また会う二人

小池竜太

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また会う二人

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「おまたせしました。こちら明太子のクリームスパゲッティでございます」
 そう言い、店員が来た。僕は待っていた明太子クリームスパゲッティをじっくりと見る。明太子は天井の照明を受けて宝石のように輝いている。
ここは、近所にあるとあるレストランだ。特に高級なレストランではない。一般の普通の人々がよく日常的に使い、足繫く通うようなレストランだ。天井は高くてシーリングファンが回っている。人は多かった。なにしろ日曜の夜だ。僕はカナと一緒にこのレストランによく来る。カナは小鳥の様に可愛い女の子だ。彼女は今夜、灰色のカットソーを着ていた。カナは僕と会ってくれる。僕なんかと。ろくでなしと・・・・そんなことを想っていた。僕の料理は来たがカナの料理はまだ来ない。
「先に食べていていいよ。私の分もそのうちにやってくるから」
「いいよ。待っておくよ。どうせ早く食べちゃうし。早食いだから」
「直した方がいいよ、早食い。昔からの癖なの?」
「そうだね。いつからか分からないけれど、こうなっていたんだ」
「私と付き合い始めてからずっとそうだったよね」
「そうだね」
 そう、僕がカナと付き合い始めたのは、今年の春からだ。僕とカナは、共に勤めているアルバイト先で知り合った。
 カナは十八歳だった。街を歩いていれば何人かが目を留めるくらいの可愛い子で真珠のような瞳をしていて、髪は肩にかかるほどだった。僕は十九歳でやや自分を持て余していた。女なら誰でもよかった。
 僕はカナの料理が来るのを待ち続ける。その間、たわいもない会話が続いていた。
「最近なんか面白いことあった」
僕がそう聞く。
「最近ね・・・・殺人事件があったでしょ。その現場まで行ってみたの」
「へえ」
 カナに限らず女ってやつは皆怖い。
「現場に血の跡があってね。被害者は女子高生なの。通り魔に襲われたらしくて。その現場になまなましく血の跡が付いてたの。私、死んだ子には悪いけれどなんか興奮しちゃった」
「良く言うよ。いつか僕を刺すんじゃないか」
「まさか・・・・・・ところで、くまの話を知っている?」
「くま?」
「うん。くまって世界に八種類しかいないんだって。犬とか猫とか何百種類もいるのに熊は八種類しかいないんだって。あとくまって近視なんだって」
「へえ。そうなんだ。良く知ってるね」
「うん。こないだ、職場でおしえてもらったの。翔子ちゃんから」
「そうなんだ」
 翔子というのは土井翔子と言って僕らと同じアルバイト先に勤めている一人の女の子だ。彼女は地味目でいつも髪を後ろで束ねており、無類のおしゃべり好きだ。僕は彼女がやや苦手だった。
「遅いね。私の分のスパゲッティ」
「忘れてるのかな」
 そう思い僕はウェイターに尋ねてみた。ウエイターには慌てた様子もない。プロの顔だ。もう勤めて長いんだろうな。少々お待ち下さいと言われその後、今、やっているところなのであと少しですとの返事があった。それから三分ほどしてやっとカナの分のスパゲッティが来た。シラスとサーモンの和風スパゲッティだ。それから沈黙が流れた。二人とももくもくと食べる。カナはフォークとスプーンを使って食べている。僕はフォークだけだ。しばらくしてカナが上機嫌そうに。おいいしいね。とだけ言った。僕もうん、おいしいとだけ返す。僕の頭の中は別のことでいっぱいだった。スパゲティのことなんて頭にない。カナのことだ。正確に言うならカナの体のことだ。彼女の体。あの少し控えめな胸。僕と彼女は一か月ほどセックスをしていない。カナが決めたからだ。最後のセックスの後、カナは僕に言った。「しばらくセックスしたくない。一か月すればするから」 
 理由は教えてくれなかった。僕は色々と考えた。なんでだろう。僕が早漏だからか。それとも強引にやり過ぎたから?他に男ができたからか。でもそれだったら僕と別れているだろう。どうしてか。それが僕にはどうしてもわからなかった。
「ねえ、早く行こうよ」そう僕は彼女を促した。
「あなたって・・・・・私の中身はどうでもいいの?」
 そうカナは言う。
「そんなことないよ。中身だって君は素敵だよ」
「外見は?」
「最高に可愛いよ。誰だって君が欲しい。トム・ハンクスでもだ」
「ブルース・ウイリスでも?」
「当然」
「琉人くんはかっこいいよね。でもまだわかいから。まだ何にもわかってないよ。よくワンピースでもあるでしょ。ルフィが『お前は何にもわかっちゃいない』ってセリフ」
「うん。あるね」
「私あのセリフが好きでね。いつかいいたいの。男とかに『あんたは何にも分かっちゃいない』ってそうしてばしってビンタして喫茶店とかでティーカップをがしゃーんって壊してね。そうして許してあげるの。私は優しいから・・・・琉人くんも許してあげる。ここのパスタ意外と美味しいし」
「そう。僕は何を許してもらえるのかな?」
「それはね。私に会っておきながら不幸にならないこと。うん。私は寛大だから許してあげるのだ」
「そう・・・・」
「オナニーしてる?」
「いやしてない」
「私を想ってしてるんじゃないの?オナニーはした方がいいよ。ちんこ感じるようになるし」
「そうなんだ」
「うん。してない奴は感じないの。私は知ってるよ」
「前は結構オナニーしてたよ」
「そうね。だから琉人は感じるよ。だからもう行こう」
「うん。行こうか」
 そう言って僕らは店を出た。新宿は光に満ちていた。ネオンサイン、赤い歌舞伎町のライト、大勢のたむろする人々。彼らは皆、夜を満喫していた。携帯を操作しながら歩く女の子達。カップル連れ。時々いる子供を連れた外交人。その中でどれほどの人々が幸福なのだろう。どれほどの人々が、人生に満足しているのだろう。きっと大勢の人々は不幸に違いない。いつだって時代はよくならない。不況とかではなく世が荒れているのだ。みんなはそんなことには気づかない。きっと生涯の大半は仕事して、その後リタイアして、楽しくない老後を送るんだろうな。そんなことがふと頭をよぎった。僕らしくない。そんなことよりこの後だ。まずはホテルを探さないと。調べてみたら近くに一万円くらいのホテルがいくつかある。その中のホテルLに向かうことにする。そこにいくまで僕はカナの体のことを想った。あのカナの女性自身や鳥のような胸や唇を。そう思うと顔まで熱が登ってくるかのようだった。僕は彼女の体に触る僕の指の感触を想い、初めて彼女とセックスした時を想い、その後の彼女の人生を想った。僕の後、彼女はどんな男達に出会うだろう。トム・ハンクスのような男に出会うだろうか?それともそこそこの男か。三十年後、僕らはどうしているだろう。もうとうに別れているに違いない。川の流れは所によって違うが水は常に一定に流れている。草は春に芽吹き夏に萌え冬になると枯れる。そんな自然の懐の深さを僕は思った。
 さてホテルだ。僕らはホテルに入り、受付を済ませ、部屋に入った。部屋は落ち着く雰囲気の照明と内装でラブホテルにしては普通の内装だった。ちいさめのシャンデリアがあり、黒と灰色の縞模様の毛布と白いベット、あとはソファ、クッション。
「結構いい所だね。興奮しそう。丁寧にしてね」
 僕は無言だった。何も、カナの体のこと以外考えられない。僕はまるで戦場にいる兵士のようだった。
「シャワー浴びる?」
かろうじてそれだけ口にした。彼女は無言で応じる。夜はまだ始まったばかりだ。たっぷりと楽しみたい。しばらくカナと過ごしたい。あと二、三年は。その後は別れてまた別の女がいい。カナよりいい女は僕のスペックでは難しいかもしれないが。楽しい生活をしたい。いずれ結婚もするだろうか。いや、僕は結婚しない。永久にしないだろう。きっと。僕にはそんな物は似合わない。きままに独身を続ける方がいいな。でも子供ってかわいいかな。そんなことを考えていると、カナがシャワーから上がってきた。僕も浴びる。待ちきれずすぐに僕は浴室を出た。部屋に行くとカナは全裸で待っている。その裸をつぶさに見る。小ぶりな乳房は小動物みたいに可愛い。伏し目がちの目は、この後の行為をまっているようかのだった。いいとも。やってやろう。僕はカナにキスすると、すぐにカナを正常位にし、挿入した。鋭い感覚が僕自身に走る。そのまま、僕はカナを犯した。彼女も喘ぎ声を上げながら、快楽の壺に落ち込む。一息事にカナを突く。カナはあえぎ声を上げる。しばらくして僕はコンドームごしにカナに射精をした。しばらく心地よい満足感が僕らを包む。天国ってこんな感じなのかな。そんなことをふと思う。煙草が恋しくなってくる。僕は禁煙している。横を見るとカナは眼を伏せて何かを考えるような顔をしていた。
「こんな体位があるんだけど、やってみない?」
しばらくして僕はそう言った。どんな体位と彼女は言う。
「プレッツェル・ディップって言うんだけど君が横になって左足を僕の左足から出すんだ。やってみようよ」
 僕は結構セックスに貪欲の方だ。これから色んな体位をしてみたい。その最初にこのプレッツェル・ディップがいいと僕は思った。簡単そうだし。
「えー普段の普通のでいいよ」
「でも感じ方が違うだろうし。マンネリ解消にもいいよ」
「いいよ、そんなの。あと一回で終わりにして」
「まあまあ頑固なことを言わずに、頼むよ」
「しょうがないなあ」
 そうして僕はカナに再びキスをする。今度はねっとりとしたディープキスだ。それからキスをしながらカナの胸をもむ。さあ舞台は整った。僕はカナの体の右側を下にして膝をつくとカナの右足にまたがり、カナ自身に挿入した。気持ちいい。いつもと少し感じ方が違う。カナの反応は分からなかった。が、「これ好き!」という声がして、まんざらでもないことが分かった。それからも僕らは交わる。「蛇のような遊び」を僕らは楽しんだ。最後にカナにフェラをしてもらう。
「もっと目線をあげて」
 するとカナは恥ずかしそうにしてしてくれない。
「もっともっと目線を上げて。言うことを聞いてよ」
 そう言うとしぶしぶカナは目線を上げてくれた。
 楽しかった夜はあっという間に過ぎる。僕はカナと共にベッドに入る。そのまま夜は明けるだろう。世界中のどこかで、誰か恋人達がこうして夜を開ける。それは世界各国、古今東西、共通の大人の経験だった。ふと僕はまどろむ。カナの寝顔を見ながら。ふとカナはゆう君と寝言を言う。それを聞いて鮮烈が走った。僕の名前と違う。やっぱり・・・・僕は混乱する。いつ、どこで、ゆう君とやらとカナは寝たのか・・・・僕は激しい混乱に陥った。認めたくない。世界が灰色になってしまう。なぜか煙草を吸いたい。禁煙中にも関わらず・・・カナを起こすのは止めておいた。さっきさんざん楽しませてもらったお礼だ。今晩は寝かしておこう。明日になったら・・・・待っていろよ。
 苦しい夜が明ける。僕はあまり寝られなかった。カナは起きてシャワーを浴びている。暖かそうな音がしている。おそらく僕が聞く最後のカナのシャワーになるだろう。ジ・エンドだ。ビートルズのアルバムを思い出す。ビートルズもまさか僕が女と別れる時にこの歌を想起しているとは思わなかっただろう。カナがシャワーから出てくる。相変わらずの可愛さだ。こいつをゆう君とやらも抱いたんだろうな。
「おまたせ。そろそろ行こうか」
「ゆう君って誰の事だ」
 僕は短答直入にそう聞いた。
「さあ、知らないけど」
「昨日寝言で言ってたよ」
「知らない」
「だったら携帯を見せて」
「いや」
「ふざけんな」
「そうよ。浮気してたの。あんたのことも好きだけど、私は、他の男だって会いたいの。あんたはセックスのことばかり。体位がどうだの、フェラがどうだの。もっと優しくしてほしかったの」
「もうお前とは別れる。最後にフェラしろよ」
「・・・・・いや」
「言うこと聞けよ。そうじゃないと僕の気が済まないだろ!」
「別れない」
「僕が別れるって言ったら別れるんだ。最後にフェラしろ」
「・・・・・ひどいよ」
 僕はカナをベッドに引き寄せる。カナの口に性器を押し付ける。そうするとカナはいやいやそれをしゃぶった。僕はあまり感じない。それでも征服感はあった。カナの目が怒っている。それでもしょうがない。僕は言うことを聞く女が好きだ。浮気するなと言ってする女は嫌いだ。だから捨てる。このフェラも最後だ。もう別れるんだから無茶苦茶にしてやりたい。
「もう疲れた」
 三十分ほどしてカナは言う。
「もっとやれ。僕が射精するまで」
「いや!」
「僕を裏切った代償だ。最後までやれよ」
「もう帰る。でも・・・・・また会うことになるからね」
 そう言ってカナは出て行った。
「なんだよ。使えない女だなあ」
 そう僕はつぶやく。そうして僕は何かを失った。
 カナと別れてから僕は多少自暴自棄になって暮らしていたと思う。アルバイトは止めた。そうして時々、短期の仕事をした。弁当作りや工事現場のアルバイト、それから風俗の客引き。カナのありがたみが僕には身に染みて感じられた。やっぱり僕はカナが好きだったんだ。それがひしひしと感じられた。でも彼女は帰ってこない。それもそうだ。あんな別れ方をした女は帰ってこないだろう。連絡はしなかった。LINEもブロックされていた。覆水盆に返らずとあるがまさにそれだ。また桜が咲くだろう。また正月がやって来るだろう。でももう僕は一人だ。彼女はいない。けれどある晩、僕は酔って指を怪我した。ついソムリエナイフで切ってしまった。それを契機にカナのことは忘れることにした。また新しい出会いがある。僕はあちこち仕事を探して、最後は蕎麦屋で働くことにした。毎日のように蕎麦やらうどんやらかつ丼やらを作る。そんな忙しい日々を僕は迎えだした。
 蕎麦屋に行く。九時から店が開く。だから八時半には出勤だ。仕込みとかは僕はやらない。ベテランの人が居てその人がやってくれる。店内は狭く、演歌歌手の歌が響いている。オーナーが作詞したらしい。そんな大手チェーン店で僕は毎日のように働いていた。時々、他の店員と話す。大葉さんと言う40くらいの人は良く僕に親切にしてくれた。
「それはあれだよ。女ってのは浮気性だからね。きっとあんちゃんが好きでも浮気はするのさ。そもそもあいつらは性器が大好きで・・・」
「そんなもんですかね」蕎麦を打ちながら僕も答える。僕にもカナの気持ちなんて分からない。女の人が何を考えるかは分からない。
「あんちゃんは捨てるべきじゃなかったのさ。そんなにこだわるなら。また連絡すればいいじゃないの」
「もう拒否られてますから」
「連絡の手段って探せばあると思うよ。新聞に広告でも打ってみたら。カナ悪かったって」
「そんなこと出来ませんよ」
「恥ずかしいからか。私があんただったらそうしてるね。何しても、と言ってもある程度はルールもあるけど、どんなことをしてでも取り戻したいのなら、取り戻すべきなんだよ。そうしないと人生後悔する。私の方が人生長いからね。おつむも回るのさ」
「もういいんですよ。カナのことは」
「未練そうだね。そら怒った。怒った顔をしているよ」
「そんなんじゃありません。真剣にしているだけです」
「まああんたの勝手だがね」
 そう全ては僕の決断に関わっている。カナに広告を打てば見てもらえるかもしれない。でも僕にはその度胸がない。大葉さんの方がきっと正しい。でも僕は正しいことが苦手なのでいつも道に迷うのだ。いつも迷っている。そんな時に手を差し伸べてくれる人が僕には居ない。
 その日の仕事は終わった。僕は家へと帰る。いつもと変わり映えしない家だ。そんな家だが誰かが僕の家の前で立っている。まさか、いやカナじゃない。似ているが全然違う。もっとハーフっぽい顔立ちをしていて服もカナとは違う。彼女はストリート系のファッションをしていた。目が合う。僕の家のマンションの前でその子は僕を待っているかのようだった。
「あの、どちら様ですか?」
 女の子が僕を見る。
「あの黒木琉人さんですよね。私はカナさんの知り合いです。伝言を伝えに来ました。カナさんはとある男の人と結婚するそうで、もう付きまとわないでっていう伝言です」
「そうですか」
「それで代わりなんですけど」
 とその子は口を切って。
「私と遊びませんか?カナさんから琉人さんの話は聞いています。その話を聞いて私と合うかなって思って。だから伝言を伝えにきました。
「まあとりあえず中に入ってね」
 そう言って僕は彼女と中に入った。
 相変わらず変わり映えのしない僕の家だ。玄関はサンダルやスニーカーで足の踏み場もない。床も汚れている。僕はこんな可愛い子にそれを見られて恥ずかしく思った。
「おじゃまします」
「うん、いらっしゃい」
 僕の家は玄関と居間とのワンルームだ。今は散らかっている。けれど僕はもっとひどい部屋を何人も知っている。男は皆、片付けなど苦手なのだ。女のこはいそいそ入ってきた。僕は冷蔵庫からお茶を出してコップに注ぐ。
「ところで君の名前は」
「揚羽といいます。片平揚羽」
「そう。僕の名前は知っているよね。琉人。カナとはどういう繋がりなの?」そう言って僕はテーブルに頬杖をついた。
 彼女は一口、出されたお茶を飲む。少し緊張しているようだ。
「カナさんとは知り合いの紹介で知り合って・・・仲良くさせて頂きました。時々飲みに行ったりボーリングに行ったり。カナさん時々、爪を噛む癖があって・・・・そういう時って機嫌悪いですよね。その後琉人さんと別れてすごい落ち込んで・・・でも無事に結婚して今は幸せに暮らしています」
「そっか。落ち込むよ」
「そんなこと言わないで!ファイト、私が付いてます」
「ありがとう」
 そう言われ僕はこの可愛げのある揚羽が少し好きになった。
「誰かが誰かを好きだから・・・・この世界は成り立つんですよ。琉人さんはカナさんに振られても私が琉人さんをまた好きになってあげます。大丈夫。私達は上手くいきますよ」
「僕はまだ付き合うって言ってないんだけど・・・・」
「じゃあ友達から。どうですか?」
 そう言って彼女は足を組みかえた。
「うん。そうだね。でも今日は帰って」
「ええーHしないんですか?」
「うん。今日はちょっとね。もう僕もカナの時とは違うんだ。少し真面目になっているしね。だから今日はまだ・・・・LINE交換する?」
「はい!是非!」
 そうして僕は揚羽と知り合いになった。ひょんなことから知り合いになったこの子は僕にとって春の風のようだった。健気で可愛くて優しくて・・・・僕はこの子に魅了された・・・・・
 僕はよく揚羽とLINEを交換するようになった。色々優しくしてくれるし、いつも励ましてくれる。だから僕は揚羽が結構好きになっていた。「心配しないで。琉人さんが好きだから。琉人さんのことばかり考えてるよ」とか「いつも何してるの?私は手料理を連取してるよ。クックパッドで料理を調べて、創ってるの。いつか琉人さんにも手料理をふるまってあげたいな」とか健気なことを言ってくる。僕はだんだん人生に希望が持てるようになっていった。カナは幸せに暮らしてるのかな。そのことがふと頭をよぎった。そのことを揚羽に相談したら、「もう。ダメ。カナさんと琉人君は終わったんだよ。カナさんのことを考えないで!」と強い口調のLINEが来た。そうして僕らは会うことになった。僕は待ち合わせにまた例の近場のレストランを指定した。
 レストランは相変わらず人でいっぱいだった。何しろ日曜の夜だ。天井は相変わらず高くてシーリングファンが回っている。けれどそんなにぎやかな店内なのに僕はなぜか静謐を感じた。何か事件の前の静けさというか、何かが起きる前触れのようだった・・・・僕は先に来て揚羽を待っていた。約束の時間を過ぎても彼女はなかなか来ない。けれど僕は落ち着いていた。彼女は来る。必ず来る。そう確信していた・・・・・ほどなくして寛恕はやって来た。息を切らせて。途中走ってきたのだろう。少し服を乱れていた。
「ごめん。琉人さん待った?」
「ううん。今来たところだよ」
 僕はお決まりのセリフを口にした。揚羽は黒いキャミソールを着ていてまるでキャバ嬢のようだった。それでも僕は彼女が好きだ。今日もきっと僕は彼女と楽しい想いをするだろう。人と人とが出会い、別れ、また出会い、意気投合し分かり会い、やがて一つになる。最近の僕はそんな余裕を持った考えを持てるようになっていた。
「ごめんね。初めてのデートなのに。ちょっと寝ていて起きたらもう約束の時間の三十分前だったの」
「いいんだ。むしろよかったよ。印象的な初デートになる」
「そんな・・・・でもそう言われると救わるるよ!」
「前にここにカナと来たこともあったよ。その時にホテルで喧嘩になってね・・・・・浮気のことで・・・・カナとはそれきりなんだ。君とはそんな最後は迎えたくない。もう僕は向こう見ずな青年なんかじゃない。色々なことを経験した。僕は決して君を話さない。何があっても・・・・・だから一緒にいようよ」
「うれしい。そんなこと言われるなんて。私も琉人君のことを何があっても見捨てないよ。仕事がなくなっても私が支える。病気になっても私が看病する。あなたが寂しくてもあなたには私が居る。だから・・・・ずっと大事にしてね・・・・」
「うん。ところでお腹減った?何食べようか?」
「うん。メニューを見よう」
 そう言って揚羽は水を一口飲んだ。僕らはメニューを見た。様々なパスタが載っている。明太子、カルボナーラ、ジェノペーゼのパスタ、シラスの和風。トマトクリーム・・・・etc
「ようし。私はトマトとチーズのパスタにしよう。チーズが好きだし。琉人君は?」
「僕は明太子のクリームスパゲッティにするよ」
 そう僕は頑固にまた前と同じメニューを頼んだ。店員を呼ぶ。注文をする。料理が来るまでさして時間はかからなかった・・・・揚羽も僕も黙々と食べる。ふと僕は何か違和感を感じた。揚羽の食べ方だ。彼女は普通にフォークとスプーンで食べている。でも誰かに似てるな。誰だろう。
「おいしい!私気に入った!」
「うん。おいしいね」僕は違和感を振り払った。気のせいだろう。でも誰に似ていたんだろう?
「琉人君ってひどいね。元カノと行った店に私を連れてくるなんて」
「それだけ。いい店だからだよ」僕は慌てた。慌てて水を一口、二口飲む。
「それはカナも連れてきたけど。でももう彼女はいないし。揚羽だってカナのこと嫌いじゃないでしょ。友達じゃないか。じゃあ今度はカナと行ってない店に連れてくよ。約束する」
「ほんとうー?」
「うん。必ずだ。約束するよ」
「焼肉がいいなあ」
「カナとも行ったことあるよ。でも今度は違う店にするから」
「どこにするの?」
「新宿じゃなくて渋谷とかにしようか?」
「六本木とかは?」
「ぐ・・・・・誠意を尽くします」
「よろしい」
「じゃあ、この後は・・・・・」
「うん。私を抱くんでしょ?」
「うん。それが大人の流儀だし」
 そうして僕らはホテルへと行くことになった。前と違ってカナとは利用したことのないホテルSに僕は決めた。幸いそこは空いていてあっさりと入ることが出来た。店内はシックで落ち着いた雰囲気だ。そこで僕は彼女を初めて抱く。僕はこういう時はいつも興奮する。当然だ。僕も男だ。目の前のエモノはみすみすとは逃さない。揚羽は緊張しているようだった。一緒にシャワーを浴びる。彼女は豊満な胸をしている。まるでマリのようだ。僕はシャワーを浴びながらその胸を見ていた。これが僕の物に・・・・・そう思うと僕は待ちきれなかった。シャワ浴びるとすぐに彼女とキスをする。そうしてあのマリのような胸を揉む。僕の興奮は最高潮に達した。そうして僕は彼女を抱く。何度も突き、彼女は可愛い悲鳴を上げた。そうしてコンドーム越しに中出しをする。そうして束の間の平和がやってきた。
「よかったよ。揚羽」
「うん・・・・私も。まだやめないでね。もっと無茶苦茶にして」
「うん」そう言い僕は彼女と違う体位を試す。
「知ってる。これプレッツェルディップって言うんだよね」
「何で知ってるの?」
「だって前にもしてくれた・・・・・ううん。やっぱり知らない」
「前にも・・・・・・」
 その時に僕は分かった。彼女の正体が・・・・僕は頭を殴られたような衝撃に教われる。
「じゃあ、君は、君は・・・・」
「そう。私、カナよ」
 衝撃の告白だった。
「だってその胸は」
「豊胸手術したの」
「なぜ。どうしていってくれなかったの」
「だってそう言えば・・・・・またあなたは私を振るわ。だって私浮気癖があるんだもの。しょうがないのよ。私可愛い女の子だし。世の中には沢山の男の子がいるんだもの」
「カナ・・・・ずっと君が好きだった。君がずっと僕の心に残っていて・・・・それが忘れられなくて・・・・・うん。でも揚羽が着て僕の心は大きく揺れたんだ。でもいい。二人が一つなら、何も心おきなく君を抱ける」
 そうして僕は行為を再開する。僕はカナの体の右側を下にして膝をつくとカナの右足にまたがり、カナ自身に挿入した。カナも喘ぐ。歓喜の行為だ。特別な瞬間だった・・・・・やがて行為は終わった。僕らはベッドに横になる。
「揚羽、いやカナ。もう僕は君を責めないよ。浮気は傷つくけど、乗り越えていこう。全ての物を。乗り越えていこう」
「うん。琉人君、改めてよろしくね」
 そうして夜は流れて・・・・僕らは別れる。僕は朝の新宿の通りを歩く。そこに歩いている数人の人々を見る。彼らにあいさつしたい気分だ。そうして僕は新宿の駅から元の自分の家へ、勝利者の気分で帰って行った。ありがとうカナ。ありがとう朝よ。そうして僕らは再び出会った。これから先にはきっと今より平凡で温かくて情けなくて幸福な物語がつづくだろう。

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