身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

文字の大きさ
38 / 123
chapter,3

02. 身代わり聖女の疑心暗鬼《3》

しおりを挟む


「歴史上、聖女が実際に結婚した王位継承者ではない者へ身元を預けられ、そちらで王家だけが持つ魔力を引き継ぐ子を産んだとの記述は複数あります。なかには横恋慕した王弟が聖女を奪い、孕ませたというスキャンダルも含まれているのですが、王となる者が病気で子を作れないとか、そもそも聖女と白い結婚をしていたなど、さまざまな事情があるので時期は定まっていないのです……ただ、花鳥公国と緊張状態にある現在、このまま聖女の妊娠が表に出ないと、リシャルト殿下ではなくシュールト殿下を推してくる勢力も出てくると予想されます」
「そんな」

 リシャルトの子を孕まなければ第二王子と王家公認で子作りさせられるなんて、おかしな話だ。けれど、そうでもしない限り、王国全体を守護するあの強大な魔力を次代へ引き渡すことが叶わないのである。
 ヘリーとふたりきりの図書室で、ヒセラは無言で建国史の表紙をめくる。

「妖精王ハーヴィック……その娘の名はヒ×××××ア? 虫食いがひどくて読めないところもあるのね……」
「王の系譜などそのようなものです。ただ、精霊の加護と呼ぶには妖精王のちからが強大すぎるため初代国王は妖精王の娘の婿となり、ハーヴィックの姓を国名にしたのです」
「妖精王の娘が初代聖女ってことになるのよね」
「そうです。その後はマヒの一族へ役割が移っていくのですが、そこで個人差が生まれたこともあって、王家の加護を持ちながらも子をなせない王や王子も一定数登場するとされてます」
「王家が選ぶ次期王位継承者の花嫁イコール聖女の役目を持つマヒの貴族令嬢って認識が一般的なのはそのせい?」
「王家が持つ魔力を引き継ぐ器となりうる聖女の多くがマヒの一族の令嬢だったというのが正しいですね。どこにも属さない魔女でも王家が持つ加護を継承する器の役割を担えるのなら特に問題はないと建国史にも注釈がありますし……まぁ、そういった事態にいままで陥ったことがなかったのが真実みたいですけど」
「タマーラさまはこのことからあたしを?」
「でしょうね。だから」

 至極あっさりとヘリーに頷かれ虚をつかれたヒセラは、そのあとに続く言葉に凍りつく。

「……もし、リシャルト殿下が種無しだと判明したら、その場合、聖女の身元は次の王位継承者シュールトさまへ預けられる。大魔女さまをはじめ王城魔術師一同もそのことは心に留めております」

 リシャルトが本当に種無しだとしたら、聖女がいくら献身したところで子をなすことは無理である。
 当たり前のことを告げられて、ヒセラは項垂れる。

「そう、よね。そのための聖女だもの」

 わかっていた。日夜のリシャルトとの行為は自身の加護の中和と結界強化のためで、けして子作りではなかったことくらい。
 ましてやいまの緊迫した政情を鑑みると、リシャルトが種無しなら早くシュールトに聖女を明け渡せという意見が出ていることもわからなくない。
 それともはじめからリシャルトは自分を弟王子に下賜するつもりで、ヒセラを求めておきながら「君を孕ますつもりはない」などと言い放ったのだろうか。
 疑心暗鬼に陥るヒセラを、ヘリーは申し訳なさそうに見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...