身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,4

05. 聖女ジゼルフィアと大精霊の祝福(後編)《2》

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「どこに行く」
「“魔女の森”に」
「ヒセラに逢うのか」
「ミヒャエルも行きますか?」
「俺はいい。仔猫に睨まれる」
「仔猫じゃなくてミヒャエイールですよ。それに仔猫と呼ぶにはずいぶん老けてる気がします」

 ミヒャエルと同じく“時”を司る精霊だというミヒャエイールはジゼルフィアの友人で“魔女の森”に暮らしているヒセラの契約精霊だ。ミヒャエルのような二股の尾を持つ真っ白な猫の姿をしていて、ミヒャエルよりも若いのにどこか年老いた印象――まるで別の世界で人生を歩んできた記憶を持っているかのような……がある。ジゼルフィアは何度か顔を合わせているがミヒャエルはミヒャエイールが自分の尾から分裂したのを見たきりである。向こうも「もう二度と逢うことはない」と断言している。あれはもうひとりの自分なりに運命を切り開いているのだろう。
 ジゼルフィアは弱気な発言をする精霊を前に不思議な顔をするが、なにも言わずに部屋を出ていく。

「――ジゼ?」
「猫が喋った!」
「こら、ホーグ。猫ではありません。デ・フロート家の加護精霊ミヒャエル様ですよ」
「にゃあ」

 あれから一時間は経っただろうか。
 ジゼルフィアが出ていった部屋に入ってきたのは、彼女と同い年くらいの少年とその家庭教師。ハーヴィックの王国騎士団に所属するウィロード・イセニアの息子ホーグと王城魔術師フィンリーだった。
 そういえば父公爵に客人が来ているとメイドたちが騒いでいたなと思いだし、ミヒャエルは今さらのように猫のふりをする。
 だが、すでに時遅し。ホーグにはしっかり「ジゼ?」と声をかけてしまったし、フィンリーは魔法使いなのではじめから正体が露見している。

「白々しい精霊だね」
「ホーグ様。ミヒャエル様はハーヴィック王家の霊獣リクノロスに次ぐ上位精霊でいらっしゃいます。必要以上に人間と携わるのを避けているため、そのように見えるのですよ」

 声変わりする前特有のすこし掠れた高い音で、ホーグは猫のふりをする精霊をじっと見つめている。黒髪黒目の夜闇をまとったような少年は、真っ白な毛色の猫の尾に手を伸ばす。

「ぎゃっ、こらっ、やめろっ!」
「しっぽ、ふたつに分かれてる……リクノロスみたい」
「あれは九尾の霊獣だから精霊じゃねぇ」

 むぎゅ、としっぽを容赦なく掴む姿に既視感を覚えながら、ミヒャエルは観念して言い返す。返事があったのが嬉しいのかホーグが破顔する。

「やっと喋ってくれた!」
「少年。俺をデ・フロート家の加護精霊だと理解しての所業か?」
「うん。だって君、ジゼの寿命を奪ってるんでしょう?」

 ぎょっとするようなことを平然と口にして、ホーグはミヒャエルのしっぽが怒りで膨らむのを見てため息をつく。

「ただでさえ彼女は弱いのに、そんな“枷”をつけるなんて公爵家もひどいことをする」
「俺はデ・フロート家の加護を承るときに交わした代償を求めているだけだ。そっちこそジゼをか弱い者だと決めつけるな」

 ミヒャエルが言い返せば、ホーグはそうだね、と素直に頷き、フィンリーに問いかける。

「フィンリー。ジゼの“枷”をはずす方法は公爵家から別の家へ嫁がせること、可能なら彼女が持つ魔力をそのまま包括できる魔法使いが望ましいんだっけ」
「さようでございます」
「それはハーヴィックの国外でも“理”として通用する?」
「ホーグ様の母君がいらっしゃる花鳥の場合は“取引”を行うことで異国の魔法使いとの婚姻が認められております」
「ふーん。じゃあ、ぼくがジゼをお嫁さんにすることも可能ってことだよね?」

 無邪気にホーグが提案すると、フィンリーは困った表情でミヒャエルを見やる。王城に仕える彼は、マヒの一族であるデ・フロート家の一人娘がハーヴィック王家の次期王位継承者の花嫁――聖女となる可能性に薄々気づいている。大精霊の祝福を身に宿し、心臓に爆弾を持ってはいるものの強大な魔力を受け止められる稀有な持ち主は彼女しかいないからだ。だが、いまの段階で決定しているわけではない。
 ホーグの母親は花鳥の魔法使いとして妖精王と“取引”をしている。同じようにホーグが“取引”の末にジゼを支えられるだけの魔法使いとなるのなら、ミヒャエルは結婚しても構わないとしっぽを振る。
 どこか投げやりなミヒャエルの態度に、ホーグがくすくす笑う。そして、フィンリーの前で宣言する。

「決めた。ぼく、ジゼをお嫁さんにする! それで、妖精王に“取引”して、冥穴の魔獣を操れるようになるんだ――!」
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