マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

文字の大きさ
36 / 169

Layer36 誠心誠意

しおりを挟む
 俺は麦茶の入ったコップを姫石の手元にあるコースターの上に置いた。

「ありがとう」

 短くお礼を言った姫石はすぐに麦茶に口をつけた。
 あれだけ文句を言っていたわりにはすぐに飲むのかよ。
 ま、かなりの時間待たせたのだから喉が乾いていたからに決まってるか。

 俺も自分のコップをコースターの上に置き、姫石と面と向かって座った。

 ……

 両者に少しの沈黙がながれた。

 さて、勢いで誘ってしまったせいか何を話せば良いのかわからない。
 このまま姫石と二人でじっと見つめ合っているわけにもいかない。
 そういえば入れ替わってからこうやって面と向かい合うのは初めてかもしれないな。
 自分の容姿をこうも客観的に見ている状況に違和感を覚えつつも、入れ替わったことへの実感がまた確実となった。

「この沈黙いつまで続けるつもり?」

 我慢できなくなったのか姫石が聞いてきた。

「続けたいわけじゃない。何を話そうか考えていたら、自分の容姿を客観的に見れる状況って面白いなと思ってな」

「言われてみたら確かにそうね」

 姫石もまじまじと俺すなわち姫石の容姿を見る。

「自分で言うのもあれだけど、あたしってかなり綺麗な顔してるのね。自分の顔なんて鏡で見れるのに、玉宮の体で見るのとでは感覚が全然違うのね」

 姫石がナルシストなのではなく、客観的に見て本当に姫石は綺麗な顔をしている。

「そうだな、自分でそれを言える奴はなかなかのメンタルの持ち主だと言いたいところだが、姫石の場合はそれが事実だからたちが悪い」

「そんな回りくどい言い方しないで素直に可愛いとか言えないの?」

「お前はどちらかというと可愛いよりも綺麗だろ」

「え!? 玉宮はあたしのことそういう風に思ってるの?」

 少し顔を赤らめながら嬉しそうに姫石は言った。
 俺の顔で顔を赤らめるのは気持ち悪いからやめてくれ。
 あと、嬉しそうにするな。

「まぁな。欲を言えば胸もあっ……」

 ッ!
 しまった!
 俺はもう二度と姫石の胸のことをイジるのはやめよう誓ったじゃないか!
 あの地平線がどこまでも続くような大地を見て、自分の胸に誓ったはずだろう!
 これ以上は姫石に残酷な思いをさせるわけにはいかない。

「ねぇ、胸がなんですって?」

 姫石が脊髄が凍りつくような目で俺に尋問……質問してきた。
 だが、ここでなあなあに済ませるわけには行かない。
 俺は姫石に贖罪を果たさなければならない。

「姫石」

 ビクッ!

 俺が姫石に向き直って真面目な声で呼びかけたことに姫石はよほど驚いたらしい。

「な、何? 急にあらたまって?」

「姫石、俺は謝らなければならない。姫石のその……胸のことについて。今回だけじゃない。俺は今までも何度かお前の胸のことでイジってきた。けど、昨日思ったんだ。あの地平線がどこまでも続くような大地を見て、俺は今まで姫石に対してなんて残酷なことをしていたのだろうかと。だから、ちゃんと言わせてくれ。姫石、今まで本当にすまなかった」

 姫石はうんともすんとも言わなかった。
 ここまで真剣に謝られるとは夢にも思っていなかったようだ。
 いつもなら適当に謝ってたからな。
 夢にも思わなくて当然か。

「そ、そ、そこまで謝らなくてもいいから! あたしと玉宮の仲なんだからこんな軽口で残酷だなんて思わなくていいから! あたしもそんなに重く受け止めてないから。今まで通りあたしのシンデレラバストをイジっても大丈夫だから。逆にそんな風にされると深刻な感じがしてあたしのメンタルにくるものがあるからやめて。男なんてみんな大きい方が良いんでしょ? 小さいどころか無いあたしには価値なんて無いっていうジレンマに陥りそうだから」

 姫石は動揺しながらも力説してきた。
 これは許されたのだろうか?
 まぁ、許されてはいるのだろう。
 ただ誠心誠意謝ったのは逆効果だったらしい。

「そうか? 姫石がそう言うなら今まで通りの対応にするぞ?」

「うん、それで大丈夫。あんまり度が過ぎるのは嫌だけど。でも、玉宮はそういうことはしないからその心配はいらないか」

「わかった。なら今まで通りということで」

「本当いきなりあんな風に謝るからびっくりしちゃったよ。本気で謝られるとこっちも本気で受け止めなきゃいけなくなるからやめてよね。地平線がどこまでも続くようななんていう変な比喩表現なんか使ったりし……て……?」

 姫石の語尾がどんどんと尻すぼみしていった。
 おっと。
 俺の誠心誠意の謝罪の中にとんでもない失言があったことに姫石が気づいてしまったか。
 これは……終わったな……

「ねぇ? どうして地平線がどこまでも続いてるようなという比喩表現ができたの? 実物を見てなきゃこんな表現は出てこないわよね?」

 冷たい空気をまとった姫石が聞いてきた。

「い、いやだなぁ~想像に決まってるだろ。俺って結構文学的才能があるんだよ」

「あら、そう。なら、玉宮は今すぐ小説家になれるわね。その豊かな想像力と表現力を存分に発揮しなさい。ところで、昨日はどうやってお風呂に入ったのかしら?」

 凍りつくような空気をまとった姫石が聞いてきた。

「そ、そ、それはもちろん姫石に言われた通り耳栓と目隠しして体にも触らないで入ったぞ」

「それだとおかしいわね。あたしの記憶だと玉宮はそんなことできないって言ってたはずだけれど? それにさっきの謝罪。もしかしてあれはお風呂であたしの胸を体を見てしまった罪悪感からしたものなんじゃないかしら?」

 絶対零度の空気をまとった姫石が聞いてきた。

「……本当にすみませんでした!」

 失言という不純物の無い純粋な誠心誠意の謝罪を俺は姫石にした。

「謝るってことは、その……つまりは……見たってこと?」

「……はい、見ました」

 俺は言葉を噛みしめるように言った。
 取り調べで犯人が自供する時ってこんな感じなのか。

「ଘ♡ଓ*:゜+。.໒꒱°*。⋈。♡:* :゜+。ଘ☆:゜+。⋈。」

 俺の自供を聞いた姫石は錯乱状態となった。
 こんな文字化けみたいな声を聞いたの人生で二度目だぞ。

 ちなみにこの後、姫石を落ち着かせるのに10分はかかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...