1 / 13
人形姫と専属技師
しおりを挟む城のなかに、城はあった。
姿形すべてが同じでありながら、大きさがまったく異なる、白亜の城が。
* * *
インゼルは王妃に連れられミニチュアの城の前へ屈みこむ。
大きさは厨房にある大鍋よりはおおきいものの、猫脚のバスタブよりはちいさく、円卓にちょうど乗るくらいだ。
「こちらですね」
確認を取り、手のひらよりひとまわりおおきな扉を軽く、指先で突っつくように叩く。
実在する扉より軽いものの、刻まれた薔薇蔦模様の精緻な扉は、突然の来訪者に驚いたかのように小気味良い音を立てる。それと同時に、鈴の鳴るような声が返ってくる。
「お母さま? いま、そちらへ向かいますね」
「ご心配なく。こちらからお伺いしますよ、リニフォニア姫」
そう言って、インゼルは持ち出してきた鉄製の箱から無骨な工具を取りだし、悪戯っぽく微笑む。
「多少、揺れるかもしれませんが我慢してくださいね」
そしてインゼルはちいさな城の屋根を、工具で外しはじめる。揺れると警告を与えていながら、インゼルは丁寧にネジまわしを使ってひとつひとつ部品を外しているから、思っているほどに城は揺れていない。その器用な手先を見て安心したのか、王妃はインゼルを残して部屋を出て行ったのだろう、キィと静かに扉が閉まる音が響く。
城の内部からその状況を目をまるくして見つめていた少女、リニフォニアはやがて取り外された天井からのぞいた青年に微笑みかけられ、顔を赤くする。
漆黒の髪と夜闇を彷彿させる紺碧の双眸に象牙色の肌。黄金の髪に翡翠色の瞳を持つリニフォニアにとってその容姿は印象的だ。
アッシュグレイの上下は作業服なのだろう、けれど彼が身につけているとまるで紳士服のように洗練されているように見える。
「……あの?」
「へぇ、クリスタルガラスのシャンデリアはビーズ細工で作られていたのか。何から何まで城のものと同じなんだな」
リニフォニアの姿を見つけ、インゼルはひょいと手のひらを差し出す。これはどういうことだろう? 首を傾げるリニフォニアに、インゼルはちっと舌打ちして言葉を紡ぐ。
「すこし城から出ていてくれるか? レンブラント家の人形姫」
有無を言わさぬ口調で、インゼルは手のひらに乗りそうな少女を摘み上げ、城から円卓の上へと放り出す。
「ひゃっ」
ドレスの裾を踏んづけて、リニフォニアはすてんとひっくり返る。それを見てインゼルはハァと溜め息をついて彼女の前へミニチュアの椅子を差し出す。
「まったく、師匠も厄介事押しつけやがって。人形の家の修繕なんかするより、雪崩で家を失った人間のためにつくる方が有意義だってのに……」
王妃がいなくなったのをいいことに、インゼルの口調はくだけている。椅子に腰かけたリニフォニアは不安そうにインゼルを見上げ、おそるおそる声をかける。
「もしかして、あなた」
「ようやく気づいたのか、人形姫。今日から俺がお前の専属技師、インゼルだ」
リニフォニアの前へネジまわしの切っ先を突き付け、インゼルは言い放つ。
「王妃に城の修繕を頼まれたから師匠に代わってここに来たんだ。なのに直すのは城じゃなくて城と同じ形をしたドールハウス! 俺のいまの気持ちがわかるか? 情けないったらありゃしない!」
きょとんとした表情で、リニフォニアは悔しそうなインゼルを見つめることしかできなかった。
10
あなたにおすすめの小説
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
【完結】 嘘と後悔、そして愛
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる