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chapter,4
03. 身代わり聖女と死に戻り王子の過去《2》
しおりを挟む「……ジゼ。言っただろ。俺はひどい男だって」
「リシャールさま」
ヒセラを執拗に抱くのは、彼女が消えてしまうことに怯えているからだと、リシャルトは自嘲する。けれど、死に戻った先でも隣国との緊張状態は変わらず、弟のシュールトは憎きホーグを重用していた。彼が妻子殺害に動いたのはジゼルフィアの妊娠が発覚したからである、それならばいつまでも妊娠させなければどのような反応をするのだろうという考えもリシャルトは持っていたのかもしれない。だが、そうなると別の問題が出てくる――第一王子は種無しだという根も葉もない噂や、第二王子に下賜しろという外部からの圧力だ。
そこでリシャルトはホーグの目的が聖女と子どもの暗殺なのか判断すべく、シュールトに事情を説明し、協力を仰いだ。まさか兄にあたまを下げられると思っていなかったシュールトは自分が信頼している魔法使いが裏切り者だということに衝撃を受けたが、このままだと自分が霊獣リクノロスの封印を無理矢理解かれて“魔女の森”を燃やしてしまうというリシャルトの言葉を信じ、兄の手で二尾の封印を解くことにしたのだという。
「シュールトはホーグが俺の死に戻り前に聖女殺しをしたのは公国命令によるものじゃないかと言っていたが、今日対峙したホーグに聖女への殺意は見られなかった。だが、前回同様に君を犯そうとしていたのは変わらない」
「媚薬に侵された聖女を見て彼が結婚初夜の刻印を剥がすとは思わなかったんですか」
「剥がされてもまた俺が刻めばいいと思ったんだ……けど、まさか魔法で緊縛までするとは……あぁ、ジゼの美しい肌に痕がついてしまった」
「きゃっ」
リシャルトがヒセラに巻き付けていた敷布を剥がして肌を確認していく。ホーグの魔法で縛られた麻縄の痕がうっすらと赤くなっている。そのまま寝台のうえへ身体を押し倒され、はだかにしたヒセラを慈しむように撫でていく。
「遅らせていた媚薬の効果も出ているようだな。ツラいだろう?」
「いえ、それほどでは……ッ」
「もしジゼが俺の子を妊娠していたらホーグは容赦なく君を殺めただろう。そう考えるとぞっとする……」
「リシャールさま……?」
ヒセラはなぜホーグが聖女ジゼルフィアを執拗に求めているのか理解できない。だが、リシャルトは思い当たるふしがあるのだろう。それなのに、確認するようにヒセラの身体を撫でながら、彼はヒセラに問いかける。
「……あの男はなぜジゼにそこまで執着するんだ」
「し、知りません。こっちが聞きたいです」
こういうとき、身代わりの聖女は何も答えられない。
ホーグが言っていたことに嘘がないとしたら、彼は生前のジゼルフィアと結婚の約束をしていたことになる。
けれどジゼルフィアはハーヴィック王国の聖女に選ばれ、リシャルトと結婚することになった。だとすればハーヴィック王家に彼個人が恨みを持つのもわからなくはない。
――でも、だからって敵国を魔物に支配させてハーヴィックと戦争させようとするとか、無理矢理聖女の身体を奪おうとするとか、リシャールさまとの間に子どもがいるなら殺しちゃうとか……まったくもってわけがわからないわ。
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