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Tier38 閉講
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「難しい質問だったね。トロッコ問題については誰も結論を出すことは出来ていないから、どちらの判断も正しいかもしれないし間違っているかもしれない。しかも、実際にトロッコ問題が起きたらもっと難しくなるよ。5人は信号守っていなかったかもしれないし、1人は余命僅かの病人かもしれない。はたまた、ハンドルを切ることで自動運転車に乗っていた人が犠牲になってしまうかもしれない。それでも自動運転車は、こういった状況に陥った時にハンドルを切るべきかどうかを判断しなければならない。そして判断するためにはあらかじめ自動運転車にその判断基準をインプットしておかなければいけない。要するにトロッコ問題の結論を私達は出さなければならないということだね」
この結論が出ないような問題に結論を出さなければいけない。
そんなこと本当に僕達に出来るのかな。
「完全自動運転化になるまでに、その結論を俺達は出せるのか?」
「そうだなぁ、結論を無理やり出す……作ることは出来ると思うよ。自動運転車では人間よりも優秀なセンサーが付いているし、ヒューマンエラーも起こらないからトロッコ問題が起きることはない。トロッコ問題は手動運転時代の遺産に過ぎないという意見もあるらしいしね。だけど、それはトロッコ問題の根本的解決にはならない。とどのつまり、君達には……いや、人間にすら結論を出すことは出来ない」
「自動運転に関わっている人がそんなこと言っていいのかよ。出せなくても出すしかないだろ、結論ってやつをよ」
男の人の後ろ向きな物言いにマノ君はツッコんだ。
「それもそうだよね。君の言う通りだ。私達が結論を出すしかないよね。ここ最近、いろいろと行き詰っていてね。つい、後ろ向きになってしまっていたみたいだ。君達と話したおかげで、また前向きに頑張っていけそうだだよ。ありがとう」
男の人は少しだけ晴れ晴れとした顔で言った。
車の完全自動運転化を実現するためにたくさんの苦労をしてきたんだと思う。
そんな男の人を見て、僕は心から頑張って欲しいと思った。
「あぁ~でも、自動運転車が事故を起こした時の責任が自動車メーカーにあるのか、あるいは自動運転を可能にするソフトウェア提供側にあるのかといった法整備の問題もあるんだよな~」
少しだけ晴れ晴れとした顔が一気に曇り顔をなってしまった。
僕は改めて、体を壊さない程度に頑張って欲しいと思った。
「さて、一通り話終えたことだから私はお暇しようかな。そろそろ次のモノレールも来るみたいだしね」
すると、ちょうど次のモノレールのアナウンスがホームに流れた。
「こんな与太話に付きあってくれてありがとうね」
「いえいえ、とても勉強になりました」
「あぁ、想像以上に興味深い内容だった」
「難しい話が苦手なアタシでも割りと面白かったです」
「自動運転の開発、頑張ってください」
僕達は各々、自動運転について丁寧に説明してくれた男の人にお礼をした。
「そんな風に言ってもらえて良かったよ。私も君達と話したことで励まされたよ。本当にありがとう」
男の人は僕達を見渡しながら言ったが、その視線はすぐに別のところへと向かっていった。
視線の先にはホームの地面に四つん這いになっている男の人とその男の人を介抱するように背中をさする女の人がいた。
「ちょっと大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないっス。めっちゃ酔ったっス。っていうか、何でそんなに大丈夫そうなんスか? 酔ってないんスか?」
「そんなことないですよ。酔ってはいますよ。ただ、そこまでではないというか……」
「自分みたいにならないのって相当っスよ。あの視界がグワーッてなる感覚を体験しているのに、何で自分と同じように成らないんスか!?」
「それは単純に三半規管が弱いだけな気もしますけど……」
そんな会話が聞こえてきた。
たぶん、四つん這いになっている男の人はお酒を飲み過ぎて酔い潰れてしまっているのだろう。
こんな時間から酔い潰れているなんて、何かお酒を飲まないとやっていられないようなショックなことでもあったのだろうか。
それにお酒に酔いやすいのと三半規管が弱いのはあまり関係がない気が――
「おい、伊瀬! 何やってるんだ。乗り遅れるぞ」
マノ君の声にハッとして顔を上げると、ホームにはモノレールが到着していて僕以外の皆は既に乗り込んでいた。
「あ、ごめん」
僕は乗り遅れないように慌てて乗り込んだ。
「では皆さん、またどこかで」
ドアが閉まる直前、男の人は僕達に別れを告げた。
僕達が軽く会釈をするとモノレールはゆっくりと動き出した。
この結論が出ないような問題に結論を出さなければいけない。
そんなこと本当に僕達に出来るのかな。
「完全自動運転化になるまでに、その結論を俺達は出せるのか?」
「そうだなぁ、結論を無理やり出す……作ることは出来ると思うよ。自動運転車では人間よりも優秀なセンサーが付いているし、ヒューマンエラーも起こらないからトロッコ問題が起きることはない。トロッコ問題は手動運転時代の遺産に過ぎないという意見もあるらしいしね。だけど、それはトロッコ問題の根本的解決にはならない。とどのつまり、君達には……いや、人間にすら結論を出すことは出来ない」
「自動運転に関わっている人がそんなこと言っていいのかよ。出せなくても出すしかないだろ、結論ってやつをよ」
男の人の後ろ向きな物言いにマノ君はツッコんだ。
「それもそうだよね。君の言う通りだ。私達が結論を出すしかないよね。ここ最近、いろいろと行き詰っていてね。つい、後ろ向きになってしまっていたみたいだ。君達と話したおかげで、また前向きに頑張っていけそうだだよ。ありがとう」
男の人は少しだけ晴れ晴れとした顔で言った。
車の完全自動運転化を実現するためにたくさんの苦労をしてきたんだと思う。
そんな男の人を見て、僕は心から頑張って欲しいと思った。
「あぁ~でも、自動運転車が事故を起こした時の責任が自動車メーカーにあるのか、あるいは自動運転を可能にするソフトウェア提供側にあるのかといった法整備の問題もあるんだよな~」
少しだけ晴れ晴れとした顔が一気に曇り顔をなってしまった。
僕は改めて、体を壊さない程度に頑張って欲しいと思った。
「さて、一通り話終えたことだから私はお暇しようかな。そろそろ次のモノレールも来るみたいだしね」
すると、ちょうど次のモノレールのアナウンスがホームに流れた。
「こんな与太話に付きあってくれてありがとうね」
「いえいえ、とても勉強になりました」
「あぁ、想像以上に興味深い内容だった」
「難しい話が苦手なアタシでも割りと面白かったです」
「自動運転の開発、頑張ってください」
僕達は各々、自動運転について丁寧に説明してくれた男の人にお礼をした。
「そんな風に言ってもらえて良かったよ。私も君達と話したことで励まされたよ。本当にありがとう」
男の人は僕達を見渡しながら言ったが、その視線はすぐに別のところへと向かっていった。
視線の先にはホームの地面に四つん這いになっている男の人とその男の人を介抱するように背中をさする女の人がいた。
「ちょっと大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないっス。めっちゃ酔ったっス。っていうか、何でそんなに大丈夫そうなんスか? 酔ってないんスか?」
「そんなことないですよ。酔ってはいますよ。ただ、そこまでではないというか……」
「自分みたいにならないのって相当っスよ。あの視界がグワーッてなる感覚を体験しているのに、何で自分と同じように成らないんスか!?」
「それは単純に三半規管が弱いだけな気もしますけど……」
そんな会話が聞こえてきた。
たぶん、四つん這いになっている男の人はお酒を飲み過ぎて酔い潰れてしまっているのだろう。
こんな時間から酔い潰れているなんて、何かお酒を飲まないとやっていられないようなショックなことでもあったのだろうか。
それにお酒に酔いやすいのと三半規管が弱いのはあまり関係がない気が――
「おい、伊瀬! 何やってるんだ。乗り遅れるぞ」
マノ君の声にハッとして顔を上げると、ホームにはモノレールが到着していて僕以外の皆は既に乗り込んでいた。
「あ、ごめん」
僕は乗り遅れないように慌てて乗り込んだ。
「では皆さん、またどこかで」
ドアが閉まる直前、男の人は僕達に別れを告げた。
僕達が軽く会釈をするとモノレールはゆっくりと動き出した。
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