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転生シンデレラは貧乳シンデレラ
しおりを挟む――美しい花。
そう呼んでくれたひとが、いた。
それは自分がシンデレラの世界に転生する前の記憶なのだろうか。
魔法使いの囁きが、漣になって脳髄を刺激して、夢のなかの彼女に伝播する。
カミラ・ハヴィエという娘の前世――……
海老原美花、というひとりの日本人女性のことを。
* * *
それは、まるで映画を見ているような不思議な感覚が伴った。
眼裏で流れる色褪せた映像から、カミラはそのときの彼女を識る。
前世の自分は地球という惑星に暮らす日本人だった。
漆黒の髪に漆黒の瞳。どことなく魔法使いに似た見てくれだが、すらりとした体躯から少女の域を脱したばかりの女性であることが見受けられた。
年齢は二十歳くらいだろうか、その世界の彼女はまっすぐな黒髪を無造作にひとつに結い上げて、洒落っ気のない質素な服装で大学と呼ばれる教育機関に通い、筆記用具で板書をノートに書き込んだり、スケッチブックに鉛筆でさらさらと絵を描いたり、悩ましげに頭を掻いたりしている。
大学は小ぢんまりとした場所で、分類すると美術系の学校のようだった。
海老原美花はそこで、立体デザインを専攻している。
展覧会や公募があれば徹夜して作品づくり。友達と言葉を交わすことも少なく、基本的にひとりで黙々と手を動かしている淋しい女性という印象が強い。
唯一心を許していた存在は、仕掛け絵本作家として有名だった教授だけのようで、何度かお茶を飲んで語り合っている姿が垣間見えた。
彼女は上京してきたのであろう、大学の最寄り駅から徒歩十五分ほどのところにあるちいさなアパートで一人暮らしをしていた。真っ白な部屋のなかには使用済みのダンボールや包装紙が山のように積み上げられていて、生活の場というよりもアトリエに近い印象がある。
冷蔵庫には銀色の缶が無造作に並んでいて、シンクには飲み終えた缶が洗って干してあった。レモンや桃の絵が描かれている缶の中身はたぶんお酒だ。そうじゃなきゃ、あんな風に酔っ払うわけがない。
『――アルコールのちからがあると、なんでもできちゃう気がするの!』
ひとりお酒の缶を飲み干しにへら、と嫌らしく笑う女性の表情が虚空を向く。
なんともまあ、前世の自分は退廃的で厭世的な人間だったことか。
カミラは呆れながら美花の作成した芸術作品を見回し、ハッとする。
――なんで、アレが、ここに……?
* * *
「っあ!?」
息苦しくなって瞳を開くと、悪夢のつづきが待っていた。
――前世の自分が死の間際に作成したアート作品が、よりによってカボチャの馬車だなんてどういうこと!?
皮肉にもその芸術作品にそっくりなカボチャの馬車のなかで、カミラは魔法使いに弄ばれていた。
カボチャの蔓に拘束されたままベッドに縛りつけられた裸体は、なぜか火照っている。気を失っている間に、あちこちを愛撫されていたのかもしれない。それに、口の中に甘いお酒のような残滓が凝っている。キス、されてしまったのだろうか。
「カミラ・ハヴィエ……いや、海老原美花って呼んだ方がいいのかな? 可哀想なお嬢さん」
「や……なにしてるのっ」
「前世の貴女は色恋など見向きもしてなかったものね、絵本の世界に憧れて美術大学に入って構成を学び立体デザインの道を選んだ君は、志半ばで死んでしまったのだから」
「ひぁっ」
身動き取れない身体にふれる彼の手つきは繊細で、くすぐったい。
カミラが意識を飛ばしている間もちいさいと気にしている胸元ばかり悪戯していたのだろう、すでに両方の乳首が真っ赤に熟れて勃ちあがっている。まるで花の蕾のようだなと場違いなことを思っていたら、魔法使いの指先がそこを掠め、更なる刺激を与えてくる。
「ちいさな胸を育てるには、感度を高めることが重要だ」
「育て……る?」
「そう、カミラ嬢は感じて、気持ちよくなって、快楽に従順になればいい」
「で、でも」
「君が決めたことだよ? ――美しい、花のようなひと」
恥ずかしいと訴えるカミラの視線を遮るように、魔法使いから口づけを受ける。ああやっぱり、あたまのなかがふわふわするような甘い果実のお酒に似た味が、彼からする。たぶんこれは、前世で飲んだくれていたチューハイとかいうお酒の味だ。
だけどどうして前世の自分を思い出させるようなことばかりするのだろう、この魔法使いは……
「美しくなんか、ない」
「美しいから、シンデレラの世界に転生したって考えられないの?」
悪い子だね、とでも言いたそうな魔法使いに、ふたたびキスされて、身体を熱くさせる。
「はぅ」
「君はその名前の通り、美しい花だった。カボチャの馬車を遺して逝ってしまうなんて、最期までひどい女性で」
美しい花と彼の口から囁かれると、なぜだろう、心臓がぎゅっと縮まるような感覚に陥ってしまう。
そして繰り返される『カボチャの馬車』という単語。
いま自分が乗っている乗り物のことではないのかと不審に思ったカミラは、思わず魔法使いに問い返していた。
「カボチャの、馬車?」
「……恨み言はやめておくよ。いまは君の胸を育てるのが先だ」
「ゃあんっ……」
そういえば。
ちいさな胸は、揉むというより摘む、という表現が適切なのだということをどこかで聞いた。
いま、カミラのはだかの胸は、白髪の魔法使いの手によって摘まれている。
その姿はまるで、美しい花を摘む無邪気な少年のよう、で――……
「あぁん!」
「胸だけでたくさん感じて、達しておしまい。俺の手で、美しい花に育ててやる……今度こそ」
じんじんと熱を持つ乳首に、彼の唇がふれる。ふぅ、と息を吹きかけられただけでひくひくと身体を震わせるカミラに、魔法使いの甘い声が響く。
「逃がすものか。君は、俺だけのお姫様だ」
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