身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,3

03. 身代わり聖女と裏切りの魔術師《1》

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 リシャルトのことは信じたい、けれどヘリーが言っていたことも気になる。ヒセラは戸惑いながらもリシャルトに身体をひらかれる日々に疑問を抱くようになっていた。このまま子どもができなかったら自分は彼に身体を開発されただけで、弟王子のもとに差し出されてしまう。それなのに彼は慈愛に満ちた表情でヒセラをジゼと呼び、快楽を施していく。
 ヒセラが図書室でハーヴィックの建国史について調べていたことを伝えたときも、リシャルトは「そうか」とどこか安堵したような表情を浮かべていた。
 その反応が不服で、ヒセラはその日の翌朝、事前に行き先を伝えずヘリーもつけず部屋を出てしまった。
 彼の真意がわからない。
 それならばもうひとりの王位継承権利を持つシュールト王子に訊いてみたらどうだろう?

「反対はしないが、嫉妬に狂った殿下にお仕置きされても知らんぞい」
「それで避妊をしないで最後までしてくれるのならむしろありがたいわ、ミヒャエイール」
「……ヒセラ、わざと怒らせようとしてるのかえ?」
「だってこのままじゃいけない気がするの。シュールトさまは男女問わず人気の騎士団長でもあるし、事情を話したら何か解決への手がかりを教えてくださるかも」
「まあ、国に殉ずるつもりの騎士団長なら、そう簡単に間違いを犯すとは思わないがの……」

 王立騎士団が常駐している西塔は王城からそれほど離れておらず、魔女の森ともほど近い場所にある。王城の敷地内なので散策する程度ならリシャルトから文句を言われることもないだろう。だが、第二王子のシュールトと会ったと知ったらどんな反応をするのだろう。怒られても仕方ないと半ば開き直りながら、ヒセラは騎士団が常駐する西塔で団長との面会を求める。
 シュールトはまさか聖女本人が乗り込んでくるとは思わなかったのだろう、たいそう驚いた表情でヒセラを出迎え、応接間へ通した。
 男だらけの騎士団だが、想像していたよりも室内は清潔に保たれていた。王城の執務室と呼んでも通用するくらいだ。
 シュールトが用意させたのか、テーブルに置かれた銀の盆のうえには鮮やかな紅色のお茶とほのかにバターの香りが漂うクッキーが出されている。
 魔女の森で毒耐性をつけているヒセラはありがとうございますと素直に差し出されたクッキーに口をつける。口にした瞬間ほろほろと崩れ落ちる食感に、思わず頬が落ちそうになる。紅茶は苺の芳醇な香りがする。センスがいいなあと思いながら、ヒセラはありがたくいただいていた。
 一方のシュールトは毒が盛られているかもしれないとヒセラが考えていたとは思いもよらず、もぐもぐと小動物のようにクッキーを食べる聖女を物珍しそうに見つめている。

「聖女さまの方から訪ねていただけるとは光栄です。このことは兄上には」
「おひのひでしゅが、まほうによるこきゅいんがついておりますのでその気になればすぐひつけられるでしょう」

 お忍びですが、魔法による刻印がついておりますのでその気になればすぐに見つけられるでしょう、とクッキーを咀嚼しながら話すヒセラを前に、シュールトは目を丸くする。
 結婚初夜に心臓へ注がれた魔力の残滓はいまも刻印としてヒセラの胸元にある。リシャルトが傍にいない状態でもこの所有印がある限り彼の目は届いているはずだ。

「刻印、ですか」
「次期国王の権利を持つ者だけが聖女に与えられる所有印のことです」
「そんなものがあるんですね」
「そうみたいです」
「そうみたい、ってご存じなかったのですか?」

 聖女自らが秘密を暴露しているため、シュールトは呆けた表情で彼女を見つめることしかできない。そうみたいです、と気軽に言う時点で大丈夫かと不安になってしまう。
 それでもシュールト自身、ヒセラが偽物の聖女であることを知らないため、どこかしら彼女に違和感を抱きながらも、素直に耳を傾けていた。
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