転生したから楽しく生きたい

イサ

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アラムは若いおじさん

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 今日の天気は晴れ!
 絶好のテンプレ日和だね!
 きっとこれから俺は自分の持ち前の優しさで事件に巻き込まれて、楽しいことになってしまうんだろう、持ち前の優しさでね!(ないです)

 てなわけで冒険者ギルドにやって来たぜ!
 今は昼を少し過ぎた辺りの時間で、きっと食べ終わったゴロツキ(冒険者)が沢山いることだろう。
 もし絡まれたら、俺のプライドにかけてその相手を倒すしかないよね。
 本当は戦いたくなんてないんだけどなあ、あーやりたくないなぁ。(嘘です)
 だが、仕方ない。
 俺に逃げるの文字はないのだ!
 まぁ戦略的撤退はあるけどね。

 まあそんなわけで、争いにはならないように行きたいと思う。
 まぁ俺がこんな計画を立てているのは、実はちょっと⋯⋯本当にちょっとだけ怖かったりして進まないようにしているからだ。
 実の所、ドアの前でしばらく立っているので、一歩を踏み出したいのだが、怖い。

 だってさ、相手武器持ってるんだよ?  鎧着てるよ?  魔法打ってくるかもよ?
 ⋯⋯それに比べて俺はどうよ?
 手ぶらで(服きてます)私服、魔法は危なすぎてあまり使えそうにない。
 それに加えて4歳だよ?
 勝てる要素ねえー。
 無理ゲーもいいとこだ。
 身体強化使えばいいって?
 相手も使ってきたら差はうまんねーよ。
 魔法で少し怪我させる程度で抑えろって?
 無理無理。
 こっち時空魔法しか使えないんだよ?
 それに転移使ったらギルドの職員に捕まって親呼ばれるわ!

 あー、ここはやはり昨日決めていたお色気⋯⋯ではなく、俺の無邪気さアピールして保護欲を刺激してやらー!
 やってやる!

 無邪気に話しかける→怒らせる→女性の元へGO

 完璧だ。
 我ながら完璧すぎる。
 俺はもしかしたら軍師を目指せちゃうかもしれない。
 知識チートアピールしちゃう?
 俺TUEEEE目指しちゃう?
 よし!
 俺は男だ!
 そして子供だ!
 物怖じせずにレッツラゴー。

 カタンッ
 キー
 カタンッ

 俺は静かに入った。
 ギルドの中を見ると、意外と綺麗で、受付の横には階段、その反対側には扉があり、その上にジョッキのマークがついている。
 人は予想よりも少なく、依頼の掲示板を見ている人と、受付の女性と会話している人、椅子に座って楽しそうに会話している人ぐらいで、期待していたものと違った。

 俺はそれを見てため息を吐くと、依頼を見ているおじさんの元へと向かった。

 「ねえねえおじさん」
 「ん?  おう小さい子供だなぁ。  で、何の用だ坊主?」

 俺はおじさんの言葉を聞くと、悲しそうに目を伏せる振りをした。

 「あ?  お、おいどうしたんだよ?」
 「だって、おじさんが坊主だって⋯⋯」
 「お、すまんすまん!  嬢ちゃんだったのか?  嬢ちゃんの格好が男の子みてぇに見えたもんだから。  ごめんな?  許してくれよ」

 俺はコクリと頷いた。
 ここで念のため言っておくが、俺は男だ。
 だが、まだ子供で顔立ちが母親似なせいか、女の子にも見えてしまう。
 まあ今回はそれを利用しよう。

 「そのかわり、んっ」

 俺は手を出してクイクイッとした。
 それを見ておじさんは首を傾げるが、気づくと悩みだした。
 俺はそれを見て、自分の演技を自画自賛しながら笑顔を作った。

 「冗談だよおじさん。  お金は要らないし、僕は男だよ?」

 おじさんはきょとんとした後に、おじさんは急に笑いだした。

 「ガハハハハッ!  子供と思って甘く見たら騙されちまった。  はぁ、坊主。  お前の歳でそれなら詐欺師に向いてるぞ。  だが、俺もおじさん呼びはちょっとなあ。  俺はこれでも19だ。  お兄さんの方が正しいんじゃねぇか?」
 「おじさんの歳なんて関係ないよ。  おじさんはおじさんに見えたからおじさん。  それと、僕は騙してないよ?  嬢ちゃんも否定してないし、坊主を否定しただけだよ」
 「おー、そいえばそうだったな。  そうかそうか、おい坊主!  お小遣いいるか?」
 「うん!  銅貨一枚でいいよ!」
 「お、そうか。  ほらよっ」

 おじさんはそう言って銅貨一枚を弾いて渡してきた。
 手渡しすればいいのに⋯⋯。
 でも、格好良かったから別にいいか。
 なんたって俺は都合のいい男だからな。

 「それでおじさんはなんで一人なの?  冒険者ってパーティ組むんじゃないの?  ぼっちなの?  仲間はずれ?  それともいじめ?」
 「おいおい、いきなり何を言ってんだ。  別にそんなんじゃねーよ」

 む、でも、お金を簡単に出したんだし、収入はあるのかな?  それなら冒険者としてやっていけてるのかな?  あ、それとも⋯⋯

 「わかった!  お金持ちのボンボンなんだね!」
 「おい坊主!  さすがに初対面で失礼すぎるだろ!  それにボンボンじゃねぇ!」
 「そんなんだ⋯⋯。  それならおじさん強いの?」
 「うーん、まあそれなりだろうな。  それと、俺が今一人でいるのは、今日は仲間に用事があって休みだからだ。  これでもそれなりなんだぜ?」

 おじさんがドヤ顔しながら言ってきた。
 ちょっと所ではなく、まあまあウザイまで入ってきたので口撃しようと思う。

 「おじさん暇なんだね⋯⋯。  休みなのに一人で依頼受けて。  仕事してないと生きていけない人なの?  聞いたことあるけど、程々にね?  ⋯⋯あ、そうか。  うん、彼女もいなくて暇なんだよね?  傷つけてごめんね?」
 「うぐっ、確かに暇なのは認めるが、彼女は関係ねぇだろ」
 「いないんでしょ?  強がらなくてもいいよ?  僕はそんな可哀想なおじさんの友達になってあげるよ」
 「お?  そ、そうか?  ありがとう⋯⋯な?」
 「どういたしまして。  それでおじさん。  僕ジュース飲みたいんだけど、お金がなくて⋯⋯ね?  友達なら、、、いいよね?」

 おじさんは何か得体のしれないものを見る目で俺を見てきた。

 「それが目的かよ!  ⋯⋯お前の親はどうなってるんだよ」

 俺は悲しそうに目を伏せる。

 「お父さんとお母さんは⋯⋯」
 「す、すまん。  勝手に変なこと聞いちまったな」

 俺はおじさんにドヤ顔をした。
 おじさんはそれを見て「ま、まさか」と呟くと、俺はそれに頷いて返した。

 「く、くそガキが!」
 「叫ばないでよ。  おじさんが僕の言葉を途中で止めたんじゃないか」
 「くっ、確かに⋯⋯。  すまんな坊主」
 「うん、僕は優しいからね。  ジュース奢ってくれたら許すよ」

 おじさんは渋々と言った感じでジュースを奢ってくれた。
 なお、受付の横にはテーブルなどが置いてあり、ご飯を注文出来るのだ。

 「それで坊主はここで何してんだ?」
 「僕?  僕は冒険者ギルドがどんな所か見に来たんだよ」
 「ほう?  だが、ギルドに来てもすることねぇーだろ?」
 「そんなことないよ?  ほら、おじさんと会話出来たじゃん。  それに、冒険者がどんなことするのか知りたいしね」
 「まだまだ坊主にははえーよ。  だが、冒険者も危険な仕事ばかりじゃねぇんだぞ?  それに、冒険者がいねぇと、魔物スタンピードが起きちまう。  まあ早死するやつが大半だがな」
 「ふーん。  それでおじさんは冒険者のランクなんなの?」
 「俺か?  俺はBだな」
 「へぇ、それって高いんだよね?」
 「おう!  上から3番目だな」
 「そうなんだ⋯⋯。  なら、おじさんの依頼ついて行っていい?  どうせ日帰りでしょ?  それに、Bランクなら僕のこと守れるよね?」
 
 俺がそう言うと、おじさんは苦悶の表情を浮かべた。

 「⋯⋯ダメだ。  坊主にはまだ早い」
 「冒険者って護衛の依頼もあるんでしょ?  それに、僕は死なないよ」
 「はぁ?  そうやって甘く見てるとすぐ死んじまうぞ?  ダメだ」
 「おじさんのけち!  意気地無し!  ぼっち!  童貞!」
 「おい!  ここでそんなこと叫ぶな!  それに童貞じゃねぇ」
 「え?」
 「おい!  何信じられないみたいな顔してんだ。  それに坊主にはまだ早すぎる」
 「相手とは別れちゃったの?」
 「⋯⋯」
 「今の沈黙はどっち?  どっちの意味で触れてほしくないの?  ⋯⋯まさか娼館?」
 「あー!  うるせぇぞ坊主!  お前にははえーつってんだろ!」
 「あー、別に恥ずかしがらなくてもいいよ?  それに僕は安心したんだよ。  僕もまだ彼女居ないのにおじさんに出来てたらと思うと⋯⋯」
 「そうか。  ⋯⋯?  当たり前だろ!  もっと大きくなるまで待て!」
 「ならおじさんも僕が大きくなるまで待ってね?」
 「いい⋯⋯全然良くねぇよ。  俺はそのときいくつだよ⋯⋯」

 俺はその後もおじさんとたくさん話をした。
 おじさんの名前はアラムだった。
 冒険者のこと、仲間のこと、バカをしたこと。
 この世界に転生してから、普段は身内にバレないように性格を偽っている。
 だからだろうか?
 まるで前世のようにはっちゃけられたのは。
 いや、前世では無口になった。
 元々騒いだり、友達と馬鹿やったり遊んだりするのが大好きだったのだ。
 でも、俺は思春期でひねくれたり、無口になったりした。
 そのせいで馬鹿なことをやることはほぼ無くなっていた。

 きっと我慢していたのだろう。
 だから普段よりもおじさんをからかってしまったのだ。
 寂しかったんだろうか?
 目に映る光景は、日本とはまるで違う。

 夜は暗い。
 魔道具で明かりがつく場所もあるが、ほぼ全体真っ暗だ。

 顔の造形が違う。
 髪は大体黒かったし、全体的に童顔だった。

 言語が違う。
 おはようから、おやすみまで、全部違う。

 違うものが多かった。
 自分のことを知っている人はいない。
 家族とは一歩引いてしまう。

 疲れた。
でも回復する。
 魔力も精神も回復する。
 この能力はなんなんだろうか?
 これがなければ今頃病んでたかもしれない。
 

 この世界で楽しく生きよう。
 そう決めはした。
 でも、その前に誰か、俺のことをわかってくれる人が欲しい。
 誰でもいい。
 誰か俺を慰めて欲しい。
 大変だったね、頑張ったねって言って欲しい。

 今まで気づかなかった心の内がわかった気がする。
 これもおじさんのお陰だろう。
 でも、欲しいものがわかったら、もっと欲しくなってしまう。
 これは知らない方が良かったのかもしれない⋯⋯。


 俺はその夜、久しぶりに涙を流した。
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