マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

文字の大きさ
128 / 170

Tier73 待ち時間

しおりを挟む
「は? 朝まで?」

 間の抜けた声でマノ君が言う。
 そんなマノ君の声を聞いて那須先輩はきょとんとする。
 何を驚いているのか全くといって分かっていないようだ。

「……朝って言うのは、まさかとは思うが今日の朝ってことでいいんだよな?」

「え? うん、もちろん」

 那須先輩は至極当然、当然至極のことのように言う。
 それを聞いてマノ君は目頭を強く押さえてため息を漏らす。

「何をどうしたら、そんなことになるんです?」

「どうしたらって……ただ、皆を待っていただけだよ?」

「待つにしても限度ってものがあるでしょう。待ち合わせ場所に待ち人が一時間でも待って来なかったら連絡なりして普通は確認取るもんじゃないんですか? それで確認が取れなきゃ、そのまま帰るってことになりません? それでだけ待たされたら、待ちぼうけくらったって気付きますよね?」

 何でこんなことを説明しなきゃいけないんだとマノ君は悪態をつく。

「あ~そう言われてみれば……たしかに?」

「そこで疑問形になる余地がどこにある? どう考えても次の日の朝になるまで待つという選択だけはあり得ねぇだろ!」

 那須先輩の天然ぶりに我慢の限界が来たのかマノ君の怒りが爆発する。

「そんな言わなくても……待ってたら、いつの間にか朝になってることだってあるよねぇ?」

 マノ君を除く、僕達に那須先輩は同意を求めてくる。

「……いや、ないと思いますけど……」

「さすがに朝まではちょっと……」

「一時間も待ってたら良い方ですよ……」

 誰一人、那須先輩に同意することはなかった。
 まぁ、これこそ至極当然、当然至極のことなのだけど……

「そ、そんなぁ……」

 やっと、朝まで待ち続けることの異常性に那須先輩も実感を持ち始める。

「前々から思ってましたけど、今回の件で改めて思いました。那須先輩はシンプルに変人だって。いい意味とかじゃなくて」

「そこはいい意味でって言おうよ!」

 オブラートに包むことなくストレートに言ったマノ君に対して那須先輩は抗議する。

「常人なら朝まで待つなんて常軌をいっした行動は取れませんよ。究極の変人、那須先輩だから出来たことです。さすがと言わざるを得ません」

 皮肉をたっぷり込めた拍手を那須先輩に送る。

「それ褒めてないよね!?」

「いやだなぁ~褒めてますよ。ベタ褒めですよ~」

 そう言うマノ君の態度は明らかに褒めているとは程遠いものだった。

「も~う、分かったよ……今後は朝まで待つようなことはしないようにするよ。せめて、夜までには気付けるように頑張るね」

「話聞いてました? 一時間でも待たされた時点で気付けって話なんですよ。夜に気付いたところで変人であることに変わりはありませんよ」

「え~じゃあ、頑張って夕方までには気付けるようにするよ」

「だから……いえ、もういいです」

 反論する気力をなくしたマノ君はこれ以上言っても無駄だと悟って諦める。

「けど、よく朝まで六課で待てましたよね。どうやって寝たんですか? それとも寝れてないとか?」

 美結さんが心配そうに聞く。
 朝まで待つ行動を取ってしまうことの方が寝れていないことよりもよっぽど心配なんだけどな……

「そういやそうだな。うん? ってことは風呂にも入ってないってことか?」

 マノ君はわざとらしく鼻をつまんで、那須先輩と距離を取る。

「待って! 私、臭くないからっ! ちゃんとシャワー浴びてるからっ!」

 変人と言われることよりも風呂に入っていないと思われることの方が嫌なのか、那須先輩は慌てて強く否定する。

「仮眠室のベットでも寝れたし、何も問題はないからね!」

「仮眠室?」

「あ~たしかにそんなのありましたね。シャワーとかも付いてるんでしたっけ? あんまり使う機会がないから忘れてましたよ」

 マノ君は忘れていたと言っているけど、僕はなんとなく嘘な気がする。
 そういうことはマノ君はしっかり覚えているはずだ。
 それなのに忘れている振りをしたのは那須先輩をからかうためだろう。

「そうだよ! だから、お風呂入ってないとか変なこと言わないでよ!」

 那須先輩は遠くでこちらの会話に入らずにデスクで作業をしている丈人先輩をチラリと見て言った。

「はいはい、分かりましたよ」

 マノ君はニヤニヤと面白そうに笑う。
 これは完全な確信犯だな。

「とにかく、朝のうちにどうにか自分で気付けて良かったですね。会議の時間にも間に合いましたし」

 その会議の時間も近づいているので、市川さんが話の総括に入ろうとする。

「え? 私、自分では気付けてないよ」

「ふぇ?」

 那須先輩の思いがけない言葉に市川さんの口から奇妙な音が出る。
 とは言え、僕達もさらなる那須先輩の爆弾発言に開いた口が塞がらない。

「えっと……じゃあ、誰が気付いたんですか?」

「それは――」

「俺だよ」

 那須先輩が言い終わる前に後ろから声がした。
 そして、その声の主は丈人先輩だった。

「昨日来るはずだった波瑠見ちゃんが来ていなかったことに気付いたから、嫌な予感がして朝一で連絡したんだ。で、予感は的中。立川で会議することも知らなかったみたいだしね」

「つまり、丈人先輩からの連絡がなければ那須先輩は待ちぼうけをくらっていることに気付いていなかったと……それどころか、今日も丸一日俺達が来るのをずっと待っていたかもしれないというわけか……」

「うん、そういうことになるね!」

 那須先輩が自信満々に答える。
 その自信はどこから湧いてくるのだろう。

「さっさと会議を始めようぜ。これ以上話していると、こっちまで頭がおかしくなりそうだ」

 目頭をさらに強く押さえて、心もとない足取りでマノ君は自分のデスクに戻って行く。
 言い方に差はあれど、それは僕達も同感だった。
 マノ君の後を追うように僕達も自分のデスクへと戻る。

「なんか皆、さっきよりも元気なくなってない? どうしたの?」

 那須先輩が的外れなことを言う声が後ろからする。

「それは自分の胸に聞いてみたら分かるんじゃないかな?」

「自分の胸に?」

 諭すように丈人先輩は助言したようだけど、その効果は無さそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...