。

「……もういいだろ。さっさと帰るぞ」

 静寂を破ったマノ君は回れ右をして、女子トイレから出て行こうとする。

「ちょっと待って! まだ、諦めるには早いよ」

 そこに素早く那須先輩が待ったをかける。

「こんなこともあろうかと、とっておきの助っ人を用意しているんだからっ!」

「助っ人? こんな時に役に立つ助っ人ってなんだよ……」

 マノ君は胡散臭そうな顔をする。

「それは、来るまでのお楽しみ! ちょっと、待ってね。今、電話してこっちに来てもらうようにお願いするから」

 那須先輩は懐中電灯代わりにライトをつけて持っていたスマホを操作して連絡を取る。

「すぐ、こっちに来てくれるって」

 短いやり取りを終えた那須先輩が電話を切って僕達に伝える。
 そして那須先輩の言う通り、ものの数分で助っ人と思われるガタイのいい強面こわおもてな二人組の中年男性がやって来た。

「えっと、那須先輩? この人達が助っ人なんですか?」

 助っ人とはどんな人だろうと考えていた美結さんが、中年のおじさん達が来たことに面食らっていた。
 それは美結さんだけでなく、その場にいた那須先輩以外の全員がそうだった。

「そうだよ! こちら、大阪府警組織犯罪対策本部の金剛寺こんごうじさんと鬼塚おにづかさん。私達だと花子さん出て来てくれないこともあるかと思って、手塚課長に助っ人として来てもらえるようにお願いしていたんだ」

「そ、そうなんですか……」

 美結さんが気のない返事をする。
 正直、那須先輩の説明を聞いてもちんぷんかんぷんだ。
 なんで大阪の刑事さんを助っ人して呼んだのか全くわからない。
 美結さんと市川さんも、「?」マークを頭の上に浮かべている。

「うちの課長はバカなのか? いや、それは那須先輩もか……クソッ、頭が痛くなりそうだ」

 マノ君だけは何かを察したらしく、片手で頭を押さえていた。

「……糞?」

 市川さんがマノ君の発言に反応してギロリと睨む。

「お、おい待て、市川。字が違う、字が! 俺が言ったのはカタカナの方だ。市川が言ったのは漢字の方だろ?」

「……」

「無言で俺をその蔑んだ目で見てくるの止めてくれませんかね、市川さん?」

 心をグサグサとエグってくるような目をした市川さんはどんどんとマノ君に迫って行く。

「それじゃ、お二人ともお願いします」

 市川さんに追い詰められているマノ君を気にも留めないで、那須先輩がペコリと頭を下げる。
 それを見てガタイのいい強面な二人は、花子さんがいるであろう扉の前に立つ。
 一体、何をするのだろうと思って見ていると――

『コン、コン、コン』

 何のことはない、那須先輩の時と同じように扉を三回ノックする。

「花子さん、遊びましょ」

 金剛寺さんの野太い声が女子トイレに響く。
 強面のおじさんがこんなセリフを吐いている姿はある意味シュールだ。
 結局、助っ人である金剛寺さんが呼んでも花子さんの返事が聞こえることはなく、女子トイレに静かな時間が流れるだけだった。
 そう思って僕達が諦めかけた時――

『ドォッン!』

 金剛寺さんがいきなり腕を大きく振りかぶってとんでもない強さで扉を叩いた。
 叩いた衝撃の強さで、扉はガタガタとしばらくの間揺れていた。
 あまりの驚きの光景に目を丸くしていると鬼塚さんも動きを見せる。

「はよ開げぇんがぁい!」

 ドスの効いた怒声が狭い女子トイレ内に響き渡る。

 『ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!』

 『ガタッ! ガタッ! ガタッ! ガタッ!』

 叩く力は先ほどよりは強くはないが、それでも強く拳で連続して叩く姿には迫力がある。

「はよ開げぇんがぁい! ゴォラァ!」

『ドォッン! ドォッン! ドォッン!』

「はよ開げんがぁッ!」

『バァッン! バァッン! バァッン!』

「出てごぉい! ゴォラァ!」

 深夜の学校の女子トイレで強面の中年男性二人が怒声をあげて扉を力任せに叩いている姿は、花子さんや幽霊うんぬんよりも普通に怖かった。

「ま、マノ君……あの人達は一体……何者なの?」

「織犯罪対策本部――指定暴力団……ようはヤクザや外国人などによる組織犯罪を取り締まる専門部署だ。『マル暴』っていう言い方もされている。どちらにしろ、幽霊とかのオカルトに関してはこれっぽっちも関係ない」

「じゃ、じゃあ、なんでこの人達が助っ人に?」

「それはこっちが聞きたいぐらいだ……」

 マノ君は扉を叩き続けている金剛寺さん達から目をそらした。
 美結さんと市川さんは完全にドン引きして見ている。
 那須先輩は……期待の眼差しで二人を熱く見守っている。

「はよ開げんがぁい! ゴォラァ!」

「……ぇ、えっ何? ぁ……あの……」

 あれ?
 今、女の子の声が聞こえたような?
 でも、那須先輩達は誰も喋ってない。
 僕の聞き間違いかな?

「はよ開げぇいッ!」

「……ちょっ、ちょっと待って下さい……あ、開けますから……」

 いや、聞き間違いじゃない。
 確かに、女の子の声が聞こえる!
 それも、扉の向こうから!

「やかましいッ! はよ開げぇろォッ!」

 そう言って金剛寺さんがまた扉を叩こうとする前に、扉がゆっくりと開いた。
 開いた扉から顔を覗かせたのは、目に涙をいっぱい溜めて赤い吊りスカートを履いたおかっぱ頭の女の子――正真正銘、トイレの花子さんだ。

「誰や、お前?」

 いや、花子さんです。

「こんな時間に何しとんじゃ、われぇ!」

「……す、じゅいましぇ~ん!」

 花子さんの涙腺は崩壊して、たちまちのうちに泣きじゃくりだした。
 それはもう、トイレの花子さんとか関係なく、怖い人に怒られて泣いている幼い子供でしかなかった。

「きゃ~~~! 花子さんだぁ~! 本物だぁ~!」

 トイレから現れた花子さんを見て、那須先輩が飛んで抱きつきに行った。

「こんにちは、花子さん! あ、こんばんは、か。えっと~、花子さんって名前……じゃなくて、苗字は何て言うの? え? 山田やまだ? 山田花子やまだはなこさん? へぇ~、ザ・テンプレみたいな名前なんだね。書類の書き方の例で絶対書いてある名前だよっ!」

 一切怖がりもせずに、那須先輩は花子さんに会えてとんでもなく喜んでいる。
 一部、ディスっているように聞こえるところもあるけど、本人に悪気は無いのだろう。
 花子さんも気にはしていないようだ。
 それどころか那須先輩に大歓迎されたことに驚きすぎて、涙が止まって呆然としている。

「トイレの花子さんの苗字って、山田って言うんだ……」

 知らなかった……
 これはちょっと、明日から誰かに自慢したくなる豆知識だな。
 なんだか僕は今、もの凄い光景を見ている気分だ。
 それにしも――

「花子さんって本当にいるんだ……」

 今更ながらに僕は思った。

『ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ』

 なぜか急にスマホのアラーム音が鳴ったので、僕は慌ててスマホを取り出す。

「え、あれ?」

 取り出したスマホの画面は真っ暗で、アラーム音など鳴ってはいなかった。
 他の誰かのスマホから鳴っていると思って皆を見渡してみたけど、誰もスマホをいじっている気配は無かった。
 それどころか、アラームの音自体が聞こえていないみたいだ。

「……僕しか聞こえてない?」

 そうなると……もしかして、これって――

 --------------------------

 バッと僕は勢いよく上体を起こす。
 ついさっきまで僕の体の上に掛かっていたであろう布団がズレ落ちる。
 そう、僕はベットの上にいた。

「ゆ、夢かぁ~……」

 僕はベットの横で目覚まし時計の代わりに鳴っているスマホのアラームを止める。

「なんか、変な夢だったなぁ~」

 妙に生々しい夢だったせいか、僕はどっと疲れを感じた。

「はっ、疲れてる場合じゃないっ! 早く出る準備をしないとっ!」

 今日は、六課で捜査会議がある。
 僕は急いでベットから起きて、出かける準備を始めた。

 --------------------------

「おほようございます」

『おはよー』

 僕が六課に入って挨拶をすると、先に来ていた皆から挨拶を返される。

「おー、伊瀬君ちょうど良かった。会議の前に、紹介したい人がいるんだ」

 僕が自分のデスクに荷物を置くや否や、手塚課長が駆け寄って来た。

「紹介したい人ですか?」

「そうそう。おーい、二人とも、こっちこっち」

 手塚課長が手をひらひらとして、六課の奥の方にいた二人組に向かって呼びかける。
 僕達に背中を向けていた二人が振り向いて、こちらに向かって来たその顔を見て僕はぎょっとした。

「こちら、大阪府警組織犯罪対策本部の金剛寺さんと鬼塚さん。今回の事件の特性上、彼らの力が必要でね。大阪府警の方に応援要請をしていたんだ。二人とも忙しいだろうに、ごめんねぇ」

「いえ、手塚さんの頼みですから」

「若い頃、ずいぶんと手塚さんには世話になったもんです。ちっとは恩返しぐらいさせて下さい」

 そこには、夢で見たはずのガタイのいい強面の二人がいた。
 驚きのあまり、顔が引きつるのが自分でもよくわかる。
 あと、こんな人達にしたわれている手塚課長って何者なんだろう。

「……どっ、どうして、そんな方達が……ここに?」

「突発性脳死体が発見されたんだが、どうもそいつが暴力団の組員だったらしい。これがきっかけで組同士の抗争に繋がる可能性もあるため、助っ人として手塚課長に呼ばれたってことだろうよ。ヤクザ相手に高校生だけで捜査に向かわせるわけにもいかないしな」

 近くにいたマノ君が説明してくれた。
 そんな説明も他所に、僕はめまいがしてくる気分だった。
 夢で見た人達が、現実に現れるなんて……
 いや、むしろこっちが夢なんじゃないだろうか。
 それはないか……これだけしっかりめまいを感じているんだから。
 つまり、これは――

「……まっ……ま、正夢だぁ~~~!」

 僕の情けない声が六課にこだました。
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